第六話 クラスメイト

 俺の周囲で起こっている問題の一つで、期末テストがある。

 期末テスト。

 学生だったら誰でも経験している、学期末にあるテスト。

 別に俺の成績はどの教科も壊滅的に悪いわけではないため、テストで一定の成績を収めるのに、滅茶苦茶苦労をするわけではない。が、テスト勉強を一切せずに学年トップクラスの成績を収められるほどの神童でも秀才でもないため、他の真面目な学生同様に、俺もテスト勉強をする。

 勉強自体は苦じゃないが面倒だ。俺が通っている私立北亀高校は進学校だが、他の高校に比べて偏差値が高いわけでもなければ低いくらいでもなく(つまり一般レベルくらいだ)、俺がいるクラスは勉学に特化した特進クラスでもない一般クラスのため、普段受けている授業内容自体はそれほど難しいものではない。だから授業中にノートを付けてわからないところは教師に訊いて解消していけば、一定以上の成績を収めることに苦労はしないが……家にいるとレイラの世話をしないといけないため、自宅で勉強することは難しく、レイラと出会ってから吸血鬼関連の問題は何度も起こっているため、そもそも外でも時間を見付けて勉強をするのが難しかったりする。

 つまり何が言いたいかと言うと、面倒だし――とっとと終わらないかな。

 この期末テストとかいう無駄に長い期間。

「だー、だめだ全然わからねえ……かなめー、今の数学のテストどうだった? 俺赤点かもしれねんだけど?」

 と。

 初日のテストが終わり次第、友人のゆーきが声を掛けてきた。

 神崎勇騎。

 一九〇センチを超える高身長に、金色の髪、青い瞳が特徴的な色男である。

 俺が小学校時代に引っ越してきた時から付き合いのある人物であり、同じ苗字を持つため、同じクラスで名前順に並んだ時、必ずと言っていいほど俺の後ろにいる。

 俺は振り返って言った。

「一応全問解いたけど……まあたぶん九割くらいの点数だな」

「だー……。いいなちくしょー……俺と答案用紙交換しね?」

「するわけねえだろ」

「あー、だよなー」

 ゆーきは本気で落ち込んだ様子で言った。

 ……と。そこで一人のクラスメイトが近付いて来た。

「いやー、今回のテストも難しかったね? 二人ともどうだった?」

「あ、海鳥うみどり

 海鳥皐月さつき

 一五〇センチ程度の身長に、結っても腰まで届くほどの長さを誇るポニーテールを持つ、クラスメイトの女子。いつも人懐っこいにこやかな笑みを浮かべており、その愛くるしい外見と誰とでも話せる高いコミュニケーション能力を持つため、多くのクラスメイトに好かれている、クラスの中心的人物の一人である。

 ちなみに海鳥は高校に入ってから知り合った人物だ。

 ゆーきは海鳥に言った。

「だー……俺だめだわ」

「ありゃりゃ。今回のテストも難しかったもんねー。かめくんは?」

「俺は問題ない」

 俺は海鳥の質問にそう答えた。

「はぁ……やっぱすごいねー、かめくん」

「かなめ、テスト始まって一〇分くらいで手ぇ止めてたもんなー」

「じゅっぷん⁉ 一〇分はすごいな⁉」

「……海鳥はどうだったんだよ?」

 目を丸くしている海鳥に俺は訊いた。すると海鳥は「ん。私?」と言った。

「ああ、そういや今回かなめとテス勉してたな。手応えはどうなんだ?」

「ふっ」

 すると海鳥は不敵な笑みを浮かべた。

「聞いてよ二人とも……なんと今回、八割近くも自力で解けた」

「おおっ」

「四〇点は堅い!」

「……正答率半分かよ」

 せっかく教えたんだから、そこはもうちょっと自信を持って欲しかった。

「いやー、これまで数学のテストで赤点しか取ったことがない身としては、今回ここまで解けたのは初めてだから、逆に自信がなくてですね」

「そうかよ。……けど、四〇点じゃ安全圏内とは言えないぞ」

「うー、わかってるよー」

 海鳥は唇を尖らせてそう言った。

 わかっているならいいけど――まあいいか。結果は返って来たらわかる。

 赤点だろうがなかろうが、俺にはどうでもいいし。

 俺とゆーき達三人は、テスト終了後にホームルームが始まるまで適当にしゃべって、適当に時間を潰した。

 ホームルームを終えて、三人で教室を出る。

 廊下を歩いて下駄箱に向かう。

「明日のテストなんだっけ?」

「現文と世界史」

「やっべ! 俺世界史終わってるわー……かなめー、今からでも間に合う赤点回避講座始めてくんね?」

「あ、私もそれ参加したい!」

「そんなもんないしあってもしねえよ……各自勝手に一夜漬けでもしてろ」

「「えー」」

「ハモるな」

 靴を履き替えて、駐輪場で自転車を回収して、校門に向かう。

「そう言わずにさー、なあかなめだったらわかるだろ? 世界史の範囲のどこを押さえたらいいとか!」

「……歴史の点数の押さえ方は二つだ。丸暗記するか、その時代と地域について興味を持つか――どっちもないなら諦めろ。素直に追試受けた方が楽だぞ」

「そう言わず教えてくれってー」

「かめくん私もー」

「嫌だよ面倒臭い」

 そう言いながら俺達は校門に向かう。

 と――校門の近くまで行ったところで人だかりができていた。

「ん? なんだなんだ?」

「なんか人だかりできてるねー?」

 二人は足を止めて人が集まっている中心部に目を向けた。俺は興味がないのでそのまま通り抜けようと思ったが、群がる生徒達の隙間から、一瞬だけ人だかりの中心人物の姿が傍目で見えたため、歩きながらそちらに目を向けた。

 目を向けてしまった。

 その一瞬でその『人物』と目が合う。

「うお。すっげえ美少女」

 確かにその人物は美少女だった。

 茶色のセミロングの髪に、同色の瞳。

 きめ細やかな白い肌に一六〇を超える身長。均整の取れた身体付き。

 見覚えのある少女だった。そう――服こそは昨日の魔法少女のような派手な衣装ではなく、北亀高校とは異なる学校の夏服を着ているが。

 三メートルを超える十字架は持っていないが。

 そこにいたのはあの殲鬼師だった。

「…………」

「…………」

 いや、まあ……だからって特に言うことはないけど。

 無視して帰る。

「いやいやいやいやいやいや! あんたよくあたしをスルーできたわね⁉」

 無視して帰ろうとしたら引き留められた。

 少女に集まっていた生徒達の視線が俺にも向いて、ざわつく。

「え、何々? かなめこの美少女とお知り合いなの?」

 ゆーきが野次馬の疑問を代表するように言った。

「知り合いじゃないけど……お前なんでここにいんだよ?」

「何? いちゃ悪い?」

 質問すると喧嘩腰にそう返された。

 睨まれて――それから少女は俺から目を離して、

「遅い! いつまで待たせるのよ――さつき」

 そう言って俺とゆーきと一緒に出てきた――海鳥に目を向けた。

 海鳥は言った。

「ごめん、リアちゃん☆」

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