第二十三話 吸血――鬼
吸血。
エナジードレイン。
それは吸血鬼を吸血鬼たらしめる、最も特徴的な能力だ。
フィクションだと吸血鬼は獣のような牙を持ち、それを対象の人物に突き刺して血を啜る。体力を奪う。
一見、吸血鬼が牙を持つのは当然のことのように思えるが――実は言うとそんなことはなく、民間伝承や歴史上で起こった事件に登場する吸血鬼には、牙に関する記述がなかったり、そもそも牙を持っていなかったりする。
吸血鬼が牙を持つイメージができたのはフィクションで活躍するようになってからだ。
……まあそれはともかく――『
しかしそれでも、レイラとその眷属である俺達は『吸血』鬼と言われている存在だ。
民間伝承の吸血鬼は、牙に関する記述がなくても、エナジードレインを行う記述があった。
俺はレイラが誰かの血を吸うところを見たことがないが――それでもエナジードレインの能力は、持っているはずだ。
眷属の俺も。
持っているはず。
「ぐっ……」
「…………」
真正面から『第一の眷属』の首筋に噛み付いて、俺は更に噛む力を強めた。
極限まで歯を喰い込ませる。
簡単に逃げられないように抱き締めて。
吸血の仕方なんてまるでわからなかったが――吸血鬼の本能なのか、知らずにやっても発動するようだった。
「何を……しているんだ……⁉」
「…………」
『第一の眷属』が焦った声を出す。
強引に俺の腕を振り解こうと動く。
ビンゴだ。
焦って逃げようとするのは――吸血が有効な証拠だ。
俺は更に歯を喰い込ませた。
初めての吸血は――反吐が出るほどまずい。
生臭い、鉄の味がする液体が喉を通った。
ただ噛み付くだけではあり得ない量の血が、胃の中に流れ込む。
「いいから……離れるんだ……‼‼」
「…………」
離れない。
離すわけにはいかない。
この方法は『第一の眷属』もできる方法だ。だからここで仕留めないと、逆に俺がやられる――だから今ここで仕留める‼‼‼
「……ぐっ⁉」
と。
そう意気込んで噛み付いていたのだが。
「……ぐ、ぐがっ⁉」
――ドクン。
と――頭を殴られたような痛みが走った。
その痛みで思わず歯を離してしまいそうになるが――俺は我慢して、歯を喰い込ませ続けた。
その間も痛みは続く。
……いや。
続くどころか――痛みは増した。
「ぐ――うううううううううう」
「……離れろ」
いける……いや、まだ吸える。
まだ耐えられる。
「う、うううううう――あ」
「……いい加減離れろ‼ 死にたいのか⁉」
強引に振り解かれた。
歯を離した一瞬の隙に、『第一の眷属』は俺の身体を吹っ飛ばした。
血を吸われたことで弱体化したのか、先程のように俺の身体が爆散することはなかったが、しかしそれでも、俺の身体は一〇メートル以上地面を転がる。
――ドクン。
と――また頭に激痛が走った。
「はあ……はあ……な、なんだ……これ……?」
割れそうな痛みが頭の中を突き抜ける。
まるで脳が二つに割れて、その間から何かが出てくるような痛さだった。
「あ――ああああ……ああああああああああああああああああああああああああ‼‼⁉」
「かなめくん‼」
激痛に堪らなくなって叫ぶと、『第一の眷属』が近付いてくるのがわかった。
『第一の眷属』はのた打ち回る俺のところに来て、必死に話し掛けて来る。
「いいか、今、頭が割れそうな痛みに襲われていると思うが、気をしっかり持つんだ‼」
……うるさい。
「抗え! いいか、気を緩めちゃだめだ。しっかり保て! そうしないと一気に吞まれるぞ――狂気に吞み込まれちゃだめだ‼」
……うるさい‼‼‼
「――うる、せえ‼‼‼」
手を横に薙いだ。
声が不快過ぎて……とっさに俺は右手を振った。
狙ったわけではないが、横に振るった俺の腕は、間近にいた『第一の眷属』の顔面に直撃する。
すると『第一の眷属』の頭部は爆散した。
「……あ?」
俺の怪力ではここまでの威力は出せないはずなのに。
目の前で起こった現象に、俺は自分の目を疑った。
……なんだ? 今のは?
いつもどんだけチカラを込めても――そんな火力は出ないだろう?
「……あ」
爆散した頭部はすぐなかったことになる。『第一の眷属』も同じように驚いた顔をして、今さっき自分の頭を破壊した俺の右手に目を向けて――俺も引っ張られて自分の手に目を向けて。
「あ――ああ」
すると俺の腕は。
黒い、靄のようなものに包まれていて――
「あああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼」
直後。
俺の思考は腕を包む靄に似た真っ黒な何かに――一瞬で塗り潰された。
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