44.イベント開始

 ギルド対抗イベントが始まるまでの間、俺はレベル上げと借金返済のために色々なイベントをこなしながら時間を過ごした。

 ありがたいことに爆炎の戦斧が予想よりも良い値段で落札されており250ゴールド。

 レッドドラゴンの素材も全て合わせて150ゴールドで売れてくれたので、トータルで400ゴールド。

 手数料を引いた280ゴールドが手元に入ってきた。

 そのおかげでなんとか普通の食事にありつけ、俺はギルド対抗イベントに備えることもできた。

 そして――ついにこの日がやってきた。


「ふにゃ~! みんな、大盛り上がりなのにゃー!」

「人がいっぱいなのー!」

「ギルド対抗イベントは毎回こんな感じだったからな」


 ……特に今回はゴールドギルドが参加している。

 誰も彼もがゴールドを一目見ようと考えているだろうし、中には今回のイベントで活躍して移籍したいと考えているユーザーもいるかもしれない。

 今まで見てきたギルド対抗イベントよりも明らかに参加者が多いところを見ると、運営の思惑は大成功だってことだな。


「……だが、最後の最後まで思惑通りだとは思うなよ?」


 俺がゴールドギルドを叩き潰してやる。

 ワンアースではまだ俺のメインクエスト攻略が足りていないためにゴールドのいる場所まで足を運ぶことはできないが、イベント中なら専用のフィールドで参加ギルドが一斉に介すことになる。

 配置場所はランダムになるが、それでも今よりかは近い場所で相対することができるってわけだ。


「ご主人様! 上にテンカウントが出てきたのにゃ!」

「そろそろイベントの開始時間だな」


 周りのユーザーがカウントダウンに合わせて声をあげている。

 ニャーチとフィーも同様に声をあげているが、俺だけは無言のままカウントダウンを見つめていた。

 ……絶対に、ぶっ潰す!


「「「「イベント開始だー!」」」」


 周りがそう叫んだ瞬間から、専用フィールドへの転送が始まった。


 ◆◇◆◇


 ――……ここが、今回のイベント専用フィールドか。

 俺が転移された場所だけかもしれないが、周囲は砂漠で砂以外は何も見当たらない。

 他のユーザーも見当たらないところから、各ギルドで相当離れた場所に転送されたんだろう。

 まあ、他のギルドは人数が多かったりするし、俺みたいに一人で参加しているギルドはないだろうけどな。


「これから何をするのー?」

「あぁ、これから俺たちは――」

「フィーには僕から説明するのにゃ!」

「ニャーチが? ……そうか。サポートガイドだから内容を把握できているのか」

「それじゃあよろしくなのー!」

「任せるにゃ!」


 フィーへの説明はニャーチに任せるとして、俺は運営から届いたDMに改めて目を通すことにした。

 今回のイベントはフィールド内に存在しているモンスターを討伐することで手に入るポイントを競い合うものだ。

 モンスターには獲得できるポイントが決められており、強いモンスターほど獲得できるポイントも高くなる。

 大量のモンスターを倒すだけでは上位には上がれず、強いモンスターを大量に倒さなければならない。

 しかし――それは大きな間違いである。


「……このレイドボスのポイントだけ、おかしいだろう」


 強いモンスターを倒すことに間違いはないのだが、もしもレイドボスを倒すことができたのであれば、他のモンスターはそこまで多く倒す必要ななくなるほどに大量のポイントを獲得することができる。

 二番目に高いモンスターが1000ポイントなのだが、レイドボスを倒すだけで100万ポイントも獲得できてしまう。

 1000ポイントのモンスターの強さがどれほどなのかはまだわからないが、そいつは1000匹倒してようやく追いつけるなんてポイントは、おかしい以外の何ものでもないだろう。


「そして、間違いなくゴールドギルドはレイドボスを倒しに来るだろうな」


 ゴールドギルドがレイドボスを倒してしまえば、間違いなく1位を獲得されてしまうだろう。

 ……よし、俺のやるべきことは決まったな。


「ゴールドギルドにレイドボスを倒させない。あわよくば、俺がレイドボスを倒してやるか!」


 こうして俺は、何もない砂漠の中を歩き出したのだった。

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