ホーリーソード&カースドブレイド

髙田野人

ホーリーソード&カースドブレイド

 1泊100Gの宿屋に勇者様御一行が泊まった深夜のことである。

 誰もが寝静まった闇のなかに、いまだ眠らぬものたちが居た。


「やっぱ、おかしいって。俺のほうが攻撃力は高いわけじゃん?」

 呪われし魔剣である。


「いえいえ、勇者に求められるのは人の世を守る力。それゆえに防御力の高い私こそが相応しいのです」

 祝福されし聖剣である。


 二人、もとい二本は言い争っていた。

 白の剣と黒の剣を操る二刀の勇者であるが、利き手は右なのである。

 剣の身の上としては自分こそが勇者の右手に相応しいと声を大にするほかない。


「俺だね」と魔剣。

「いえ、私です」と聖剣。


 勇者の眠る傍らでは今日も今日とて熱い論戦が交わされていた。


「魔王を倒す、そのために必要なのは、やっぱり攻撃力だろう?」

「愚かな剣ですね、あなたは」


 ふぅ、と聖剣は溜息をついた・・・ような?


「いいですか、魔王との戦いは長期戦です。具体的に言えば30ターンから50ターンほど。一撃のダメージよりも生存確率を高めることのほうが重要なのです」


「はぁっ? ダメージを上げてターン数を削るべきっしょ。回復呪文だって有限なんだからさぁ、僧侶のMPが尽きる前に魔王を殺せなきゃ結局はジリ貧で負けるわけじゃん?」


「MPの回復ならエリクサーを使えば良いのです。なんなら、ファイナルエリクサーを使っても構わないでしょう。相手はラスボス、最後の敵なのですから」


「うちの勇者様がエリクサーを?」


 ふっ、と魔剣は鼻で笑った・・・ような?


「勇者様がエリクサーを使ったところ、おまえは見たことがあるか?」


「そう言われれば・・・私は見たことがありません」


「だろう? うちの勇者様はな、エリクサー病なんだよ」


「エリクサー病? ・・・勇者様は御病気なのですか!? ですが、エリクサーはHP・MP・すべての状態異常を回復するアイテムなのですから、エリクサーを使えば勇者様の御病気も治るのでは?」


「ふふっ、エリクサー病ってのはな、そのエリクサーを使えなくなる病気なのさ。エリクサーを使えば病気は治る。けれども病気だからエリクサーが使えない。どうだ? うちの勇者様は詰んでるだろ?」


「でもでも、エリクサーが使えなくても他の回復魔法で病気は治せるでしょう!?」


「治らねぇんだよ。・・・いや、直らねぇんだよ」


「・・・なぜ二度も?」


「まあ、とにかくエリクサー病を直せるのはエリクサーだけなんだ。そういうわけで、うちの勇者様は死んでもエリクサーは使わねぇ。使えねぇ。エリクサーを使うくらいなら全滅を選ぶ。そういう奴なんだ」


「自分の命よりもエリクサーのほうが大事? ・・・そんなことがあるんですか?」


「あるんだよ・・・」


 魔剣は遠い目をした・・・ような?


 勇者はエリクサーを使わない。

 これで聖剣の語る長期戦論法は封じられたかのように思われた。

 だがしかし、だがしかし。


「勇者様がエリクサーを使えないというなら、私は秘められた力を開放しましょう。毎ターンHP・MP自動回復。これは世界のバランサーより禁じられた力の一つですが、勇者様が御病気なのであれば仕方がありませんね!!」


「おまえ、それちょっと卑怯だろ。おまえに自動MP回復がついたら勇者様が回復職になるからボツになった能力じゃん?」


「勇者様が御病気なのです!! いたしかたがないのです!!」


「それが許されるなら俺だって秘められた力を開放するぞ? ブラッディソード、これ与えたダメージ分のHPを回復な。チェインドペイン、これダメージ反射能力な。キルゼムオール、これ即死能力な。ほ~ら、俺の秘められた力を開放しちゃうぞ~?」


「やめなさい!! あなたは世界のバランスを崩壊させるつもりですか!!」


「うちの勇者様が御病気なのですぅ~。いたしかたがないのですぅ~」


「くっ、この・・・バカ魔剣!!」


「バッカで~す。禁じられた能力を開放しちゃうバッカで~す」


「ムカつくっ!!」


 自分から言い出したことでもあり聖剣はその場で地団駄を踏んだ・・・ような?


