機体コード N110-D

QU0Nたむ

干乾びた時代の中で

 時は皇暦2022年 

 世界の半分を支配していた大皇国は

敵対する国際連合により核の雨に曝された。


 それに対抗するべく心血を注ぎ作り上げた、皇国の逆転をかけた超兵器【神風】の暴走。


 戦争の結末は皇国は文字通り地図から消え去る形で幕を閉じた。

 しかし、同時に島国だった彼の国は海水の約7割を道連れにした【大消失】を引き起こした。


 2222年、『干乾びた時代』

 貴重な水を暴力で奪い合う世界。


 その時代を生きた、機械人形乗りの話だ。


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 暗く、大きな倉庫の中。鉄錆と油の匂いの鼻につく空間。

 誰かに手を引かれている。反対の手にも温もりがあった。目を向けると幼い子供の顔が不安そうに前を向いていた。


 手を引く人、大きな人影、あぁ親父オヤジだ。


「また、あの夢か」


 親父の影が話しかけてきているが、不完全な覚醒のせいか声は届かない。


 低い身長から親父に連れられた場所に佇む、巨大な人形ヒトガタを見上げる。


「機体コード『N110-D』」


 呟いた俺の声が聞こえた。

 鈍色にびいろの機体色、両肩の瞳のようにも見える赤い丸印が、この先に起きる出来事を暗示していたようだった。


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 ガコンッ


「っと」ヨダレを拭う。意識の覚醒と共に夢を思い返す間もなく振動が連続する。


「ッチ、ヒデー舗装の道だ。おかげで寝不足、そろそろ交代してくれよ。」


 今の俺が居る狭いコックピットで毒吐どくづいても虚しく跳ね返ってくるだけだ。


 『干乾ひからびた時代』

 ここでは水の運搬にも態々わざわざ俺達のような機械人形アサルトアーマー乗りが護衛に必要になる。


 俺の後ろには水を満載したタンクローリーが3台に索敵用の観測車輌、同業の機械人形アサルトアーマーが2機。


 水が貴重になった日から、熾烈を極める闘争に機械人形アサルトアーマーが駆り出されるまでそう時間はかからなかった。


 世界大戦で使われていたはずの機械人形アサルトアーマーの多くは、余りの窮状に軍人の無断借用で持ち出された。

 国家の為に作られた兵器が、大義もヘッタクレもない闘争に使われることになるなど誰が考えただろうか。


「おい、【双頭ツーヘッド】テメー寝てたろ!」


 ガミガミとしたおっさんの声が無線から飛び出して、寝起きの鼓膜にやかましく突き刺さる。


「わりーわりー、すみませんでしたー」


「ったく、前に仕事したときはもう少しマジメなやつかと思ったが。まぁいい、周辺警戒を怠んなよ」


了解らじゃー


 いや、俺が寝ててもこんだけしっかり機械人形アサルトアーマーが護衛に付いている中に突っ込んでくる奴らなんてそうそう居ない。


 また、水は値千金の商材ではあるが、それと同時に襲われにくい商材でもある。

 折角せっかくがんばって(?)襲撃を仕掛けても、流れ弾がタンクローリーにでもんでいけば一大事。成果が流れ出しておじゃんだ。


「ふぁーっ」


 まぁ、なんだ。

 つまり、威嚇として並走してれば寝ててもいい仕事だ。


 寝てても起こしてくれる、それに万一襲撃されても俺達なら出遅れてもなんとかなる。

 そう考えながら、目的地のソルトレイクシティへの渇ききった大地を眺めていた。


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 やはり問題はおきず、街までかなり近付いてきた。


 弛緩した雰囲気、雑談しつつも前へ前へと進む。長かった旅も終わる。


「そういや、【双頭ツーヘッド】オマエの機体の肩のってオマエの趣味なのか?盾も持ってないし変な機体だよな。」


「あ゛ぁ゛ー、長かったぁ!……え?肩のこれ?あぁ、これは……」


 あと少しだ、伸びをしながら返事を返そうとし。


 同業の機械人形への着弾の衝撃波が破壊的な音を伴って当たりを打ち据えた。


「っ!?散開っ!!」


 ドンッドンッと重低音が遠くで聞こえる、対機械人形用の砲音。

 散開したことで、第二波は見当外れな場所に着弾した。


 まさか、出番が来るなんて!これだから仕事はクソだ!


「敵機は?!アクティブソナー急げ!!」


「3時、8時、10時の方向に戦車を含む敵影ッ!なっなんだ、この数は?!AA は推定6機ッ!」

 

 機械人形アサルトアーマー6機?!


 機械人形をそんな数どこから……


 ただの強盗野盗じゃ有り得ない戦力。

 テロ組織か、ソルトレイクシティに対する政治的な攻撃?金銭目的とは思えない。


 どちらにせよ、楽な仕事の邪魔をしやがって。

 


