第74話 二つ目のギフト
“えっと……つまり、今ある境界?を取り払ってからなら豹炎悪魔(フラウロス)を分割出来るってこと?”
“はい”
リィナの問いにミアが頷く。二人は分かってるみたいだが、俺は全く話について行けていない……
(つまり、どういうこと?)
若干情けないが、今は非常時だ。下らない見栄は捨てよう。
“先ずは豹炎悪魔(フラウロス)に現在ある境界、肉体と精神の境界を取り払います。その上で再び境界を設定し、豹炎悪魔(フラウロス)を分けます”
(肉体と精神の境界を取り払う……)
そんなことが。あれ、でも目の前の豹炎悪魔(フラウロス)は精神体なんだよな?
“封印が弱まっている今なら封印内にある肉体にも干渉出来ます。勿論、封印を一度解くようなものですが……”
それって豹炎悪魔(フラウロス)はどうなるんだ? いや、それよりもかなり危険な賭けだな。下手をすれば豹炎悪魔(フラウロス)が自由になるってことだもんな。
“危険な賭けだが、もうそれしかないだろう。どの道、封印はもう半刻も持たない”
は、半刻……後三十分足らずで封印が解けるのか!
“私達は何をしたらいいの?”
“境界を取り払うには私の二つ目のギフトを使う必要がありますが、まだ力が十分ではないので時間がかかります”
そんな大技を使って大丈夫なのかな……
“大丈夫です。リィナに美味しいご飯を作って貰えれば元気になります”
うっ……見透かされてしまった。気を使わせたな……
(現状、これしか手段がないんだ。迷ってる場合じゃない……)
どの道、ここで豹炎悪魔(フラウロス)をどうにかしないと俺達だけでなく、リーマスそのものが立ち行かなくなるんだ。やるしかない!
“私達も手を貸しましょう……”
穏やかな声と共に人影が二つ現れる。幻のように輪郭が曖昧なその姿を目にしたリィナが息を飲むのが分かった。
“お父さん、お母さん……”
“リィナ、大きくなって……”
女性の人影から涙が落ちる。が、男性の人影がそんな二人を戒めた。
“二人共、気持ちは分かるが、今は豹炎悪魔(フラウロス)が先だ。ノルドさん達もそろそろ限界だからな”
“ごめんなさい、あなた”
“さて、その時間稼ぎだが、私達が引き受けよう”
(ありがとうございます!)
これなら何とかなるか……いや、何とかしてみせる!
(そう言えば、今までとは大分雰囲気が違うな)
今までは誰の声かも分からないし、姿さえ見えない感じだったのだが……
“封印は私達自身を触媒にしたもの。封印の大部分が解かれた今、私達も自身の力や人格をある程度取り戻せているのだ”
なるほど。って、こんなことを考えてる場合じゃなかったな。
“行くぞ! リィナはフェイ君のサポートだ”
“分かった!”
言うが早いか、結界内にリィナのご両親の姿が現れた。相変わらず細部は不鮮明で輪郭も幻のようにおぼろげではあるが。
「き、貴様らは!」
“また会うことになるとは思ってもはいたが、やはり気分が悪いよ、豹炎悪魔(フラウロス)”
「それはこちらのセリフだ!」
リィナのお父さんと豹炎悪魔(フラウロス)は激しく戦い始めた。
“〔真紫天使の加護〕、〔真赤天使の罰〕”
リィナのお母さんはバフやデバフ、防壁魔法を駆使して援護している。す、凄い。
“お兄ちゃん、私達も”
“マスター、準備を”
しまった、見とれてる場合じゃない!
(ごめん! 準備って何をすればいいのかな?)
俺がそう呟くと、人の姿に戻って俺の隣に現れた。
「私に魔力を込めて下さい。出来ればリィナも」
“分かった”
言うが早いか、リィナの幻も近くに現れ、ミアの手を取った。ご両親が使っているような魔法だろうけど、リィナの場合は表情までハッキリと分かる。
(よし、じゃあ行くぞ)
正直心配は残る。俺だけじゃなく、リィナの魔力まで込めて大丈夫なのかが……でも、もう不安になっても仕方がない。俺はミアの手を取り、魔力を込めた。
「え? 力が……」
まだ俺達はさほど力を込めていないのに、ミアは輝くオーラを放ち始める。いつもとは明らかに様子が違う。
“ミア、大丈夫だよ。お兄ちゃんの魔力との感応は私も手伝うから!”
よく分からないが、ミアがいつものように苦しんでいないのはリィナのおかげらしい。
「これなら! いきます、【フュージョン】!」
まばゆい光が豹炎悪魔(フラウロス)を包む。それと共に豹炎悪魔(フラウロス)は苦悶の声を上げはじめた!
「ガ、ガガガ!」
白目を向き、全身を痙攣させながら叫ぶその様子は意識の有無さえ怪しまれるような苦しみ方だ。
が、これで終わりではない!
「はあはあ……いきます! 【ディバイド】!」
俺とリィナの魔力を受けたミアが再びギフトを放つ。その光はいつもの数倍激しく、そして何回も瞬いて豹炎悪魔(フラウロス)を包み込んだ!
「ぐかガガガ!」
豹炎悪魔(フラウロス)は光が瞬く度に暴れ、そして、最後の光と共にバタリと倒れた。
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