第51話 赤の他人に5千万貸し 神様にされた

 突然に変貌した姿は、あの日の夜、宮が表に放り出された時と同じった。

 そのゴリラの雄叫びは、周りいる人間さえも怯えるほどだ。

「すっすいません。つい悪気があって言った訳じゃないんです」

 思わず宮寛一は謝ってしまったが、果たして謝るほどの事だったのか?

「まぁな俺が偉そうなこと言っても信用しないだろうな。そうだ宮さん俺の所に来いよ。きっとスッキリさせてやるぜ」

「はあ?」

 宮寛一は怖いのが半分と、次の四分の一は勇気を絞り、最後の四分の一は自棄気味になっていた。

「それじゃ山城さん、いいですよ。何所でも行きましょう」

 開き直った宮を見てアキラは「おっ自棄になっているな」思った。かくして二人は、山城御殿のマンションに足を向けた。もっとも前のボロアパートなら行きたいと言っても断った事だろう。宮寛一はアキラがどんな所に住んでいるか興味もあった。親と一緒なら一戸建て、またはマンション。良くても中流家庭と思っていた。処が着いた先は、真新しい高層マンションだった。


 更にマンションの豪華なエントランス、安っぽいマンションとは作りが違う。そのマンションの部屋に案内された宮寛一は驚いた。なんと言っても、まだ三十には程遠い年齢で無職とくれば貧乏長屋を想像していたからである。アキラは宮の驚く表情を見て、優越感に浸っていた。

「どうだい宮さん俺がアンタに五千万円貸してやると言ったらどうする」

「えっえっ! 山城さん。ごっ五千万ですよ。五万円じゃないんですよ」

「分かっているよ。宮さん俺だって大人をからかう気なんて毛頭ないよ。訳は言えないが、金は俺が出してやろうじゃないか。おっと言っておくが決して悪い事して貯めた金じゃないぜ。どうだい信用するかね」

 宮寛一は次の言葉が出ない。どう信用しろって言うのだ。まさか旅館を乗っ取ろうなんて考えてはいまいかと、ほんの数秒の間に宮は、あらゆる想像をしてみたが無職の若造が金持ち? やっぱり理解不能の答えが出た。しかも得体の知れない人間から大金を借りる訳には行かない。まさか高利貸し商売でやっているのか疑いたくもなる。

まして素性すら良く分らない人相も良くない。何故それなら自分の住処を教える必要があるのだろうか。入る時に確認した表札も間違いなかったから山城の部屋だ。

返事に困っている宮を見てアキラは、やっぱり信用しろって方が、無理があると感じた。

立場が逆でもアキラ自身も同じだろう。さてどうやったら信じて貰えるだろう。宝くじの当選金と言えば納得するだろうか。しかし、母にも友人も言えない事を他人に言える訳がない。


 今度はアキラの心の中で葛藤が始まった。考えているうちに、アキラの単細胞血管が切れそうなってきた。

「まあ無理もないなぁ、信用して貰うには、やっぱりアンタの所で働くしかないんじゃないか。給料はいらないけど泊まる所と飯が喰えればいい。金を返し時は旅館経営が上向きになった時でいいから、どうだい」

「はぁ、それは有り難いですが、山城さんのご両親とかに承諾を取らないと……」

「そうか来たか。残念ながら親の承諾もいらないし自分の金をどう使おうと自分で自分の責任を取れるから関係ないよ」

 確かに子供でもないし立派な大人だ。そんな考えもあるかぁ? 宮寛一は倒産するかどうかの瀬戸際だ。アキラの話は、宮にとって何ひとつ損する事はない。

 損するのはアキラの方で、話が旨すぎるから気持ち悪いだけの話。こんな美味しい話を蹴ったら一月後には倒産が待っているだけ。

 失敗したから金を返せと言っても、旅館さえも抵当権が付いている始末。一円たりとも戻って来ないだろう。まさか命を取ろうって事はないだろう。恨まれる覚えもないし、殺すくらないなら金を貸す意味がない。どうせ降って湧いた夢の金。勝負を掛けるしかなかった。

「わかった山城さん。その有り難い話を受けさせて下さい」

「そうか信用してくれるか、俺の金は悪い事して得た金でないし安心してくれ。いずれ話し機会があったら話すが信用して貰うしかない。よし! そうと決まったら宮さん近日中に振り込むから届いたら連絡をくれ、その後に熱海に行くが、その条件でいいかい」

「勿論です。あまりにも突然で嬉しさよりも怖さがあったんです。それにしても山城さん大金持ちのお坊ちゃんでは」

「俺が、お坊ちゃん? まぁ勝手に想像してくれ」

「山城さん、本当に本当にありがとう。アンタは神様みたいに見えて来たよ」

かくして神様となったアキラは近日中に熱海へ向うことになった。


つづく

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