第10話 ダンジョンコア
それから数日間、俺は家でリィナと過ごした。習慣となっている筋トレや素振りは続けたが、クエストは全くこなさなかった。
(こんなの初めてだな)
そうなった大きな理由はリィナだ。リィナは俺を心配するあまり、疲れが取れないうちはクエストを受けては駄目だと言い張ったのだ。
そこまで休まなくても……という思いはあるが、俺としてもリィナを不安にさせた負い目があるので言われた通り家で休むことにしたのだ。
「えっと、ジーナさんに聞きたいことがあるから今日はギルドに行ってきてもいいかな?」
俺がそう言ったのは帰ってきて五日目の朝。俺の言葉にリィナは微妙な顔を浮かべた。
「まだ休んだ方がいいと思うけど」
「でも、【黄昏の迷宮】から帰ってからまだ師匠にも挨拶してないし」
「ジェイドさんもジーナさんもお兄ちゃんの顔がみたいよね。でも……」
リィナはそんなふうにブツブツと独り言を言っていたが、結局、“クエストを受けてこない”という条件でオッケーを出してくれた。
「じゃあ、昼までには戻るから」
「分かった。私は買い物に行ってくるね!」
俺はリィナに見送られて冒険者ギルドに向かった。
(空(す)いてるな……)
冒険者ギルドは早朝以外は人が絶えないことが多いのだが、たまたま運が良かったようだ。
(あ、ジーナさんだ!)
さらに運が良いことにジーナさんは今、誰の応対もしていない。俺は早速ジーナさんに話しかけた。
「おはようございます、ジーナさん」
「おはようございます、フェイさん。ふふふ」
「?」
ん? 何か可笑しいかな?
「ごめんなさい。今まで毎日顔を会わせてたから、なんか調子が狂ってしまって。リィナから無事だと聞いてはいたので安心していたんですが」
「そうですか」
まあ、確かに今までこんなことはなかった。アバロン達はたまに休みを挟んでいたが、俺はソロで依頼を受けたりしていた。何しろアバロン達とクエストを受けると戦闘経験が積めないからな。
「ちなみにフェイさんは今ギルド内で話題の人ですよ」
「げ、なんで……」
「Eランク冒険者がソロで未踏破のダンジョンをクリアしたって前代未聞ですよ」
有り難くない話だ……
「そんな顔しないで大丈夫ですよ。フェイさんが嫌がると思ってあまり広めないように言っておきましたから。代わりと言っては何ですが、【黄昏の迷宮】の最下層とダンジョンボスについて教えて下さいね」
「分かりました」
ちなみに未踏破のダンジョンをクリアした冒険者には詳細を報告する義務がある。まあ、情報料として報酬も出るし、クエストを受けていればランクアップのための実積としても評価されるので冒険者側にもメリットが大きいのだが。
「それでフェイさんの御用はなんでしょう? クエストを受けるのはリィナに止められてますよね」
一体二人はどうやって情報を共有してるんだ? まあ、約束を破るつもりはないけどさ。
「これについて教えて欲しいんだ。使い道とかを」
俺は〔アイテムボックス〕からダンジョンコアを取り出した。
「っ!」
ジーナさんは声を上げそうになった自分を慌てて止め、視線で俺にダンジョンコアを早くしまうように促す。
(一体どうしたんだろう?)
そうは思いつつも俺は言われた通り、ダンジョンコアを〔アイテムボックス〕にしまった。
「……こちらに」
俺はジーナさんに連れられ、面接用の個室に案内された。
バタン……
ジーナさんはドアをしっかりと閉めると、ツカツカと俺に近寄った。
「フェイ、凄い、凄すぎるよ! 一体どうやってダンジョンコアを!?」
あ、デレモードだ。
「あれはそんなに凄いものなのか?」
「凄いなんてもんじゃ……とにかく誰にも言ったら駄目。私もギルドには報告しないから」
ジーナさん、そこまで俺のことを思ってくれるなんて……
「とにかく一体何があったの? 早く教えて!」
俺は普段被っているクールな仮面を完全に脱ぎ捨てたジーナさんに急き立てられるまま、最下層での出来事を話し始めた。
ちなみに、話を聞いているときのジーナさんのリアクションはリィナとほぼ同じで、“アバロンは指名手配ね”から始まり、デュハランを二発目の〔グランドクロス〕て倒すと同時に安堵の息をつくといった具合だった。
「〔アイテム再生〕は上には黙っていましょう。一回目に使った託宣の聖印で上級職を得たことにしたらいいわ。あとフェイ、普段はクラスをアイテム士にしておいた方がいいわよ」
「?」
「ステータスを覗かれたら騒ぎになるからよ。かなりのレベル差がないとパラメーターまで見られることはないけど、Lvとクラスなんかは相手によったら知られちゃうから」
「えっ、そうなんだ」
俺の〔鑑定〕は元々アイテム限定だったから知らなかった。
(デュハランの状態異常スキルが分からなかったのはLv差があったせいか……)
俺はジーナさんの忠告通りにしながら、そんなことを考えた。格上相手には過信は禁物と言ったところか。
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