二重
キザなRye
第1話
「和美ちゃんって物書きもしながら会社員しているんでしょ。凄すぎない?」
「嫌々、そんなことないって。私一人だけの力じゃないしね。」
私は頻繁にこんな会話をする。
二足のわらじを履いているというのが世間的に見た私の見え方である。
しかし、正確には私は二足のわらじを履ききれていない。
私には家に引きこもってばかりの双子の妹がいる。
一卵性双生児なので見た目は瓜一つだ。
そんな中でも性格面は大きく違った。
親に言わせれば育て方は変えていないから学校などでの環境の違いなのかもしれないらしい。
私からすれば遺伝子が一致しているだけであって同じ環境でも違った性格になっていてもおかしくはないと思っている。
その妹は文才があってネット上に匿名で自分の書いた文章を投稿したところ、爆発的にヒットした。
それを見た出版社から書籍化のオファーが妹のもとに届いた。
オファーを見た私の親は喜び、オファーを勝手に受諾してしまった。
このことを事後に報告された妹は自分は表舞台には出たくないという意思を示した。
どれだけ嫌だと言っても受諾してしまったことを変えられない。
そこで見た目が瓜二つの私が文書を書いたかのように代役として立てられた。
この一連の経緯はごく一部の出版社の人のみが知っており、世間には私が作者として通っている。
残念ながら私自身には文書を書く能力は備わっていない。
大学も理系進学しているので専門的なことをつらつらと綴ることしか出来ない。
なので囲み取材などをされても物を書くことについては答えられない。
基本的には妹から作品についてのメモが渡されてそれに従ってのみ答えるようにしていた。
あくまでも私は妹の活動を手助けするために一芝居打っているのだという認識だった。
ある日、週刊誌にスクープとして妹の記事が出た。
内容はゴーストライター疑惑だった。
どこからそんな情報を得て来たのだろうかというのが本音だが、どうやら私の大学の卒業論文の文章と妹の作品の文章の文の作り方が異なっていることから疑い始めたということらしい。
妹の作品が書籍化したのは私が社会に出て三年後なので卒論の文章を判断基準とするのは少し違うとは思った。
私は良いのだが、妹と出版社は気が気ではなかった。
元々疑惑を否定しなくてはならないのだが、妹の存在を隠しておきたいので説明が難しかった。
これを機に妹の存在を明かしても良いのではないかと私は提案した。
私としては嘘を付いて説明するのにうんざりしていた部分もあった。
どこかで妹のふりは止めたいと思っていた。
ここがチャンスだと私は思った。
私は妹にその旨を伝えた。
妹からはゆっくり考えほしいと返答があった。
一ヶ月後、テレビには妹の姿が映っていた。
週刊誌の件で妹と出版社は何度も何度も話し合いを重ねた。
私の妹への発言が最後まで大きかったようで今後は自分の力でやっていくと決めた。
そして今までのことをすべて自分の作品という形で執筆・出版してその本の出版と同時に会見を開いて経緯を説明した。
最初の方は世間から批判が殺到したが、作品の質が落ちるなどのマイナスなことはないと熱烈なファンから歓迎的な言葉がかけられたことにより世間の見る目が段々和らいできた。
まだまだ批判的な目で見る人もいるが、妹は楽しく生活できているようで良かった。
私の方も最初は色々言われていたが、日が経つごとにそんなことも忘れられていった。
そして気付かないうちに周りには妹のファンが増えていっていた。
それを見て私自身は嬉しくなった。
私は一番近くにいる妹のファンとして今後も妹の活動を応援したい。
二重 キザなRye @yosukew1616
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます