第45話 美代ちゃんといざ鎌倉へ
一ヶ月前に買ったばかりで、いきなり高知まで行ったが、まだ走行距離三千キロと新車特有の匂いがプンプンする。今朝は七時に起きて洗車し、車内も磨きに磨きあげた。
予定時間の十分前に環七通りを左折して間もなく世田谷駅に到着した。てっきり改札口から美代が現れると思ったら、駅近くの路上から歩いて来た。その時、美代は黒塗りの高級外車の運転手に手を振るような仕草をしたように見えた。アキラは怪訝に思ったが、勘違いかも知れない。
アキラは白のランドクルーザーで行くと伝えてあったので美代はそれに気付いたらしく小走りで歩み寄って来た。
アキラは車から降りて「おはよう御座います」と挨拶した。
「おはよう御座います。今日は宜しくお願いします」
今日の美代は今まで見た事がないカジュアルなスタイルで下はリラックスパンツに上は淡いブルーのシャツに同色のカーデガンを羽織っていた。
相変わらずの美しさにアキラは思わず小さな溜め息をつく。
「こんな車で申し訳ありません。乗用車と違って乗り心地は良くないですが」
「いいえ、でも車高が高くて良く前が見えます。助手席に乗るのも初めてで、なんだかワクワクします」
「そんなものですか? それでは車の免許はお持ちじゃないのですか」
「ハイ今時としては珍しいですよね。取りたくても父が危ないからと許してくれないです」
「それだけ貴方を大事にしているからでしょう」
「言い換えれば過保護かも知れませんけど。鎌倉も久し振りですが海を見るのは久し振りです。楽しみです。今日は改めて宜しくお願いします」
「こちらこそ。僕も鎌倉は久し振りで、と云うよりも小学生のとき以来ですよ」
「あら、私もです。ではお互いに親と行ったのでしょうかね。私も家族で来たきりで、何処に何があるか記憶にはないですのよ」
アキラも記憶は薄れがちだが、あの時は父も母も仲が良く楽しいひと時だった記憶は残っている。いま振り返ると一番幸せな時だったかも知れない。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます