お野菜番長は、右手に大根を。左手に長ネギを。
春香
野菜王国終焉
「お、お前が!あの!!」
トマト男爵は怖気付いた。
まったく、この野菜王国を乗っ取ろうとしていたトマト男爵が無様な姿を見せている。
まぁ、それも仕方ないのかもしれない。
この俺様と剣を交えて、無事だった者はいないからな。
「そうだ。おれこそがベジタブルJr.だ。」
おれはこの野菜王国の平和を守っている。
周りからはお野菜番長と呼ばれているらしい。
おれの噂を聞きつけ、あらゆる畑から野菜の刺客が襲撃をかけてくる。
いま目の前で怖気付いているトマト男爵もその1人だ。
「う、噂は本当だったのか!!」
トマト男爵はおれの手に持っている物を指差して言った。
「あぁ、これのことか?」
おれは両手に持っているものを、トマト男爵に見せつける。
おれの右手には、味のたっぷり染み込んだ大根が。左手には、太く、長いシャキシャキの長ネギがある。
周りの奴らは、この二刀流を恐れているようだ。
「噂通りだ…!!大根には味がしっかりと染み込んでやがる!!ネギも鮮度抜群でシャキシャキだ!!」
トマト男爵は恐れながら後ずさりをした。
おれはジリジリと距離を詰める。
「おれはトマトが嫌いなんだ。悪く思うなよ!」
大根と長ネギを大きくふりかぶる。
「うわぁぁぁ!!まって!まって!話をしよう!」
振り下ろす直前で止める。
「なんだ、話することは無いんだけどな」
トマト男爵は涙を流しながら語った。
「おれには最近産まれたばかりのプチトマトの娘がいるんだ…。まだ色は緑だが、酸味も出てきて成長してるんだ…娘のためにも死ねないんだ!」
娘の話をだして、同情を買う作戦のようだ。
「いいや、そんなことはおれには興味無い。今からお前をみじん切りにして、ミネストローネにしてやるからな!」
「あぁぁぁ!みじん切りからの、ミネストローネだけはやめてくれ!!」
トマトのプライドとして、生で食べられるのが1番だったようだ。
「覚悟ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
そういって再度大根と長ネギを振り上げた時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
王国内に、聞いたことの無い地響きが鳴った。
それと同時に、非常事態を伝える鐘が王国中に鳴り響く。
カンカンカンカンカン!!!
「非常事態だぁぁ!!!農薬が散布されるぞぉぉおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「なんだなんだ!!!」
トマト男爵を見ると、ニヤニヤと怪しげな笑みを浮かべていた。
「おのれトマト!なにをした!!」
「ふははは、この王国は時期に農薬に包まれるさ!これで俺様の計画も大成功だ!」
「なんだと!!!」
この時、涙が止まらなかった。
おれはこの王国を、無農薬のまま平和で保つつもりだった。
「やめてくれぇぇぇ!!!農薬をまかないでくれぇぇぇぇ!!!!」
「ふはははは!!もうおそいわぁぁ!!!」
上空を見上げると、一面に雨のようなものが降ってきた。
町中から悲鳴が聞こえる。
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ
たすけてぇぇぇぇぇぇぇ
ベジタブルJr.が薄れゆく意識の中で最後に見たのは、頭を掴まれて収穫されていくトマト男爵の姿だった。
「よしよし、これで農薬もまき終えたし、虫が寄り付かなくて美味しい野菜が育つぞぉ」
今日も農家は野菜を作り続ける。
お野菜番長は、右手に大根を。左手に長ネギを。 春香 @haruka023
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