第119話 重力

 俺の視界に映ったのは大きな……何だ?


(何かを膨らませているのか……?)


 それがあるのは魔物達を追い詰めようとしていたあの広場だ。行ってみるか。


「アリステッド男爵!」

「リィナ、どうしたんだ」


 冒険者ギルドにいたんじゃないのか?


「早く広場に! あれは普通じゃない! 魔力が……」


「分かった!」


 リィナがこんなに慌てているなんて初めて見た。よほどのことが起こっているに違いない!


(行くぞっ)


 広場まではさほど遠くない。すぐに着けるはず……


「フ……アリステッド男爵!」


 レイア……じゃなかった。えっと……


「エーデルローズ、これは?」

「分かりません。しかし、良くないものです」


 だな。何か嫌な感じがヒシヒシと伝わって来るぜ……


(コイツ、どんどん大きくなってる……)


 しかし、どうしたら……迂闊に攻撃するのもヤバい気がするな。


「愚かな人間達よ……」


 ん? 声……


(一体どこから?)


 いや、それより今は……


「お前は何者だ! 一体何をしようとしてるんだ!」


「貴様はアリステッド男爵だな……」


 こちらが見えてる……それに俺のことを知ってる!?


「お前には散々邪魔されたが、これで終わりだ!」


 俺が邪魔を……? 何を言ってるんだ?


「今膨らんでいるのは俺の部下だ。そいつはあと五分ほどで自爆する! そうすればお前たちはオルタシュごと海の藻屑だ!」


 なっ……部下を!


(それに後五分で自爆だと!?)


 一体何のために……


「まあ、精々足掻いてくれ。ちなみにそいつを攻撃しても死ぬのが早くなるだけだぞ。アッハッハ!」


 やっぱり攻撃したらマズいんだな。くそ、どうしたら……


「アリステッド男爵!」


 リィナ、追いついて来てくれたのか。


「アリステッド男爵、恐らく今までと逆にあの魔導具から過剰な魔力が与えられているせいでしょう」


 ってことは今までは魔導具の中にいる奴から魔力を吸ってあの魔物を作っていたと……


(あの声の奴……酷すぎるな)


 だが、今は自爆を止める方法を考えないと!


(魔力の供給を断つ……魔導具を壊したらどうかな)


“確かに魔力の供給を断つのは大切ですが、魔導具を壊すのは……中の方と魔導具の間に〔ディバイド〕で境界を引くのは如何でしょう”


 おおっ、流石ミア! 


(俺に何か出来ることはあるかな?)


“リィナ姉様と一緒に魔力を送って頂ければ”


 よし、この話をみんなに伝えて……


「……なるほど。それなら……」


「確かにいいアイディアだけど、中にいる人ねの魔力も同時に何とかしないと……何か刺激があれば五分経たずに自爆しちゃうと思う」


 なっ!


(攻撃したら爆発するっていうのは、それくらい不安定な状態ってことか)


 なら奴が言った五分って時間には何の保証もないな。


「なら、どうしたらいいの?」


「アリステッド男爵が魔導具と中の人との繋がりを経つと同時に中の人から余分な魔力を取り出せれば……」


「分かったわ。なら、その役は私がやる」


「エーデルローズ!?」


「エーデルローズさん!?」


 そんな無茶な! 他者の魔力を吸い出すなんで不可能だろ!


「オスクリタの重力の力なら可能なはず……いえ、私と貴方の力なら、ね」


 エーデルローズことレイアがそう言うと、オスクリタは光を反射してキラッと光る。まるで返事をしたように見えたが……気のせいだよな。


「オスクリタの重力は重くする力ではなく、引き付ける力だってことを最近知ったの。今まではより強く地面に引き付けらせていたけど、オスクリタ自体に引き寄せることも出来るはず」


 確かに理屈はそうだが……


 ゴゴゴ……


 ヤバい! 地響きが激しくなってきた! いよいよ時間がない。


「……迷ってる間はないな。よし、やろう」


 俺の右手とリィナで聖剣フェリドゥーンを、左手とエーデルローズ(レイア)で魔剣オスクリタを握る。こうすれば、俺はどちらにも魔力を注ぐことが出来るはずだ。


「三、二、一、行くぞ!」


“〔ディバイド!〕”


 ミアがギフトで魔導具と中の存在との繋がりを断つ。そして、その瞬間、レイアと魔剣オスクリタが力を解き放った!


「アアアッ!」


 エーデルローズ(レイア)が悲鳴を上げる。今、彼女はオスクリタと一身同体。オスクリタにかかる負荷は彼女にもかかるのだ。


(俺も負荷を引き受けられたらいいのに……っ!)


 だが、オスクリタと繋がっているのはエーデルローズ(レイア)だ。俺は二人の力を魔力で強化することは出来るが、逆にそれ以上のことは出来ない。


「っっっ!」


 頑張れ、レイア! 


「アッアッアッ!」


 頑張れ、オスクリタ!


「ァァァッ! イ、イッ……」


 頑張れ、二人共!!!


 ズンッ!

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