第76話 結末──その2
「ただいま、お兄ちゃん」
あ、リィナが帰ってきた。
「ルーカスさん、クラウディアさんの具合はどう?」
「大丈夫だよ。今日からもう面会出来るって」
ルーカスさん、クラウディアさんと言うのはリィナのお父さんとお母さんだ。封印していた豹炎悪魔(フラウロス)──厳密にはそれが変化した存在──が逃げ出したため、封印がほぼ不要になり、解放されたのだ。
勿論、封印から解放されたから即、日常生活とはいかず、療養所で休息や検査、治療を受けていたのだが、ようやく療者の許可が下りたらしい。
「じゃあ、昼を食べたら俺もお見舞いに行こうか」
「うん、お父さんもお母さんもお兄ちゃんと話したいって」
ちなみにリィナは療養所の生活に必要な荷物を届けるために何度か顔を出している。長い時間ではないが、二人にも会って話が出来ているようだ。
※
「フェイくん、何から何まで世話になったね」
ルーカスさんは俺が病室を訪問するなり、そう言って頭を下げた。
「いえ、お世話になったのはこちらの方です」
子どもの頃、父母と共に命を救われ、この間の豹炎悪魔(フラウロス)でも力を貸してもらっているのだ。
「いやいや。正直、君がいなければどうなっていたか分からないよ」
「私達ではあの人を止めることは出来ませんでしたし」
クラウディアさんの発言で場はちょっと沈み込んだ。リーマスの住民でありながら封印を破壊しようとしたアバロン達は今……
「そう言えば、お父さんとお母さんはいつ頃家に帰ってくるの?」
リィナが空気を変えようと話題を変える。すると、クラウディアさんが笑顔で答えた。
「後一週間くらいで退院出来ると言われたわ」
「良かった。じゃあ、退院する時にはケーキでも焼くわ」
「まあ、ケーキ! リィナ、随分お料理が上達したのね」
そう言えば、リィナが料理を始めたのは俺と暮らすようになってからだって言ってたな。
「フェイくん、ちょっといいかな」
お料理談義で盛り上がるリィナとクラウディアさんに隠れるようにルーカスさんがそっと俺に声をかけた。
「ええ」
俺はそう答え、促されるままに病室のテラスへと向かった。
「すまないね。ノルドさんからは“自分が言う”と言われたんだが、私から頼むのが筋だと思ってね」
何だろう?
「君も知っての通り、豹炎悪魔(フラウロス)が変異した何者かは何処かへ逃げた。追跡をしなければ行けない」
「そうですね」
今、事態の収拾と共に彼女達の行き先についての情報収集などが行われていると聞いている。ちなみに大体の方向はミアが分かるらしいので、既に伝えてある。
「本来なら私達が行くべきなんだが、私達にはまだLvとスキルが半分程度しか戻ってないんだ」
「!」
まあ、それはそうか。何年も封印のための触媒になっていたんだ。封印から解放されたといっても直ぐに元通りという訳には行かないよな。
「そこで、君に奴らの追跡をお願いしたいんだ。私達がしたことの尻ぬぐいをさせるようで申し訳ないんだが……」
そう言ってルーカスさんは深々と頭を下げるが、ちょ、ちょっと待ってくれ!
「尻ぬぐいだなんて、そんな! 俺がやったことですから、追跡には立候補するつもりでしたから」
それに彼女達の行き先はミアが分かるんだし、俺が行くのが一番現実的だろう。
「しかし、君は長年街が、いや国全体が抱えていた問題を解決してくれた英雄だ。なのに更にここから仕事をして貰うのは……」
「英雄というのはルーカスさんやクラウディアさんのことでしょう。俺はたまたまあの場にいただけです」
俺が豹炎悪魔(フラウロス)を何とかしなきゃと思ったのはリィナがいたからなのだ。
「それにリィナにはご両親との生活を楽しんで欲しいですし」
「まあ、そこについては分からないが……」
ん? どういうことだろう?
「分かった。じゃあ、君の好意に甘えることにしよう。だが、君一人に任せきりにするわけじゃない。私の方でも出来ることは全てさせてもらうよ」
「ありがとうございます」
ルーカスさんはそれから旅の段取りなどについて細かく教えてくれたのだが……
(無茶苦茶綿密な計画だな……)
目的地は勿論、食料などを何処で補給するかまで計画済みとは……ルーカスさんの“出来ることは全てさせてもらう”というのは嘘じゃないな。
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