表はスーパースターな影の忍者は不本意です!

兎緑夕季

海藤ユウヤの日常

 薄暗いライトの中、走る男の足取りは軽い。素早いと言ってもいい。

目麗しい見た目の彼の後ろを追うのはいかにもなチンピラ連中。

案の定、男は奴らに取り囲まれる。

だが、彼は臆する事はない。

壁に寄り掛かり、不適に笑う。

奴らが動くのを待っているのだ。


「やっちまえ!」


チンピラの一人が発した声で奴の仲間達は男に襲いかかる。

しかし、次の瞬間そこに倒れていたのは第一声を上げた人相悪目な男。

当の本人は空高く飛び上がり、追手の視線をくぎ付けにしていた。


早業はこれからだ。


男はそのスラリとした足で次々とチンピラを蹴り上げて撃退していく。

なすすべのない名前のない連中は地面とにらめっこするしかない。

最後に残った金髪野郎は動けずにその場に座り込んだ。

男は脅威が去った事を知り壁を蹴り、助走をつけて宙返り。地面に飛び降りる。

「この町の平和はこの僕、海藤ユウヤにお任せ!」

ユウヤは顎の下で親指を立ててかっこよくポーズを決めた。


完璧だ。


彼のそのイケメンな顔にスポットライトが当たる。

「はい、カット!」


スタッフ達がわらわらと彼の周りに集まってくる。


今日の収録も最高だ。


「いや、よかったよ。海藤くん。さすが人気アクションスター」

「ありがとうございます!」

ユウヤは深々と頭を下げた。

「またよろしく頼むよ」

「はい!」

ユウヤは監督を見送りながら小さくガッツポーズを繰り出す。


これでまたファンを増やしちまった。

自分の才能がまったく怖いぜ。

このCMも流れたら商品バカ売れだろうな。


「グフフフッ!」

不気味な笑いを浮かべるユウヤ。


『ユウヤ、ユウヤ。首領から呼び出しだよ』


頭の中に響く声高めな少女の声にユウヤは思わず萎えた。

『姫香――頼むから頭の中で騒ぐな。何度も言ってるだろ俺は行かないって!』

ユウヤの悪態に少女は悲しそうに押し黙る。

それが伝わってきたのかばつが悪そうに頭を掻くユウヤ。

全く勘弁してくれよ。



★★★★★★★★★★★★★★★



 ドキドキ忍者パークはとある山の中にある。周りは山々の囲まれたそこは人々に夢を売るテーマパーク。

だが、あいにく閑古鳥が鳴いている。

その敷地の中にこれまた堂々とそびえたつ城。

何も知らない人間が見たらハリボテにしてはよくできていると思うだろう。

だが、ユウヤは事情を知っている。

秘密の入り口である地下から続くエレベーターに乗り込めば最上階まですぐだ。


「レナ様。何度も言うが俺はやらない」


ガラス張りの部屋に入るなり早々に宣言すればスーパーモデル体型の女が振り返った。

美女という言葉が似合うレナの額にはシワがよっている。


「またなの?」

「もちろん。俺は俳優なんだ。それ以外の仕事はするもんか」

「信じられない!私たちは忍者なのよ。一族の名に泥を塗る気!」

「何百年前の話だよ!」

「今もそうよ。時代を重ねても世のため人のため影として悪の者どもと戦うのが使命!」

「人知れずなんて嫌だね。何たって俺はスーパースターなんだ。姉さんもこんなボロいテーマパーク売ってさ…」


言い終わる前に手裏剣がユウヤに向かって飛んでくる。それをキレキレのバク転でかわす。

「怖っ!」

「もう一回やる?」

レナの殺気に満ちた瞳を交える中、視界をかすめたのはミニスカだ。

可愛らしいなんちゃってブレザーに身を包んだ少女が姉弟の前に破って入る。

「首領やめてください。ユウヤ様をいじめるのは…」

「聞いた?姫香ちゃんのこんな健気な姿見ても心が動かないの?」

どう見ても女子高生な姫香に冷たい視線を向けるユウヤ。

「800歳越えの擬似人格武器に言われても心に響かない」

「まあ、失礼な事を!彼女は初代海藤流忍法の祖が作りし自我を持った武器の一つであらせられるのですよ。言葉を慎みなさい!」

「その武器に宿っている人格は初代の好みの女なんだろ。初代の女遊びは今でも語り草だもんな」


ユウヤの言い草にレナは怒りを通り越して呆れていた。


「そう言う事だから俺はパス!」


出口に向かおうとするユウヤ。


「そう言う事言うのね。分かってるの?貴方の身体能力の高さは姫香に見染められたからなのよ」

「ぐっ!」

図星を突かれて動きが止まるユウヤ。

「姫香との縁が切れたらアクションスターとしても終わりね」

「やり口が汚ねぇ…」

小刻みに震えてレナを睨むユウヤ。

「私だって不本意なのよ。できれば私が姫香に握られたい…でもマッチングしないんだもの」

「首領申し訳ありません。本来なら海藤家の者なら誰でも私を扱えるはずですのに長年の戦いで錆びてしまい…」

大袈裟に倒れ込む姫香?

「いいのよ。直せる者がいないのがいけないの。私が両親から技術をきちんと引き継いでいらればよかったのに…」


レナら瞳からポロポロと流れる涙をハンカチで拭う。それが嘘泣きであるのをユウヤは知っている。だが、

「ああ、もう分かったよ!やればいいんだろ!」


ヤケクソのように叫ぶユウヤ。

10年前にあった大きな戦いで一族の大半が亡くなった。両親もその中に含まれている。残されたレナは14歳。8歳のユウヤの手を取り懸命に耐えていたのを知っている。だからこそ姉には忍者なんて血生臭い事をやめて幸せに生きてほしいと思っている。

そんな事口にしようものなら殺されそうだが…。


「ユウヤならそう言ってくれると思ったわ」

「そうですわ。さすが初代様によく似た気をお持ちでらっしゃる」


女性陣はすでに盛り上がっている。

「それで何をすればいいんだ?」



★★★★★★★★★★★★★★★



空を軽やかに跳び上がり走り去る二つの影。

黒尽くめの下で捉えたのは逃げる白服の一団。

「あいつらからブツを奪い取ればいいんだな?」

「そうです。彼らは私の仲間を悪用している」

後ろにピッタリとくっつく姫香はそう言った。


初代が作った武器か…


「なら、すぐやるぞ!」

「はい!」


その瞬間、姫香は自身の眼球に手を突っ込み引っ張り出す。

「うわああっ!」

姫香が激痛に見舞われているのがヒシヒシと伝わってくる。


だから嫌なんだ。


取り出された姫香の眼球はその手の中で鼓動する様に脈打ち鋭い刀へと形を変えていく。

そしてユウヤは彼女の目があった空間に手を添えればその体は姫香と同化を始める。


「リンク完了」


姫香の姿でユウヤは握られた刀の感触を確認する。


「さあ、お仕事開始だ!」


表はスーパースター、裏は影の忍び。

こうしてユウヤの日常は今日も続いていく。


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表はスーパースターな影の忍者は不本意です! 兎緑夕季 @tomiyuki

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