37.忘れられた村ガルフ
中に通されたものの、周囲のNPCからは怪訝な視線を向けられている。
それもそうだろう。ガルフに足を踏み入れたユーザーはそう多くはないし、ここ最近で中に入れたという投稿は見たことがない。
彼らはNPCではあるものの、ワンアースの中では思考があり感情も持っている。
「……なんだか、嫌な視線だにゃ」
「……私たちは活躍したのー」
それはニャーチやフィーも同じで、NPCからの視線を受けて困惑顔を浮かべていた。
「こちらです」
そうこうしているうちに到着した場所は、ガルフの中でもひときわ大きな
「村長! 客人をお連れしました!」
門番の一人が大きな声でそう口にすると、ゆっくりとした足音が中から近づき、そして屋敷の戸が動いた。
「客人じゃと? ……誰じゃ、お主らは」
「ユーザーのレヴォといいます」
「ユーザーじゃと? ……あぁ、あの腰抜けどもか」
「ご、ご主人様は腰抜けじゃないにゃ!」
「そうだよー! とっても強いのー!」
村長の言葉にニャーチとフィーが声をあげたが、俺は特に気にしていない。
何故なら村長がそう口にするのには理由があり、それは過去にガルフを訪れたユーザーたちが起因しているからだ。
「ふんっ! 今までガルフに足を踏み入れた者たちも最初はそう言っておったわ!」
「ですが村長。この者はレッドリザードマンの集落を一〇ヶ所を、たった三日間で壊滅させた実力者です!」
「……ほほう? それは本当かい?」
このクエストは攻略時間で門番から得られる信頼度が変わってくる。
今回の攻略に要したワンアースでの三日という日数は、俺が知る限りでは最速のはず。
そして、三日という数字を耳にした村長の顔色が間違いなく変わったのを、俺は見逃さなかった。
「はい、本当です」
「そうか。……であれば、今回まではお願いしてみてもいいかもしれないねぇ」
村長がそう口にすると、すぐにウインドウが表示された。
【■自動生成クエスト:隠された村ガルフの悩み解決 ■クリア条件:レッドドラゴンの討伐 ■クエスト難易度:A ■クリア報酬:各職業特化のアクセサリー装備 ■Y/N ※このクエストは『N』を選択した場合、または失敗した場合には今後生成されません】
……ん? どうして発展クエストではなく自動生成クエストになっているんだ?
ガルフの村長から得られるクエストは発展クエストだったはず。攻略サイトに載っている内容に間違いがあったのかもしれないが、全員が同じ間違いをするだろうか?
それに、断ったり失敗したら今後発生しないというのも気にかかる。
「……まさか、三日っていうのが、自動生成クエストに昇格するカギだったのか?」
「どうするのじゃ? 受けるのか、受けないのか?」
「……受けます。YES!」
まあ、考えても意味のないことだ。
自動生成クエストに昇格した理由はあるだろうけど、これを受けない理由がどこにもない。
それに、報酬も攻略サイトに載っていた内容とは異なっている。
確か伝承級以上の装備が手に入るランダムBOXだったはずだが、それが各職業特化のアクセサリーに変わっているのだ。
つまり、クリアすれば確実に役に立つ装備が手に入るということでもあった。
「おぉ、ありがたい。依頼内容はレッドリザードマンを率いているレッドドラゴンの討伐じゃ。奴ら、ここ最近で数を増やしていて、ガルフを捨てねばならないかと考えていたところなのじゃ。もしもお主が成功させてくれれば、ガルフに伝わる秘宝を一つお譲りしよう」
村長がそう口にすると、次にウインドウにはマップが表示された。
レッドドラゴンが縄張りにしているのはアカジャ山脈の頂上付近にある横穴だ。
足場の悪い崖伝いに移動しなければならず、もしも移動中にレッドドラゴンに気づかれて攻撃でも受ければ回避する術はない。
多くのユーザーが移動中に殺されたこのクエストだが、俺には気配を消すに特化した装備があるので問題はなかった。
「それでは早速向かいたいと思います」
「……頼んだぞ、ユーザーのレヴォよ」
最初こそ厳しい口調だった村長だが、最後は切羽詰まったような表情で頭を下げてきた。
「もちろんです。いくぞ、ニャーチ、フィー!」
「わかったにゃ!」
「はいなのー!」
こうして俺たちは、レッドドラゴンの討伐へ向かったのだった。
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