71.玉砕覚悟

 俺はフィーのエアヴェールを纏い、最高速度でシルバーフェンリルを威嚇する。

 これも俺一人だけではどうにもならなかったが、デスハンドやコープスたち幹部の遠距離攻撃があってようやく成立している。

 だが、相手は神話級モンスターだ。

 俺たちが時間稼ぎをしていることは理解しているだろうし、この中で誰が一番の脅威になり得るのかもわかっているだろう。


『グルルゥゥ……ガルアアアアッ!』

「させるかよ!」


 シルバーフェンリルはターゲットをフェゴールに絞り突っ込んでいくが、その間に俺が立ち塞がる。

 ただし、真正面からやり合うつもりはない。


「エアウォール! たっくさんなのー!」

『ガガガガガガッ!?』


 攻撃モーションに入る前にエアウォールが顕現し、シルバーフェンリルは顔面から衝突する。

 一つ目のエアウォールが衝突と同時に砕け散るが、並んで二つ、三つとエアウォールを顕現させている。

 何度もぶつかりながら勢いを殺したところへ、俺が弱点へ連撃を加えていく。

 ……せめて伝説級の武器があれば、もう少しダメージを与えられたんだがなぁ。

 フェゴールの一撃で五分の一は減少してくれているが、それでも倒し切るにはまだ足りない。

 俺がコツコツ加えているダメージと、フェゴールの次の一撃で、ようやく五分の二がなくなるといった感じだろうか。

 残り五分の三をどうやって削り切るか、それが問題だ。

 攻撃力という点でいえば、俺はステータスポイントを全て敏捷に振っているので鍛えていない。

 スキルを獲得したとはいえ、神話級モンスターを相手にすれば雀の涙くらいの効果しか期待できない。


「おらおらおらおらああああっ!」


 それでも俺は手を止めることなく、高い敏捷を活かした連撃で筋力の低さを補っていく。

 小さなことからコツコツと、塵も積もれば山となる、だからな。


「って、デスハンドも攻撃しろよ! 筋力はお前の方が高いんだから!」

「んなこと言われても、俺はお前ほど敏捷が高くねぇんだよ!」

「お前も暗殺者系の職業だろうが!」

「ふざけんなっ! てめぇのステータスの振り方が異常なんだ――うおっ!?」


 俺の文句を受けて前に出ようとしたデスハンドだったが、光の刃が放たれて牽制されてしまう。


「クソがっ! おい、レヴォ! 俺はこいつの注意を引く! てめぇが攻撃しろ!」

「最初からやってるだろうが!」

『グルオオアアアアアアアアァァアアァァッ!!』

「「って、ブレスかよ!?」」


 マズい! 今のフェゴールは動くことができない!

 この状況でブレスを吐き出されたら、間違いなく倒されてしまう!


「やらせるか――ちっ!?」


 聖なるブレスを吐き出そうとしながら、近づいてきた俺に対して前脚を振り抜いて牽制してくる。

 デスハンドには光の刃が今もなお放たれており、おいそれと近づけない状況だ。


「くそっ! 間に合わない!」


 大咆哮の時に一度阻止したせいか、完全に警戒されてしまっている。

 ……くそっ! こんなことなら聖なるブレスの時に阻止するんだったな。


「デスハンド! フェゴールを守れ!」

「無理だ!」

「即答かよ!」


 バチバチとシルバーフェンリルの体から光が放たれ始める。これが聖なるブレスが放たれる前兆だ。

 一刻の猶予もない。俺は玉砕覚悟で突っ込もうと覚悟を決めた――その時だった。


「いきます!」

「フェゴール!?」

『グルオオアアアアアアアアァァ――!?』


 シルバーフェンリルが聖なるブレスを吐き出そうとした瞬間、すでにフェゴールは駆け出していた。

 残るMPを全て消費した渾身の一撃が、今まさに聖なるブレスが放たれようとしているシルバーフェンリルの口内めがけて突き出された。

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