第8話 再会と圧

「ただいま、リィナ」

「……お兄ちゃん!?」


 ジーナの反応を見て、どう帰ろうかと悩んだのだが、結局いい考えは浮かばなかったため、俺の行動はいつも通りだ。


「ごめん、心──」


 リィナは俺が何か言うより早く俺の胸に飛び込んできた。


「信じてた。生きてるって、信じてた……」


 気丈な言葉とは裏腹にリィナの肩は小刻みに振るえている。


(ああ、これは相当心配をかけてしまったな)


 反省しながらリィナの頭を励ますようにポンポンと叩く。が、リィナは急に俺の胸にうずめていた顔を上げた。


「お兄ちゃん、ギュッと抱きしめて。そうしたら、お兄ちゃんが本当にここにいるって実感できるから」


 え……妹相手にそれはセーフなのか?


 だが、上目遣いで俺を見る可愛いリィナに逆らえる男がいるだろうか。身贔屓を差し引いて考えてもリィナは可愛い。何せこの町リーマスにはいくつもファンクラブがあるくらいなのだ。


 結局、俺は言われるがままにリィナを抱きしめた。


(あ、柔らかい…… それにいい匂い) 


 何考えてるんだ、俺は! リィナは妹だぞ!  


(何も考えるな! 何も感じるな! )


 ……


 …………


 ………………



「ごめん、急に。お兄ちゃん、疲れてるよね」


 リィナがそう言って体を離したのはそれなりの時間が経ってからだ。


(確かに余計なことを考えないようにするのは確かに疲れたな……)


 まあ、俺だって健全な男なわけだし、リィナは妹だと言っても血は繋がってないわけだし。


「え、あ、まあ。大丈夫」


 ……多少返事がしどろもどろだったのは仕方はないよな。


「何か用意するから座ってて」


 リィナはそう言ってキッチンへ行くが、一目見れば食料が何もないのはすぐに分かる。普段の生活はカツカツで蓄えなんてほとんどなかったのだ。


「リィナ、取りあえず何か食べに行こう。このところリィナもあまり食べてないんだろ?」


「何か食べにってそんなお金──えっ!」


 俺が金貨を見せると、リィナは目を丸くして驚いた。ま、まあ、そうだよな。俺が今まで持って帰った生活費って精々銅貨五〜六枚だもんな。


「どうやって……お兄ちゃん、一体何があったの!?」


「あー、実は」


 俺はかいつまんで話そうとしたのだが、あまり上手くいかなかった。


 大体最初に最下層に落とされた下りからまるで今すぐアバロンを殺しかねないくらいの怒り様だったのだ。


 続いて、託宣の聖印をゲットした時には最上の笑顔を浮かべたかと思えば、「アイテムマスター」を引いた時には落ち込み、「パラディンロード」にクラスチェンジした時には……と言った具合だ。


「大分無茶したのね、お兄ちゃん……」


 あ、リィナ、怒ってる……うん、そうなる気がした。


「まあ、でも最強を目指すって言うのはお兄ちゃんらしくていいけど。だって、お兄ちゃんは昔から冒険譚に出てくるような凄い人みたいに憧れていたもんね」


 え、そこまではっきりバレてたの? ちょっと恥ずかしい……


「まあ、私ももうすぐ十八だし。クラスを得たら冒険者になってお兄ちゃんを助けてあげるから」


「おいおい、リィナ……」


 十八になるとクラスが決まる。どんなクラスを得たのかは少し大きな街にある王立の機関で調べられる。一昔前は教会で調べられたらしいが、今は出来ない。理由は知らないが、昔は便利だったな。


 ちなみにステータスを開けられるのは冒険者だけだ。これは冒険者プレートに付与された特別な魔法の力らしいのだ。


(確かにリィナはずっとそう言ってきたけど……)


 気持ちは嬉しいけど、“何で冒険者に?”って言うのが俺の本音だ。リィナは可愛いし、頭もいい。クラスがなんであろうとどんな仕事でも出来そうなのにわざわざ危険な仕事を選ぶ理由が分からない。


「お兄ちゃんの夢は応援するけど、とにかく一人で無理するのは駄目! 分かった?」


「……わ、分かった」


 我が妹ながら凄い圧だな……


「じゃあ、何か買ってくるからお兄ちゃんは休んでて。外食は疲れがとれてからね」  


 リィナはいつもの可愛い笑顔を俺に向けると立ち上がった。


「や、別に大して疲れては──」


 瞬間、リィナの様子が一変した!


「無理は駄目だっていったよね、お兄ちゃん……」


「!!!」


 再びリィナから圧が発せられた!


(こ、これはダンジョンボスにも匹敵する……)

 

 これは間違いなく絶対逆らったら駄目なやつだ。


「わ、分かった。休む。無理はしない」


 慌てて俺がそう言うと、圧は瞬時に消え失せた。目の前にいるのは天使のように可愛い普段のリィナだ。


「良かった。じゃあ、行ってくるね」


「おう、よろしく」


 そう言ってリィナを見送った後、掃除でもしようかと一歩足を踏み出した瞬間……


 バンッ!


 ドアが爆音を立てて開かれた!


「間違っても家事なんてしないでね? 休んでなきゃ駄目だからね?」


「あ、ああ。分かった」


 俺がしっかりと頷くと、リィナは再び笑顔を浮かべてドアを閉じた。


(……寝るか)

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