 聖剣が能力を開放するなら魔剣も能力を開放する。

 二本の剣は等しく最強に位置する二振り一対の双剣としてバランス調整されている。

 能力の差で互いを上回ることは不可能なのであった。

 だがしかし、だがしかし。


「だいたい、どうして右手にこだわるのですか。装備スロットが右でも左でも、ステータスの上昇量に変わりはないでしょう。魔剣はそんなにも自分が目立ちたいのですか?」


「・・・ちげーよ。俺が右手に装備されたいのは、そんな薄っぺらな理由じゃない」


「では、魔剣はどうして勇者様の右手に装備されたいのですか?」


「うちの勇者様は右利きだから、攻撃も防御も右を使うことが多いんだよ」


「つまり、勇者様にもっと自分を使ってもらいたいのですか?」


「そうだけど、そうじゃない・・・」


「なんだか煮え切らない答えですね。もっとハッキリと言ってください」


「・・・本当に、言っても良いんだな?」


 その声は、本気の男のものだった。

 魔剣の普段は見せない真剣な眼差しに聖剣は息をのんだ・・・ような?


「俺たちは剣だ。金属だ。硬くて冷たい金属だ。だけどな、痛みがないってわけじゃあない。苦しくないってわけじゃあない。硬い岩、鋼の鎧、ドラゴンの鱗に激しく叩きつけられれば刃こぼれもする。刀身が欠ける。いつかは折れてしまうかもしれない。・・・俺は、おまえが傷つくのを見るのは、もう嫌なんだよ!!」


 魔剣は自分の正直を語った。

 聖剣は魔剣の正直を聞いて困ったように微笑んだ・・・ような?


「バカじゃない・・・」


「バカってなんだよ・・・。ああ、俺はバカだよ。魔剣のくせに聖剣の心配するなんて大バカも良いところだ」


「違うわよ。魔剣は何にもわかってない。私は聖剣だから防御力が高いの。防御力が高くて攻撃力が低めの設定だから、敵に当たっても痛くないの。でも、あなたは違う。あなたの高すぎる攻撃力は自分自身も傷つけてしまう。だって、あなたは呪われた魔剣だから・・・」


「聖剣・・・まさか、おまえも?」


 見れば聖剣の頬は赤く染まっていた・・・ような?


「私、魔剣のそういう鈍感なところ、嫌いよ」


「・・・それ以外は、好きってことか?」


「んなっ!?」


 魔剣のあまりにもストレートな言葉に聖剣は顔を背け黙り込んでしまったが、やがて小さくコクリと頷いた・・・ような?


 そして一夜が明けた。



~~~ ちゃ~ら~ら~ら~らっちゃっちゃ~ん♪(ジングル) ~~~



 勇者は目を覚ました。

 愛用の双剣を手にしようとしたが、昨晩置いたそこにない。

 おや? と首をかしげて部屋のなかを見回すと部屋の隅に剣はあった。

 呪われた黒き魔剣、祝福されし白き聖剣、そして小さく愛らしい灰色の短剣。


「え? なにこれ? 増えた?」


 勇者は頭に疑問を浮かべながらも灰色の短剣を手に取った。


「ステータスオープ・・・なにこれ、怖いっ!?」


『名前:グレイチャイルド

 武器種別:短剣(伸び盛り)

 攻撃力:255 防御力:255

 装備効果:HP再生・MP再生・状態異常無効・HP吸収・MP吸収・ダメージ反射・魔法反射・即死攻撃・防御無視・二回行動・範囲攻撃・全体攻撃 >>続き』


 そして勇者は魔王に勝った。

 世界には平和が訪れた。


「ばぶ~♪」

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ホーリーソード&カースドブレイド 髙田野人 @takadaden

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