第109話 帰還
「フク?」
美女が首を傾げると揺れるものが二つ。まるでそれは……
「えっと、こういうものです!」
ミアが自分の服の裾を掴んでアピールすると、メルヴィルさんはミアの方を向いて身を屈める。すると位置関係の都合で下半身が俺の方に突き出──
「ミア様がお召しになっているのが“フク” しかし、なぜ私が……」
細くくびれた腰から視線を下にやると──
「とにかく急いで下さい!」
“マスターは後ろを向いてください!”
はっ、しまった!
※
「じゃあ、行きますよ」
「よろしくお願いします」
辺りにあった貝殻で胸と腰を覆っただけのメルヴィルさんが背を向ける。成熟した女性のみが持つ色香はジーナさんのそれさえ凌駕するほど……
(だ、駄目だ! 余計なことは考えるな!)
そうだ。俺はメルヴィルさんの不調を取り戻すことだけを考えれば良いんだ!
すっ……
無心で肩に手を伸ばす。
(滑らかだな……)
だが、煩悩はこれで終わり。俺は目的を実行するただのゴーレムとなってメルヴィルさんの肩を揉みほぐし始めた!
「っ……!」
凄い凝り……これ程のものには出会ったことがない!
(ならここも!)
未知の相手……ならば最初から全力だ!
「う……あっ!」
よし、ここか!
「あっ……あっあっあっ!」
何て反応の悪さ。常人ならもう終わっていてもいいレベルだぞ!
(初めてだろうし、まだ感じにくいのかもしれないな……)
だが、まだまだここからが本番だ!
「アンッ! アンアンアンッ! ……ダメ……ダメです、これ以上は!」
駄目だ、ここで止めるわけにはいかない!
「あああっ! ……フェイ様っ、フェイ様っ!」
よし、これでどうだ!
「アッ、アッ、アアンッ!!! アンッ! アアアッ!」
ふぅ……
「っはぁ……はあはあはあ」
肩で息をするメルヴィルさん。さて、次はどこをほぐそうか……
※
「ありがとうございます! 体が信じられなくなるくらい軽くなりました!」
「良かったです」
顔色も良く、どこから見ても健康そのもの。多分例の淀みは完全に無くなったのだろう。
「これならこの海域に入り込んだ邪なものをまとめて排除出来そうです……ハッ!」
柔らかな、だが魔を滅する白き光がメルヴィルさんから放たれ、辺りへと急速に広がっていく……
(す、凄い!)
これがメルヴィルさんの本当の力か。ミアも一目置くわけだな!
「これで大丈夫です。邪なものは二度とこの海域に入れさせません」
おおっ、メルヴィルさんの瞳が燃えてるぜ。
「長らくお世話になりました。まだお話したいことはあるのですが、そろそろ戻らないとお仲間が心配することでしょう。一旦船まで送りましょう」
そうか……皆は俺が溺れたと思ってるかもしれないな。急がなきゃ!
※
(アバロン視点)
「だから俺が大王烏賊(クラーケン)を倒したんだって!」
皆が大王烏賊(クラーケン)の死体の処理と姿が見えない冒険者の捜索で忙しくする中、イーサンは必死にそう主張しているが、誰も聞いていない。
いや、一人だけいるか……
「やめろ、イーサン。アリステッド男爵が戻れば分かることだ。皆にも、君が吹き飛ばされたところやアリステッド男爵が果敢に戦っていたところは見えてい──」
イーサンを必死に諌めているのは……服装から見てギルド長っぽいな。オルタシュの冒険者ギルド長か?
「あいつはズルだ! 俺が大王烏賊(クラーケン)の固有能力で攻撃を封じられていることを知ってて……」
「イーサン、固有能力とは何だ? しかも、攻撃を封じられるとは一体どういうことだ?」
イーサンの話はちんぷんかんだ。何言ってるんだよ、こいつ?
「アリステッド男爵はどこに……」
「まさか海中に引き釣りこまれて……」
「いや、アリステッド男爵なら必ず生きてるはずだ」
「しかし、海中じゃ息が出来ないぞ」
船員達は作業しながらそんな会話が繰り返している。大王烏賊(クラーケン)と戦った後、アリステッド男爵とかいう冒険者が行方不明になっているらしいのだ。
(アリステッド男爵って確かフェイのことだっけか)
まあ、あいつは悪運が強いし、生きてるかもな。
「おい、見ろ!」
船員の一人が海中から海面へと浮かんでくる白い何かを見つけて騒いでいる。何だ、一体……
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