助けてくれ
武州人也
昔のヤンチャ仲間
「
久しぶりに会った幼なじみ、
……言われなくても、要件はわかる。誠嗣は何者かに恨みを買っていて、祟られてる。それをどうにかしたくて助けを求めに来たんだろう。
だって、誠嗣、両目から血を流した顔面蒼白の若い女をおんぶしてんだもん。これが怨霊じゃなくってなんなのさ。
「なぁ、裕太、お前さ、前に不思議なモン見えたりするって言ってたよな」
「ああ、まぁな」
それは本当だ。昔こいつと裏山の墓場で遊んでたとき、矢がグサグサ刺さった甲冑姿の男が斜面の上からじっとこっち見ててさ。誠嗣に「あそこに立ってる武士の人形みたいなの、なんだろうな」って聞いてみたら、誠嗣はそんなの見えないとか言って。そんで見える見えないの口喧嘩してたら、甲冑男がこっちに向かって歩き出したんだよ。ガシャ……ガシャ……ってね。俺はすっかり震え上がって、泣きながら誠嗣の手を引いて逃げたんだよな。後であの山は戦国時代の古戦場だったってことを知ったんだよな。
あの一件以来、俺には妙なもの……言ってしまえば幽霊が見えるようになった。なんでなのかはわからない。拝み屋とか寺社の関係者とか、そういうのは親戚にいない。だから、血筋に由来するものではないんだろう。
「その……お祓いとか、除霊とかさ、今すぐできたりする?」
「あー、なるほどな。お前、誰かに恨まれてんだろ」
多分、ろくでもない案件だと思う。背中の幽霊さん、誠嗣のことめちゃくちゃ恨んでそうだし。
俺は「見えちゃう」人ではあるけど、お祓いだの除霊だのはあいにく専門外だ。車の修理ならできるんだけどな。俺の本業は機械弄りなのよ。
「そ、そうなんだよ……オレ、このまんまだとマジでヤバいかも……」
「マジでヤバいかもって言われてもなぁ……除霊とかできないし」
「じゃあさ……そういうのできる人とかさ……紹介してくれる? 親戚辺りにいたりしない?」
「いないいない」
「そんなぁ……」
誠嗣ががっくり肩を落としたとき、俺は誠嗣に取り憑いた幽霊さんと目があった。
そのとき……俺の頭の中に、誰か他人の記憶が流れ込んできた。その記憶は、おそらく幽霊さんのものだろう。
幽霊さんは生前、誠嗣と肉体関係にあったらしい。ただ誠嗣は避妊をしてくれなかったようで、まもなく幽霊さんは彼との子を身ごもった。それを伝えると、誠嗣からの連絡は一切遮断されたという。
学生の身分でお金がなく、親にも相談できなかった幽霊さんは、堕胎費用捻出のために借金をしたらしい。けれども些細なミスでバイトをクビになり、新しいバイト先は仕事が合わなくて、無理なシフト組んだせいで体を壊して、借金を返すアテがなくなった。将来を悲観した彼女はとうとう自ら命を絶つ決意を……ということだった。
俺は「見えちゃう」だけじゃなくて、こんな風に生前の記憶を一方的に送りつけられたりもする。なんだろう、他の人たちにはないアンテナみたいなのが俺には備わってて、幽霊さんたちはアンテナ持ってる人間を見ると「かわいそうな私の話を聞いて!」みたいな感じで記憶を送信してくるのかな。
「はぁ……」
ため息しか出なかった。片方の言い分だけで物事を判断するのはよくないが、少なくとも激しい恨みを買うだけのことを誠嗣はしでかしたんだろう。全部本当だったとしたら、救いようのない外道じゃないか。さっさと回れ右して帰ってほしい。
「俺は何もできないから。自分で探したらどうなんだ? 除霊とかしてくれる人」
「もうやったよ!」
誠嗣は近所迷惑になりそうなほどの大声で叫んだ。
「自分でそういう人探したけどさぁ、前金で五百万、耳揃えて出せって。そんなんムリに決まってんだろ!」
激昂した挙げ句、誠嗣は泣き出してしまった。大の大人が情けなく泣き喚いてるのを見て、俺は少しだけ、こいつが憐れだと思った。
……いや、可哀想、だというなら、コイツのせいで自死に追い込まれた幽霊さんの方がよっぽどじゃないか? 誠嗣は危ない目に遭ってるらしいが、結局それは自分の蒔いた種なわけで。
「とにかくさぁ、俺じゃ何もできないんだって」
「ああ、もうわかったよ」
さっきの勢いはどこへやら、誠嗣はガックリと肩を落として玄関まで歩いていった。そして、そのままさよならも言わずにドアを開け、出ていってしまった。
……いや、なんだ今の。ウソだって言ってくれよ。昔の誠嗣は俺のヤンチャ仲間で、大人に叱られるようなこともたくさんしてきたけどさぁ、そこまでひでぇことやれる人間じゃなかったじゃんか。
ていうか皮肉なモンだよな。俺は彼女いない歴イコール年齢で、親に孫の顔せびられたところでその二つ前ぐらいの段階でつまづいてるってのに。そんな男に、孕ませた女捨てて祟られたヤツが助けを求めに来るのっておかしな話だよな。
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