宝くじに当たった男

西山鷹志

第1話  主人公は身長198センチ 通称ゴリラ

  序章  夢は突然やってくる  


(はじめに)

 誰でも一度は宝くじを買ったら億万長者を夢に見る事でしょう。

 この物語は体格に恵まれたものの、その才能に目覚めずに宝くじが当ってしまった男が、どう変貌して行くのか? そんな波瀾万丈の物語です。

 人間の脳細胞の働きは、一生に十%程度しか一般の人は使われていないと言われております。

 当然残りの九十%は使わられぬままに生涯を閉じてしまう事になります。

 自分は平凡な人間であり、人より劣ると思っている人もいるでしょう。

 もし自分の脳細胞があと一~二%でも向上していたら人生は変わるだろうか。

 東大を主席で卒業しノーベル賞も夢じゃなくなるかも知れません。

 誰にでも運はあります。きっと彼方にもチャンスが来ます。

 それでは主人公になったつもりで読んで戴ければ幸いです。

 人間は進化する生き物です。(いつどこで目覚めるか)これはロマンです。

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  物語は平成十七年携帯にワンセグが付く頃から始まる。

「山城くん。ちょっと総務部に行ってくれないか部長がお呼びだ」

 課長に言われて山城旭は嫌な予感がした。

 気が進まなかったが、総務部の部長の所へ重い足取りで歩いて行った。

 重いはずだ。体重が九十八キロの巨漢である。それでも痩せて見えるのは何故?  

 コンコン「失礼します」

 「おっ山城君ご苦労さん」

 そう言われて総務部の奥にある応接室に通された。

部長と山城の前に、お茶が運ばれて来たが、どうも飲む気にはなれない。

 お茶を持ってきた総務の女性社員が帰り際にチラリと山城を意味ありげに見た。

 その眼は、あぁ可哀想にこの人も……と、そんなふうに山城には思えた。


 「山城君。最近どうだね? 実は……相談なのだが、いま我が社も景気が悪くてねぇ、我が社を船に例えると、このままの状況が続けば座礁しかねないんだ。そんな時に君みたいな将来性がある若者を会社の犠牲にはさせたくないと思うのだがねぇ」

 予想はしていたが目の前で言われて一瞬、頭が真っ白になった。だが無情にも部長の言葉は続く。

 「どうかね。ここはひとつ心機一転して新しい仕事に就いてみてはどうかな? でっ私の知り合いの会社なのだが、行ってみる気はないかね。先方も歓迎すると思うがね」

 山城はハァと言うのがやっとだった。

 やはり総務部長だけあって、話しの切り出し方が上手い。

 いやここで褒めてどうすると言うのだ。

 たとえ山城が『いや、この会社で頑張らせてください』と言っても多分、無駄だろうと、いうことくらいは山城にも分かる。

 最後に部長は紹介先の会社案内と紹介状を渡してくれたが、それは建前だろう。

 山城は大学を中退して中途採用された。いわばウダツの上がらない男だ。

 そんな自分が一流企業に入れたのは奇跡のようなものだった。やっぱり俺見たいな奴は経営が悪くなると真っ先に切られる運命なのだろう。

 言われるまでもなく自分でも認めていた。会社では特に落ちこぼれとまでは行かないが、この会社にあと三十年勤めたとしても、万年係長止まりだろうと自他ともにそう思っている。

 山城は腹を決めた。(必要とされていないなら自分から辞めてやる!)

