第108話 肩叩き

「お怪我はありませんか、パラディン様、ミア様」

 

 戦闘が終わると聖獣メルヴィルが真っ先に声をかけてきた。


「大丈夫です。頂いたスキルのおかげで無事です」

 

 あ、そう言えば、俺はまだ名乗ってないな。


「お役に立てて光栄です。それにしても見事な戦いぶりでした。流石フェリドゥーン様のマスターですね」


「ありがとうございます。あ、遅くなって申し訳ありません。フェイと言います」


「私こそ先にお名前をお伺いすべきところ、申し訳ありません」

 

 いやいや、多分俺があの魔槍のことを聞いたからだよな。


「まずは傷口を回復魔法で治しますね。〔ピュアヒール〕!」


 魔槍は化身を倒した後、砕けて砂になった。なので、後は魔槍の刺さっていた傷口があるだけだ。


(ふう……これでよし)


 回復魔法が使えてよかったぜ


「それにしても、あの魔槍の化身の力……普通じゃなかったですね。マスターでなければ倒せなかったのではないでしょうか」


「ええ。失礼ながら全快とは言えないフェリドゥーン様では厳しいかと思っておりました」


 確かにLvが無茶苦茶だったしな


(パラメーターが俺以上なんて豹炎悪魔(フラウロス)以来だな)


 まあ、貰ったスキルを試すいい機会にはなったが……


「確か〔超鑑定〕で見た時は魔将星とか出て来たような……」


「「魔将星!?」」


 おおっ、どうしたんだ!?


「まさか奴らが動いてるとは……魔王の復活までまだ時間があるはずなのに!」

 

 え……魔王!?


(確か聖剣アロンダイトは復活まではまだ三十年はかかるとか言っていたような)


 不滅の魂を持つ魔王の配下、魔人は他の生き物とは比べ物にならないくらい長い時を生きるらしい。奴らにとっての三十年はそんなにながくないのかも知れないが……


「……メルヴィル様は今回の件、魔王復活を早めたい者達の仕業だと思われるのですか?」


「確証はありません。にしては回りくどい気もします。私を弱体化させれば、辺りの海は荒れ、人の交易にも支障は出るでしょうが、それで魔王の復活が早まる訳ではありませんから」


「なるほど」


 まあ、だとすると目的がよく分からないな。


(オルタシュの人は困るだろうが、人類全体に精々嫌がらせ程度にしかならないし……)


 魔人、しかもその将である魔将星がわざわざそんなことをしに来るというのが謎だ。


「この件については私の方でも情報を集めてみま……っ!」


「大丈夫ですか、メルヴィル様!」


「すみません、ミア様。まだ傷口が疼いて」


「無理はなさらないで下さい、メルヴィル様」


 確かあの魔槍には魔力、生命力の循環を乱す効果があるって〔超鑑定〕では出ていたな。傷が治っても乱れたものが即治る訳ではないよな……


「すみません。あの魔槍には魔力、生命力の循環を乱す力があるそうです。魔槍を破壊してもその乱れ自体は残っているのでしょう」


 どうにか出来ないかな……


「大丈夫です、フェイ様。循環は乱れてもまた戻るものです。時間とともに戻っていくでしょう」


「まあ、確かに循環を乱す原因はもうないのですから、時間があれば戻るとは思いますが……」


 何か出来ることはないかな……


「そう言えば、マスター! リィナ姉様からマスターは肩叩きの達人だとお伺いしました!」


 肩叩き……確かにリィナやジーナさんは常連客だが。


(肩叩きは血行を良くするが……)


 魔力や生命力の循環にも関わりがあるか……?


「肩を叩いて血行を良くするんです! マスターは凄いんですよ!」


「おおっ、それは凄いですね」


 まあ、確かに腕に多少覚えはあるが……


「失礼かもしれませんが、お願い出来ればありがたいです。早く力を取り戻して海域を正常化したいのです」


 聖獣メルヴィルの声は真剣だ。多分、大王烏賊(クラーケン)を呼び込んでしまったことに責任を感じているんだろう。


(何とか力になりたいが……)


 問題が一つある。そう、大きな問題が……


「やるのは構わないけど、ちょっと手が届かないかな……」


 聖獣メルヴィルは体長何十メートルあるか分からない巨体。人間の俺とはサイズが違い過ぎる。


「あ、それなら大丈夫ですよ、フェイ様」

「へ?」


 その瞬間、辺りに光が満ちた!


(なんだ!!!)


 そして光が収まった時には……


「これなら大丈夫ですよね、フェイ様」


 眼の前にいたのは海のようなスカイブルーの髪を持つ美女。


(聖獣メルヴィルがミアみたいに人化したのか。だが……)


 問題なのは……美女が何も着ていないこと! つまり、全──


「メ、メルヴィル様! 服を!」

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