69.フェゴールの一撃

「フェゴール! あとどれくらい時間を稼げばいい!」

「あと1分!」

「聞いたな、デスハンド!」

「はあ!? て、てめぇ、さっきは10秒って言ったじゃねぇか!」


 俺の言葉にデスハンドは慌てた様子で抗議してきたが、それは認められない。


「あれは俺の10秒だ。今回はフェゴールの1分だから別物だよ!」

「ふざけんな!」


 そう屁理屈を並べながら、俺も前に出る。

 さすがにデスハンド一人で1分を稼ぐのは無理だろうからな。

 ボーンヘッドギルドの幹部たちもいるが、あいつらに接近戦は荷が重すぎる。

 今は遠くからコバエ程度に邪魔な攻撃をしてもらっている。

 ……まあ、ないよりはマシって感じの攻撃だな。


「ダークワールドは使わないのか?」

「あれを使ったら、てめぇも巻き込むだろうが!」


 おっと、意外と俺のことも気にしてくれているんだな。だがまあ、問題ないけど。


「構わない、やってくれ」

「……ったく、知らねぇからな!」


 そう言いながら、デスハンドはダークワールドを発動させた。

 一瞬にして周囲が暗闇に支配され、俺の視界は奪われてしまう。

 だが、視界を奪われたのは俺だけではなく、シルバーフェンリルも同じだ。


『……グルルゥゥ』


 これで僅かだが時間を稼ぐことができるはず。

 ただし、この程度の魔法でシルバーフェンリルを完全に抑えられるとは思っていない。


「ぶっ殺して――」

『ガルアッ!』

「どわあっ!?」


 ……あいつ、やっちまったなぁ。

 相手はフェンリルだぞ? んなもん、嗅覚や聴覚は人間よりも良いに決まっているだろうが。

 大人しく時間稼ぎに専念していればいいものを、仕方ないか。


「奪ったのは視界だけだからな! 五感で感づかれるぞ!」

「そういうことは先に言いやがれ!」

『ガルアアアアッ!』


 ちっ! こっちにもきやがったか!

 俺は触覚が感じる風の動きを読み、シルバーフェンリルの攻撃を予測して大きく飛び上がる。

 ブオンと下の方から聞こえてきたから、俺の予測は当たったみたいだな。


「ダークエッジ!」

『グルガアアッ!』


 頭上からダークエッジを放ちシルバーフェンリルを狙う。

 シルバーフェンリルの弱点は腹部、両耳の裏、そして背中の四ヶ所だ。

 俺が放ったダークエッジは背中の弱点に命中し、僅かではあるがダメージを与えた。


「ふっ!」


 身じろぎするシルバーフェンリルを蹴りつけて大きく飛び退くと、俺は再び音を立てることなくジッとする。

 これで30秒、あと半分。

 ここからはこちらからも仕掛ける必要があるかもしれない。何故なら――


『グルオオオオオオオオォォオオォォッ!!』

「エアドーム!」

「うおおおおぉぉっ!?」


 俺はフィーのおかげで大咆哮を防げたが、デスハンドはそうはいかない。

 その直後、ダークワールドが解けてしまい周囲が明るくなった。


「くらえっ!」

『ガルアッ!?』


 大咆哮が解けた瞬間には飛び込んでいた俺は、身を低くしたままシルバーフェンリルの真下へ潜り込むと、六連撃を腹部の弱点へ叩き込む。

 暗殺剣と暗殺者の一撃、さらに筋力上昇で攻撃力を上げているものの、それでもほとんどダメージは入っていない。


『ガルアアアアッ!』

「瞬歩!」


 ここで二回目の瞬歩を使い両前脚から放たれた叩き落しを回避する。

 地面が陥没したのを見ると、あれが当たると一撃でお陀仏だろうな。

 だが、これでシルバーフェンリルの意識は完全にこちらへ向いただろう。

 ダークワールドの再使用にはインターバルが必要だろうから、この戦いではもう使えない。

 スタンが回復するまではデスハンドも参戦できないだろう。

 ……残り何秒だ? 10秒くらいか?


「ダークエッジ!」

「エアバレット! エアスラッシュ! エアバースト!」


 俺とフィーはこれでもかと魔法を乱発してシルバーフェンリルへ殺到させる。


「どうだ! うざったいだろう!」


 ダメージがほとんどないとはいえ、幹部たちの攻撃とも合わせてコバエのようでうざいだろう!

 特に一番近くから放たれる俺たちの攻撃はな!


『ガルアアアアアアアアァァッ!!』

「来た!」


 シルバーフェンリルは大きく飛び上がると、周囲に光の刃を顕現させながら突っ込んできた。


「フェゴール!」

「いきます!」


 俺はこちらに殺到する光の刃の隙間を縫うようにして、宙を進んでいたシルバーフェンリルへ突進するフェゴールを見つけた。


「エアドーム!」

「ぶっ殺しちまえ!」

「せぃやああああぁぁっ!!」


 俺とデスハンドの声を受けながら、フェゴールの槍術上位スキル――神速しんそく剛槍ごうそうがシルバーフェンリルを捉えた。

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