ロシアンルーレットおでん

ヒペリ

第1話

「「「ロシアンルーレットぉ?」」」

 三人の声が、ぴったりと重なった。

「あれか。 拳銃の回転式の弾倉に一個だけ弾丸を込め、弾倉を回転させてから、自分の頭に銃口を向け――」

「もとはそれなんだろうけど、説明いらないから」

 僕は、いつものうんちくを素早く阻止した。

 ダイのうんちくは役に立つこともあるけど、大体は長々しくて聞いてもよくわかんない。

 ロシアンルーレットって言うのは、複数の同じのものに、一つだけ違うもの……ハズレが入っているもの。たこ焼きとかであるよね。

「せめて最後まで聞けよぉ……」

 涙目で訴えてくるダイを、プイッと無視したらミレが苦笑いしながら、なぐさめる。

「ま、まぁまぁ。……それで、ロシアンルーレットって、どういうことなんですか?」

 

「さっむいなー。なんか、あったかいもん食って帰ろうぜ」

「……買い食い、禁止だよ」

「わたしも、あったかいもの食べたいなぁ」

「行こうか」「変わり身の早さっ⁉」

 しんしんと雪がふる、肌寒い日の学校での休み時間。今年一番の寒波がおとずれてるらしくて、外に出ると手や耳がかじかむほど。

 室内でも寒い今日この頃、小学校から一緒の二人が話しかけてきた。

「なぁなぁ、コン~。なんでいつも塩対応なん?」

 うるうるとした目で見つめてくるダイは、正直気持ち悪い。うん。

 ダイは、成績はいい方なんだ。ルックスは……人並み以上はあると思う。ただ、まぁ。性格がね……。

(しつこい。うんちくが、長すぎる。気持ち悪い。変なとこで威張る。マジで、うんちくが長い)

 こうやってあげるといっぱいあるな。明るい性格なのは、いいところなんだけど。

「うんちく長いって、二回も言うほど大切なんだ……」

 苦笑いしている天使は、ミレ。おとなしく、優しいんだ。顔もいいから、ホント天使みたい。

 ……とまぁ、人物紹介はこのくらい。

「……で? 何食べに行くの」

「うーん。あったかいものって、いっぱいあるよね。……そうだ! わたし、行ってみたいお店があるの」

「お、じゃあミレおすすめの店、行くか! そこ、近場だよな?」

「うん。全然近場だよ。わたしの家の、近く」

 ということで、決定。なんだろう。まぁ、ツミレの行ってみたいお店だし、なんかゆるそうなカフェとかなのかな。

 放課後、帰りの会がおわった瞬間、教室を飛び出して三人で向かう。そこは――。

「お、おでんの屋台……」

 ダイが、驚いたようにつぶやいた。ミレは、少しほおを赤くしている。

「あ、あのね。一度、こういうお店で食べてみたくて。おでんは……嫌いじゃないよね?」

 イメージと違う……。ま、まあツミレもいろんなものに興味がわく年頃なんだろう。正直、困惑してるけど。今の時代、こんな店あるんだな。

 屋台には、太い筆字で『おでん』と書かれており、席は三つ。あたたかい空気と、おでんのほわほわした優しい香りが、食欲をそそった。

 ……てか、店主のおじさん、いかついな。白い三角巾に、冬だというのにまくっている青いTシャツ。見えた腕は、ムキムキ。だてに白いエプロンまでして、料理人感だしてる。……いかつい。一文字に結ばれた口は、いかにも近寄りがたい。

 ダイも、威圧を感じたのか、行くのをためらっている。

「なぁ。ミレ、他に――」

 横を向いたが、ミレがいない。見れば、もう席についていた。

 話しかけてるし。なんという、コミュ力バケモン。


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