後輩佐藤と話の引き出し

そばあきな

話題のストックは多い方がいい

 後輩の佐藤は、いつも唐突に話を振ってくる。


「先輩、今日は駅につくまで『世界一役に立たない二刀流とは何か』について考えませんか?」


 その言葉を聞いて、相変わらず面白いお題を振ってくるなあと思う反面、佐藤はいつもどうやってその日話すお題を考えているのだろうかと純粋に疑問に思った。



 だから、その日はお題に対する回答ではなく、佐藤に対する質問から、部活が終わった後の帰り道の話題は始まったのだ。



「よくもまあ、それだけお題を思い付くよな。普段どんな風に思いついているんだ?」


 尋ねると、佐藤はうーんと首をひねってから、しばらくしてこちらに向き直った。


「そうですね……今回だとテレビを見ていて思いつきましたよ。ほら、野球選手に二刀流のすごい人いるじゃないですか。あの人のインタビューを見ていた時に思ったんです。普通、どんな要素だったとしても二つのことができる二刀流というのはすごいですよね。だから、役に立たない二刀流があったら面白いなと思いまして。先輩もそう思いませんか?」


 そこまでのきっかけはさておき、テレビを見ている間に思いつくなんて、佐藤は普段からどれだけ大喜利のお題を探しているのだろうと思う。


「発想が柔軟だなあ、佐藤は」


 素直に感心していると、幼顔の佐藤がにやりとこちらを見て笑った。

 こういう表情をしている時の佐藤は、大抵ろくなことを言わないのだ。


「そうですよ。だからこれからも一緒に大喜利しながら帰りましょうね。お題のストックはまだまだありますから」


 にこにこ笑う佐藤を見ながら、どこからその自信が来るのだろうと思った。それだけストックがあるということなのだろうか。

 逆に、佐藤のお題のストックがどこまで尽きないかを見守るのも悪くないのかもしれない。そう思うくらいには、佐藤との意味のない問答の時間を密かに楽しみにしていることは、まだ佐藤には言っていない。


 この素直で無邪気そうな男は、幼顔であざとい見た目に反して案外ドライなところがある。素直に伝えたところで、なんとからかわれるか分かったものではない。


 それでも、一年の時は一人で帰っていたはずの道のりが、二年になって佐藤という後輩ができ、二人で帰ることになって、毎日大喜利じみたことをしている。大喜利なのだから結論らしい結論もない。無意味に時間を潰しているとしか言えないが、それが少しだけ楽しいと思える。


 だから、卒業するかどちらかが引っ越しなどで最寄り駅などが変わらない限りは、自分は今後も佐藤と帰り道を共にするのだろう。

 そう思いながら、佐藤から出されたお題に対する面白い回答を頭で考える。



 部活が終わり、駅までの道のりが同じ佐藤と歩く帰り道の途中に行うこの意味のない問答は、こうしてまた続いていく。



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