 もし部長のお情けに縋って、勧められた会社に行っても建前の話だ。

 『いやあ悪い悪い確かに紹介は受けたがね。バイトならなんとか』

 まぁ良くてそんな話になるだう。後は半年もしない内に契約切れで終り。

 とりあえず再就職先を探してあげたから一流企業としても面目が立つ訳だ。 

 もっと惨めな思いをするだけだと山城は思ったのだ。そしてこの男の波乱万丈の人生は、ここから始まるのだった。


 山城旭(やましろ あきら)二十五才現在無職、彼女も居ない夢も見えず将来性はゼロ。身長百九十八センチ、体重九十八キロ、足のサイズ三十四センチ。

 今のところ、取り柄といったら人一倍大柄な体と若さだけだ。

 どうせクビになるなら先にと、自分から辞めてしまった。アキラの人生はここから一変する。自称二枚目だが他人から見た印象は、超大柄で二枚目には程遠いが、どこか愛嬌がある。そんな印象だ。

 性格は以外と温厚、そして控えめ、しかし一旦キレたら単細胞なだけに野獣と変貌する。愛嬌ある顔から一変し、目は充血し大きな口で咆哮するらしい。まるでゴリラのようだとか? プロレスラーに向いている体格はしているが、残念ながらその体格を活かす能力は持ち備えていない。誠にもったいない。ただこのままではウドの大木だ。 


 それでも特をする事もある。もっとも、今はデカイだけであるが。

 街で人にぶつかって怖いお兄さんが、アキラをよく見もせずに怖いお兄さんは勢いで絡んで来たことがあった。

 「こら! ワレ何処を見て歩いてやがる。ア~~~」

 アキラは「あっ、どうもすいません」とその怖いお兄さんの、はるか頭上から謝ったのだ。そりゃあ驚いたのは怖いお兄さんの方だった。

 まるでゴリラが間違って街に出てきたような風貌に度肝を抜かれた。

 怖いお兄さんも、さすがにゴリラとは戦いたくなかったらしい。だが威勢だけはよかった。

 「バッカ野郎! きっ気を付けろよ」と

 そう言いつつも、そそくさと逃げるように立ち去って行った。しかしアキラは違った。

 「なんだ! あいつ謝ったのに態度悪いねぇ~まったく」

 そして損する事もある。アキラも年頃だ。そりゃあ彼女の一人も欲しいだろう。もし街で女の子に声でも掛けようものなら女の子は殺されると思って百十番通報でもされるのが関の山であろう。と、他人でさえ気の毒になる始末だ。


 アキラは古びた二階建てのアパートで一人暮らしをしている。

 東京都の板橋区にその住居はある。家賃四万八千円(風呂なし)六畳と三畳に小さなキッチンとトイレだ。本当は二階に住みたかったのだが、大家がその体格ではアパートが潰れると言うので一階となった。一・二階あわせて八部屋あるアパートで、アキラの部屋はそのアパートの玄関から一番近いところだ。これには理由があった。

 物騒な世の中で下町ほど危ないとされる昨今、アキラの部屋の窓を開けると、表の通りが見える。

 アキラにはやはり狭い部屋という圧迫感で、普通の人は寒い時は窓なんか開けたりしないが、しかしアキラは違った。

 寒いことより圧迫感が嫌で冬でも窓をよく開けていた。そしてこの風体だ。ここに大家が目を付けたのだ。ここ数年の間に二度は空き巣一度強盗が入っている。だがこんなゴリラみたいな男を見たら泥棒もここは止めて起こそうと思うだろう。

 つまりは用心棒代わりという事で大家も直接、アキラには言わなかったが。

(大家から指定された部屋)ということで、他の部屋より五千円安かった。

 まあ安いにこした事は無い、とアキラは用心棒代わりと思ってもいない。だから深くは考えていなかった。


 アキラの両親は大学二年生の時に離婚した。よく喧嘩する親だとは思っていたが、まさか離婚とは、その余波をモロに受けてアキラは大学を中退。しかしこれは親のセイ? だけでもない。大学に辛うじて入ったものの、この時点で将来がまったく見えず、ただ人一倍大きな体を持て余して、小さくなって世の中を見廻していた。

 人が思うには、こんなゴリラ男が浪人生活して公園でもうろついていたら、きっと警察か動物園に(ゴリラが野放しになっているから捕獲して欲しい)などと通報されるのが関の山だろう。今や、動く粗大ゴミ同然となってしまった山城旭であった。

 時には人から恐れられ、時には重宝がられ、男(山城旭)は二十五才の青春をただ、ただ無駄に生きているようだ。


つづく


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