第18話 『紅蜥蜴』と『金獅子』
(レイアの強くなりたい理由って一体なんだろうな)
俺は師匠の家を出た後、そんなことを考えながら冒険者ギルドへ向かった。聞けば教えてくれるだろうけど、何だか軽々しく聞いちゃいけない雰囲気なんだよな。
「フェイさん、やっと来た!」
そう言って出迎えてくれたのはジーナさんだ。何かあったのかな?
「ついさっき【朝霧の鉱山】に『紅蜥蜴』と『金獅子』が出発したんですよ。凄かったんですから」
つまり、リーマスの一位と二位のパーティが手を組んだということか。それなら何とかなるだろう。
「ところで今日はどうしたんですか」
「えっと、何か手頃なクエストでもないかと思って」
「今、昼を回ったところだから夕方までに帰れるクエストは……」
ジーナさんはしばらく調べてくれたが、やがて首を振った。
「ないですね。【朝霧の鉱山】があんな状態だから他のダンジョンに冒険者が流れてしまっているんです」
「そうですか……」
まあ、昨日の情報料もあるし、今は金に困ってるわけじゃないから、今日は帰ろうかな……
(リィナも心配だしな)
俺は何気に忘れていた【朝霧の鉱山】で戦った時に得たドロップを換金して家に帰った。
「ただいま〜」
あれ、返事がない。
いつもなら直ぐにリィナが飛び出してきてくれるのに……
「リィナ?」
リビングにもキッチンにもいないから、自分の部屋かな?
「お……兄ちゃ……」
自分の部屋のドアをに寄りかかるようにして出て来たリィナは明らかに普段と違う。
「どうしたんだ、リィナ!」
「大……丈夫だから」
そんなはずはない。顔は高熱のために真っ赤だし、呼吸も荒い。十中八九、何かの病気だろう。
「とにかく療者に来てもらおう!」
療者とは病気など回復魔法では治せないものを扱う職業だ。「薬師」や「祈祷師」などのクラスを得た人がついていることが多いが、今はそんなことはどうでもいい!
「リィナ、とりあえずベッドに」
「……ごめんね、お兄ちゃん」
「バカ、謝るな。リィナが悪いわけじゃないだろ」
リィナを抱えてベッドに寝かせると、俺は家にカギをかけ、近くの療者のところへと急いだ。
が……
「何だ、こりゃ!」
療者のいる療養所は外にまで患者が寝かされているほど、病人でいっぱいだったのだ!
「あ、フェイ!」
あ、エギルだ。コイツは俺と同い年。クラスは「薬師」だったから順当に療者として働いている。ちょっと問題はあるが、基本的に良い奴で冒険者になってからも色々世話になっている。
「見ての通り手一杯でな。ちょっと手伝ってくれないか?」
「悪いが、リィナが具合が悪くて。所長さんに診てもらえないか?」
「何ぃ! リィナちゃんが! よし、俺が行くぞ! ウヒヒヒ……遂にリィナちゃんを診察するチャ──」
ガツン!
エギルの頭に手刀が突き刺さった!
「馬鹿言ってるんじゃないよ! 往診なんて行ける状況じゃないだろ! 大体お前には絶対若い女の子は診させないからね!」
目を回すエギルにそう怒鳴っているのはこの療養所の所長、ヘーゼルさんだ。
「そ、そんな……」
絶望したような表情を見せるエギルだが、俺もヘーゼルさんの意見に同感だ。
「いいからさっさと患者の体を拭いて水を飲ませな! 後、氷嚢の氷を変えるのも忘れるんじゃないよ!」
「は、はい!」
ヘーゼルさんが明王のような威圧感で睨むと、エギルは青い顔をして療養所の中へと戻った。
「全くあいつはこの忙しい時に……腕はいいのにねぇ」
全くの同感だ。エギルは良い奴だし、腕も確かなのだが、何というか、女の子──特にリィナ──が絡むとちょっと困った奴になるのだ。
「済まないね。往診をしにいきたいんだけど、この有様で。だけど、もし熱が出て、動けないくらい体がだるければここにいる患者と同じ病気だと思って間違いないよ」
熱が出て、動かせないくらい体がだるい
まさしくリィナの症状だ!
「一体どうしたら……」
「これは赤熱病という病気だが、どちらかというと中毒でね。ある薬草を焚いた空気を――」
「あの……」
今は原因よりもどうしたらリィナが元気になるのかが知りたいんだ。
「ああ、悪かったね。つまり、そんなに怖いものじゃない。人から人にはうつらないし、特効薬もある」
特効薬!?
「今、材料を頼んでいるところだ。薬が出来たら届けさせるよ。そうだね、一晩もあれば作れると思うよ」
「一晩……」
「熱が出るのは最初だけ。すぐに体が冷えるからとにかく温めるんだ」
温める……毛布を被せたり、温かいものを食べさせたりって感じかな……
「分かりました。よろしくお願いします!」
俺は礼を言った後、リィナのいる家へと走った。
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