第二十九話 地上に出て

 キヨズミと『創造物質クリエイト』の姿が見えなくなったあと、とりあえず、俺と佐々木は誘拐された少年少女達を、外に出すことにした。

「で、これからどうする?」

「とりあえず……この子達を親御さんの元に戻す」

 五人の児童を担いで部屋を出て(拘束されていたはずのケイティとロランの姿はなかった。二人がいた場所の床が抜けていたため、恐らく、キヨズミが逃げる時に、二人の拘束を解いたのだろう)途中、『創造物質クリエイト』が拘束した『屍者の軍勢エインヘルヤル』達がいる道を通って(こっちは全員が『創造物質クリエイト』の白い物質で地面や壁に拘束されたまま。三〇体の死体が動けないとはいえ、こちらを見てくるのは壮観だった)外に出たあと、佐々木はそう言った。

「後始末はあたしがするわ」

「そうか――何か手伝うことは?」

「……あんたは何もしなくていい」

 地上に出てすぐ近くにあった河川敷に結界を張って、その上に未だ眠っている子供達を寝かせた佐々木は、彼女達の寝顔を見て言った。

「ここまで大きな事件になったら、警察の相手もしないといけないし――何もしなくていいわ……あんたが絡んで、事態がややこしくなっても面倒だし。あたし一人でする」

「……そうか」

「うん」

 力なく頷くと、佐々木は『変身術』を解いた。

 彼女はいつも着ている、どこの学校かわからない制服姿になる。

 と――そこで着信音がした。

 俺のスマホの音じゃなかったため佐々木の方を見ると、彼女はスカートからスマホを出した。

 画面に名前は登録されていない――しかし表記されている番号を確認すると、佐々木は通話ボタンを押してスピーカーにした。

『俺だ』

 『創造物質クリエイト』からだった。

『お前ら今、どこにいる?』

「えっと……河川敷です。子供達を連れて外に出たところで」

『そうか』

 淡々とそう言う『創造物質クリエイト』。……彼は今キヨズミを追っているはずなので、「キヨズミはどうした?」と訊くと、『創造物質クリエイト』はこう答えた。

『キヨズミは死んだ』

「そうか」

 別に『創造物質クリエイト』ならキヨズミを仕留めてもおかしくないため、俺は大して驚かなかった。

「キヨズミを殺したのか……じゃあ、これで一件落着か?」

『俺じゃねえ』

「は?」

『だから俺じゃねえんだ』

 『創造物質クリエイト』は繰り返し言った。

『逃げたキヨズミは発見した――だが俺が追い付いた時にはもう、やつは死体になっていた』

「………」

『バラバラの死体だ』

 『創造物質クリエイト』が言うには、キヨズミだけでなく――彼と一緒にいた岸と父親、ケイティとロランの死体も、キヨズミと同じように、バラバラに切断された状態だったらしい。

『お前らが外に出る時、『屍者の軍勢エインヘルヤル』達がいる通路は通ったよな? その時、やつらはどうだった?』

「……どうって、別に」

「――まさか」

 佐々木は何かに気付いたみたいだった。

 その声と表情で――俺も気付いた。

『……今、その通路にいるんだがな』

 『創造物質クリエイト』は一拍置いて言う。

『全員――バラバラにされている』

「…………」

『バラバラにされちゃあ、さすがの『屍者の軍勢エインヘルヤル』も機能停止するみてえだ――死体共の魔力反応がなくなっている……こっちにあるのは、ただ死体の山と血の海だ』

「一体……誰がそんなことを?」

『さあな――それはわからねえ』

 佐々木の疑問に、『創造物質クリエイト』はそう答えた。

『が……確実に並の魔術は使われてねえな――『屍者の軍勢エインヘルヤル』と『流砂の天使ゴーレム・ガブリエル』。どっちも防御力が売りの魔術だが……キヨズミを含めて、どの死体も切断面が滑らか過ぎる』

「…………」

「…………」

『まあいい』

 俺達が黙っていると、『創造物質クリエイト』はそう言って話題を変えた。

『佐々木――お前、ガキ共を全員、家まで送り届けようとか……考えているだろ?』

「……え、そうですけど?」

『やっぱそうか――じゃあそれはやめろ』

「え?」

『やめろっつったんだ』

 『創造物質クリエイト』は繰り返し言った。

『ガキ共は掛けられた魔術を解いて、人気の多いところに放置しろ――公園や駅前……まあ場所は交番の前でも……どこでもいい。ガキ共を警察に保護させろ。あと、お前の姿は誰にも見られないようにしろ――確かお前、認識阻害の術式を持っていたよな? それを使え。いいか――お前の姿は、ガキ共にも見られないようにしろよ』

「な、なんでですか⁉ そんなまだるっこしいことしなくても、あたしが直接みんな家に届ける方が、確実に安全で――」

『だめだ』

 反論する佐々木の声を、しかし『創造物質クリエイト』は、冷徹な声で切り返した。

 その声に思わず、佐々木は黙る。

 ……スマートフォン越しに――無機質な声で。

『今回の件は……被害がでかい』

 白い吸血鬼はこう言った。

『隠蔽に時間が掛かる』

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