「強襲する!護衛はのアンタに任せた!」


 俺の駆る、機体が甲高い駆動音を上げて砂を巻き上げる。


「無茶だっ!挟撃されるぞ!」


 警告するおっさんの声を置き去りにする加速で敵性機体二機へと肉薄する。


 ジャッと金属の擦過音と共にカタナを抜き放つ。動作登録名『居合一閃』。最速の一太刀は過たずに敵機の胴を上下に分断した。


 隣りにいたもう1機が盾を構え、アサルトライフルを斉射する。


 弾の雨が降り注ぐ。金属のぶつかり合う音、大口径ライフルの硝煙が視界を奪う。


 ボロボロになった機械人形の腕が落ちる。


 硝煙の煙を割るように、ボロボロになった機械人形の上半身が飛んでいく。


 ソウリュウのバックパックに搭載されてるナギナタを左腕に装備する。

 投げつけた機械人形の後を追うように鋭い突きが放たれる。

 構えた盾も満足に機能出来ず、ナギナタはコックピットを貫いた。


 瞬く間に2体の機械人形アサルトアーマーが撃破された。


 挟撃すべく、その攻防を見ていた組織のAA乗りは無線に叫んだ。


「盾を持たず、肩に赤目のエンブレムのAA ……【双頭竜ツーヘッドドラゴン】だっ!総員、集中砲火でヤツを落とせ!!」


 ナギナタにカタナと、時代錯誤な二刀流の機体が残りの敵機を葬るべく走り出す。


 随伴の戦車との集中砲火の鉄のカーテンも暖簾のれんのように易々やすやすと掻い潜られてしまう。


「なぜ当たらん!? ええい、来るぞっ!」


 包囲の為に部隊を別けていたのがアダになった。 近付いてくる赤い目の悪魔に対抗するべく格闘戦も交えて戦うことも念頭にいれる。


「接敵!俺ごと撃っても構わん!ここで仕留めるぞ!」


 組織の隊長 アーノルドの操る第4世代AA ネブラスカは装甲に自信のある機体。

 友軍のフレンドリーファイアにも耐えれる勝算があった。


 余り無いシチュエーションではあるが、シールドバッシュ等格闘操縦訓練も積んできた。

 乾坤一擲けんこんいってきの覚悟を決めた瞬間。


「『剛力絶断』」


 機体表面を赤い電流が駆け抜け、超常の力を持った一撃が放たれる。


「は?」


 【切断】の概念が襲ってきたようにシールドは真っ二つになり、自慢の装甲さえも剣閃を写す様に線が走った。


「切り飛ばせなかったか」


 淡々とした声とともに放たれるナギナタの一撃が無防備となったアーノルド機を叩き割った。


 隊長を失った後の組織の部隊が壊滅するのにそう時間はかからなかった。


 

______________________


 1機同業者の尊い犠牲を出したものの、その後はソルトレイクシティに無事に到着することができた。


 報酬と撃破した機械人形アサルトアーマーのパーツを売り飛ばす契約をして今回の仕事は終わった。


 事務所を出た俺に一人のおっさんが声をかけてきた。

 【鉄壁】オルカ。護衛専門の機械人形アサルトアーマー乗りだ。


「おい、【双頭ツーヘッド】オマエも上がりだろ?付き合えよ。」


 くいくいとジョッキを動かすような仕草で飲みに誘ってきた。


「うーん、あまり遅くならなければいいですよ?店はどこにしますか?」


 せっかくだから受けたが、おっさんが変な顔をしてる。


「なんか、やっぱAA乗ってる時と性格変わってねぇか?」


「気のせいじゃないですか?俺はいつもこんな感じですよ?」


 おっさんの背中を押しながら飲み屋への道を急いだ。


_______________________


 このおっさん、酒は好きだが見た目に反して弱いんだよなぁ。


「でよぉ、まぁあお前にいいトコ全部取られたから商隊長が護衛はお前が一番いいってよぉ……オレだってがんばってるよなぁ!」


 弱いし絡み酒だ。誰得だ。


「がんばってますよ、盾で商隊護衛もしてくれてましたし。助かりました。」


「だっろぉ……」


 ぐだぐだだ。


「そぉいやよ、オマエの機体の肩のエンブレム。目じゃないって言いかけてなかったか?アレはだったらなんなんだ?」


「あー、まぁオルカのおっさんならいっか」


 ちょいちょいと手招きする。耳打ちするように伝える。


「あれはヒノモト大皇国のシンボルマークですよ。

機体コード『N110-D』ソウリュウD型。それが俺の機体の正体です。」


 おっさんもおとぎ話の悪の枢軸国が作った機体なんて信じられなかったのか目を白黒させた。


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「ただいまー」


 俺が取っているホテルに帰ってきた。


「おかえり」


 俺の声とよく似た声が返ってくる。


「ただいま


 俺をそのまま鏡写しにしたような、俺の双子の兄だ。


 オルカのおっさんには話していないが、ソウリュウには秘密がある。


 それは、あの機体は複座式。つまりは息の合うコンビでないと満足に動かせない。


 傭兵【双頭竜ツーヘッドドラゴン】は本当に頭が2つあるのだ。


 俺は兄さんと二人で一人の傭兵だ。言動の差から頭が2つあるんじゃないかと言われた事がきっかけの異名だが的を得ていた。


 傭兵という恨みを買う仕事柄、弱点は見せない方がいい。

 俺達はどちらかが欠けたら、廃業になってしまう為、こうしていつわっている。


「兄さん、オルカのおっさんに機体のこと話したけど、これでいいんだよね?」


「あぁ、それでいい。ソウリュウの事が広まれば、奴らは必ず現れる。」


 13年前、俺達の家を襲った【組織】。


 奴らの狙いはヒノモト大皇国の遺産。200年前の大消失の際に曾久ひいひい祖父じいさんの家にしてきた機体。


【神風】搭載試作AA N110-D ソウリュウD型。

という、有り得ない兵器。


 俺達の家に眠っていたソイツを奪うために襲撃してきた【組織】によって、俺達は帰るべき場所も大切な人も失った。


「奴らが面白半分で追いかけ回したモノが、どれほど恐ろしいバケモノだったのか……身を以て知るだろう」


 復讐のときは近い。

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