第37話 追想

 そんなこんなでタイクーン山脈に行ける算段がついた後、俺とレイアはそれぞれ旅の準備をすることになった。


 タイクーン山脈までは二〜三日だが、向こうでの捜索活動とかを含めれば一週間以上向こうにいる可能性が高いから入念な準備が必要だ。


「防具って色々あるんだね」


 俺はリィナと共に防具屋に来ていた。タイクーン山脈に行くには今まで身につけていた鎖帷子の防御力では不安が残るからだ。


(かといってあまり目立つ鎧だとこの前みたいにまた絡まれるかもしれないしな……)


 師匠に相談することも考えたのだが、基本師匠は武器専門だし、今はレイアの世話で忙しいだろうから遠慮した。


「見るだけで勉強になるよ。お兄ちゃんについてきて良かった!」


 もし、人目がなければ、最高に可愛い笑顔を見せるリィナの頭を撫でるところだが……流石に今はマズい。


(それにしてもまだ冒険者になるつもりなんだな……)


 昔は俺が弱いからかな……と思っていたが、どうもそうではないらしい。しかも、この間、レイアとパーティを組んでからは一層冒険者になりたいという熱意が高まったような気さえする。


(どうしたもんだか……)


 嬉々として店員にあれこれ聞いてメモをするリィナをみながら悩むのだが……まあ、今のところいい手は浮かばない。


(危険な目に合わせたらリィナのご両親に申し訳が立たないのに……)


 実はリィナの両親は俺達家族の恩人だ。行商だった俺の両親はリーマスに戻る最中に魔物に襲われたのだが、リィナの両親に救われたのだ。


(あんな場所で魔物が現れるはずがなかったのに……それにあの姿、今でも忘れない)


 後に冒険者となって、俺達家族を襲ったのは下級悪魔(レッサーデーモン)だと分かった。こいつを倒せる力が欲しいと強く思ったから、加えてリィナの両親の戦う姿に憧れたから、冒険者を目指したいと思ったな。


(だが、事件はこれで終わらなかった)


 実は俺達を襲った下級悪魔(レッサーデーモン)は上級悪魔(グレーターデーモン)、豹炎公悪魔(フラウロス)の使い魔だったのだ。


 豹炎公悪魔(フラウロス)との戦いに国中から冒険者が集まった。そして、そのクエストには当時リーマスにいたリィナの両親も参加した。リィナの両親はリィナを俺達に託し、集まった冒険者達を率いて戦ったのだが……


「お兄ちゃん、これなんか良いんじゃない?」


 リィナか、ビックリした!


「ああ……悪くないな」


 俺はリィナが勧めてきた鎧に目をやった。





 その後、俺達はリィナの買い物に付き合い、外食してから帰宅した。


(明日は早いし、さっさと寝よう)


 リィナに寂しい思いをさせるのは気が引けるが……


(そう言えば、一緒に暮らし始めた時は全く笑わなかったな)


 冒険者達の活躍で豹炎公悪魔(フラウロス)が再度封印されたものの、被害は甚大で、討伐に参加した冒険者は七割が死亡した。


(そしてその中にはリィナの両親もいた……)


 リィナのご両親は我が身を呈して封印を発動したことで豹炎公悪魔(フラウロス)の脅威はなくなった。が、それ以後リィナが言葉を失ったのだ。


(療者は精神的なショックによるものだって言ってたな)


 俺はリィナの声を取り戻すべく、あらゆることを試したが、全て失敗に終わった。まあ、子どもの考えることだから、今から考えればどれもこれも馬鹿なことばかりだったけど。


(だけど、そんな日々は急に終わった……)


 突然俺の両親が病死したのだ。どうやら豹炎公悪魔(フラウロス)がリーマス中に撒き散らした瘴気が原因らしく、俺の両親以外にも大勢の人が亡くなったらしい。


(呆然と父さん、母さんが墓に入れられるのを見ている俺にリィナは“大丈夫、私がお兄ちゃんを守るから”って言ってくれたんだ……)


 療者はリィナが声を失った理由が両親を失った悲しみのせいだと言っていたが、俺はちょっと違うと思う。


 勿論、悲しかったと思うのだが、声を失うほどショックだったのは自分が何も出来なかったからじゃないかと思うんだ。


(だから、俺が両親を失って落ち込んだとき、俺を支えなきゃと思ったから喋れるようになったんじゃないかな……)


 実際のところどうだったのかは分からないが、それから俺達は二人で協力して生活を始めた。幸い、国が同じような孤児を支援する制度を作ってくれたので、俺は働きながら最低限の教育は受けることは出来た。


(リィナには世話になりっぱなしだなあ……)


 今はそこそこゆとりのある生活が送れているが、それでも今回みたいに何日も家を開ければ心配をかけてしまうしな。


(リィナを幸せにするにはどうしたら……)


 そんなことを考えているうちに眠気が訪れ、俺は眠りに落ちた。

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