10.レベリング
始まりの村を出て東に進むと現れる森、ここが始まりの森だ。
現れるモンスターのほとんどが一般級であり、初心者のレベリングにはもってこいの場所でもある。
日差しも暖かく非常に心地よいので、たまにベテランユーザーがボーっとするために訪れることがある……らしい。
俺はそういうことをしたことがないので、風の噂程度でしか聞いたことがないのだ。
「ここも懐かしいなぁ。本当に最初の頃しかいなかったし、今考えると俺のわからないことがまだまだあるんじゃないか?」
チュートリアル塔でも隠し階段のイベントがあったのだから、始まりの森にもいまだに発見されていないイベントやクエストが隠されているのではないかと思ってしまう。
なんとなくニャーチを横目で見てみたが、彼は楽しそうに俺の足元を進んでいるだけだった。
「……にゃ? どうしたのにゃ?」
「いいや、なんでもないよ」
ニャーチに聞いても答えてくれるはずがないので、俺はなんでもないと口にしただけで話を切り上げた。
周囲に視線を向けながら隠し要素がないか探していると――
――ガサガサ。
茂みの奥から物音が聞こえてきた。
とはいえ、これは隠し要素でもなんでもなく、本来の目的を達成するためのものだった。
「おっ! ようやく現れたな?」
茂みの中から顔だけを覗かせる形で、ゴブリンが現れた。
『……ゲゲ?』
「遅い」
『ゲビャッ!?』
ゴブリンが顔を出した時にはすでに間合いを詰めていた俺は、短剣を一振りして首を刎ねる。
――パッパラッパッパッパーッ!
「おめでとうなのにゃ! 初めてのレベルアップだにゃ!」
レベルアップの効果音が頭の中で鳴り響き、目の前に【レベルアップ!】の表示が出てきた。
「……まあ、最初はこれでレベルが上がるんだよな。次だ、次!」
「あまり感動しないんだにゃ?」
ワンアースで最弱の部類になるゴブリンを一匹倒しただけでレベルが2に上がった。
まあ、これはある意味仕様だよな。
ちなみに、レベルが1上がるごとにHPとMPは10ずつ、残りのステータスは1ずつ上がり、ステータスポイントとスキルポイントは3ずつ増える。
すぐにステータスポイントを割り振ってもいいのだが、今は時間が惜しいのでそのままレベリングを継続だ。
「ご主人様、どこに行くのにゃ?」
「もうすぐわかるよ」
俺は迷いなく始まりの森を進んでいくと、目的地までの道中でゴブリン、ワイルドウルフと遭遇するがワンキル判定であっさりと仕留めていく。
稀に出てくるゴブリンの上位種であるゴブリンウォーリアやゴブリンライダーも難なく仕留め――俺は目的地に到着した。
「……よし、いたいた」
到着した先は先ほどワンキルしたウォーリアとライダーが群れを成すゴブリンの集落。
ただのゴブリンであれば初心者でも頑張って倒すことは可能だろう。しかし、上位種であるウォーリアやライダーは各種ステータスが倍以上違ってくる。
単体で出会ってもレベル2や3では危険な相手なのだが、俺はレベル上げに最適な場所という認識しか持っていなかった。
「それじゃあ――一気に片付けるか!」
茂みに隠れて様子を伺っていた俺は瞬歩を使ってゴブリンの集落に突進していく。
入り口を守るゴブリンを二匹、そのまま中に入り四匹、二回目の瞬歩で中腹にいたウォーリアとライダーを一匹ずつ仕留める。
『ゲギャギャギャギャアアアアッ!』
侵入者に気づいた一匹のウォーリアが大声をあげた。
「ゴ、ゴブリンが集まってきたのにゃ!」
「ははっ、それでこそ楽しめるってもんだ!」
大量のゴブリン種に囲まれたが、俺は笑みを浮かべながら隼の短剣を構える。
「こいよ、ザコ共! 全員一撃で仕留めてやる!」
「「「「ゲギャギャギャギャアアアアッ!!」」」」
ここからは一気に乱戦になっていく。そもそもゴブリンに連携を取るような知識は存在していないから仕方がないのだが。
俺は乱戦の中でも高い敏捷を活かしてゴブリンたちの間をすり抜けていき、一撃も食らわずにワンキルで仕留めていくと、あっという間に集落を壊滅させた。
「……す、すごいのにゃ、ご主人様! 僕は驚きすぎて声も出せなかったのにゃ!」
「ありがとな。でも、今回はステータスポイントを敏捷に全振りしたのもあるけど、やっぱ一番は隼の短剣の性能だな。敏捷+30はマジででかいよ」
これなら瞬歩を使わなくてもよかったかもしれない。残りストックが3だから、ここからは慎重に使わないとな。
集落の壊滅にあって周囲にモンスターの気配はない。
というわけで、俺は現在のステータスを確認することにした。
「レベルは……5まで上がっているか。ここでステータスポイントを振っておくかな。まあ、全部敏捷にだけど」
俺は貯まっていたステータスポイントを全て敏捷に振り終わると、なんとなく自分の姿に目を落とす。
「……そういえば、隼の短剣以外は初期装備のままだったわ」
早くレベリングしたいという気持ちが先走ってしまい、すっかり忘れていた。
始まりの森程度なら初期装備でも問題はないのだが、それ以外の問題がやってくる可能性も少なくはない。
……まあ、俺なら問題なくそれにも対処できちゃうんだけどな。
「とはいえ、さすがにずっとこのままじゃあ格好がつかないな。一度始まりの村に戻るか」
「それがいいと思うにゃ!」
どうやらニャーチも気になっていたようで、俺は彼の頭を一度撫でてから歩き出した。
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