43.ゴールドギルド
――レヴォがギルドを設立している頃、ゴールドギルドではギルド対抗イベントに向けて戦力強化が始まっていた。
加入したギルドメンバーの中で全世界ランキング上位のランカーに部隊長の役職を与えてメンバーを率いる権限を与えると、彼らにインベントリの肥やしになっていた装備品を大盤振る舞いしていく。
もちろん、ランカーなので必要ないユーザーもいたのだが、中には貰った装備を競売にかけて一儲けしようと考える者も数名いた。
しかし、ゴールドを操ることになった百弥は特に気にすることはなく、むしろギルドに不要な人材がすぐに見つかると言って放置していた。
「装備品を競売にかけた者たちはいかがなさいますか?」
「ギルド対抗イベントでは最前線に送ってやれ。レイドボスにダメージを与えたあとにぶっ飛ばされる役をやらせてやるんだ」
肉壁にはなるだろうという考えから、すぐには強制脱退させることはしない。
現時点でゴールドギルドの人数は一〇〇人を超えており、大型ギルドと呼ばれている古参ギルドに数日で並んでしまった格好である。
脱退させれば多少は減るだろうが、それでも追加で増えるだろうと百弥は考えていた。
「百弥様。ギルド対抗イベントで対抗馬になりそうなギルドの情報を集めましたので、資料に目を通していただけると助かります」
「それはお前が知っていれば問題はないだろう?」
女性秘書である
「かしこまりました」
「俺がそんな些細なことに時間を掛けられる立場じゃないのはわかっているだろう?」
「はい。大変失礼いたしました」
「わかっているなら、さっさと自分の仕事に戻ってくれないか?」
「……かしこまりました、失礼いたします」
しかし、百弥はそんな楓の態度が気に食わなかったのか、まるで邪魔者をあしらうような感じで彼女への対応を終わらせてしまう。
楓は小さく会釈をしてから部屋を出ると、ドアの前で小さく息を吐き出した。
「……はぁ。百弥様にも困ったものだわ」
そのまま歩き出した楓は自身に割り当てられた部屋に移動すると、そこで自らが集めた資料に目を通し始めた。
とはいえ、自分で集めたのだからほとんどの情報は頭に入っている。
だからこそ、資料に目を通し始めて一〇分としないうちに再びため息が漏れてしまった。
「……はぁ。こうしているよりも、もう一度百弥様のアカウントに慣れておいた方がよさそうですね」
元々は楓もワンアースをプレイしていたユーザーだ。
全世界ランキングこそ500位台とランカーと呼ばれるトップ100からは離れているが、楓はアリーナで活躍していたユーザーだった。
アリーナランキングの1位もゴールドではあるが、楓のメインアカウントは10位と上位に位置している。
だからこそメインアカウントの癖が染み付いており、百弥から与えられたセカンドキャラに慣れておかなければならなかった。
「気をつけなければならないのはギルドランキングのトップ10は当然ながら、ギルドメンバーの多い大型ギルドですからね。慣れないアカウントで囲まれてしまえば、いくら私でも数に押されて倒される危険がありますから」
自分に言い聞かせるようにして呟くと、楓は資料をデスクに置いてVRカプセルに乗り込んだ。
「……本当なら私も、メインアカウントで参加したかったわね」
百弥とは違い本気でワンアースに取り組んでいた楓としては、彼の行為も態度も気に食わなかったが、立場上従うことしかできなかった。
故に、少しでも気を紛らわせるためにとワンアースへログインする。
「……何も考えないようにしましょう。ワンアースをプレイしている時だけは」
ここでもため息が漏れてしまう楓だったが、首を横に振りながらヘッドセットを装着し、ワンアースへログインしたのだった。
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