36.レヴォ無双

 アカジャ山脈は広く険しい。

 ゲームだからと甘く見ていたら、足を踏み外して崖に転落、そのまま死亡してペナルティを食らうことだってある。

 ちなみに、ワンアースのデスペナルティは12時間のログイン制限と、そこからさらに12時間の経験値獲得不可になっている。

 そして、12時間の経験値獲得不可の間に再び死亡すると、ログイン制限が24時間となり、経験値獲得不可の期間も24時間に延びてしまう。

 そこにPKが加わると、装備品以外のアイテムが全て奪われるというペナルティが加わるというわけだ。


「まあ、俺はそんなへまを打たないけどな!」


 茂みのせいで隠れていた崖を跳び越え、俺はレッドリザードマンの一つ目の集落に到着した。


「ご主人様は集落の場所を知っているのかにゃ?」

「あぁ。だから、迷うことなく、時間も掛けずにクエストを終わらせられる」

「ご主人様ー! 私も戦いたいのー!」

「一緒に戦おうぜ、フィー!」


 ニャーチには隠れてもらい、俺とフィーは集落に真正面から突っ込んでいく。

 門番らしき槍を手に持ったレッドリザードマンが二匹立っていたのだが、そこに瞬歩を使い一瞬で間合いを詰めると、隼の短剣を鋭く振り抜いた。


『キュシュララッ!?』

「エアバレットー!」

『キュラガッ!?』

「ナイス、フィー!」

「はいなのー!」


 俺が首を刎ねると、もう一方のレッドリザードマンは胸を撃ち抜かれてそのまま倒れていく。

 増援を呼ばれると乱戦になっていたので、正直この方がやりやすいってもんだ。


「できるだけ数を削る。乱戦になるのはそのあとからで十分だ」

「やっちゃうのー!」


 俺とフィーは中に入って辺りを見回し、数が多いところに突っ込んでいってはワンキル判定を狙って仕留めていく。

 門番の合図があれば統率も取れていただろうが、今回はそうではない。

 俺たちの存在に気づいたとしても何が起きているのかすぐには理解できず、レッドリザードマンたちが混乱している間に数を減らしていく。

 しばらくすると統率が取れ始めたようだが、その時にはすでに半壊状態になっており、そこから壊滅まで追いやるのは簡単だった。


『――ギュルリリャリャアアアアァァアアァァッ!?』


 最後のレッドリザードマンを三枚に下ろしたところで、ウインドウが現われて集落の壊滅が表示された。


「これで一つ目か」

「楽しかったのー!」

「残り九ヶ所、一気にいくぞ!」

「はいなのー!」

「ぼ、僕もいくにゃー!」


 俺たちはニャーチと合流すると、その足で次の集落へと向かった。


 レッドリザードマンの集落は一定間隔で存在しており、場所さえ把握していれば一〇ヶ所の壊滅はそう難しいことではない。

 ただ、移動に時間が掛かるため面倒だというだけだ。

 今の俺には五日の猶予がある。時間さえあれば問題なくこなせるクエストであり、全ての発展クエストをクリアすればそれなりの報酬が手に入る。


「――はあっ!」


 一ヶ所、また一ヶ所と確実に集落を壊滅させた俺は――現実世界での丸一日、ワンアースでは三日間を掛けてレッドリザードマンの集落一〇ヶ所を壊滅させた。


「……まさか、本当にやってしまうとは。それも、たった三日でだと?」

「……貴様はいったい、何者なのだ?」

「レヴォ。ただのユーザーだ」


 唖然としている門番を横目に、俺の目の前にはウインドウが現れた。


【サブクエストクリア!】


「……レヴォ。君は確かに俺たちが出した課題をクリアした」

「……どうやら、信頼に値する者だったようだ」

「それじゃあ、中に入れてくれるか?」

「もちろんだ。私が村長のところまで案内しよう」


 こうして俺は忘れられた村ガルフの門番の信頼を勝ち取り、ガルフの中へ足を踏み入れたのだった。

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