3節 後 ロスターニャ前日

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 質問は多くあった。ここはどこなのか。そもそもどういう世界なのか。なぜ俺はこんなところにいるのか。なぜ日本語が通じるのか。

 しかし、腹の音の前にはそれも無駄な話で、俺は助けられた老婆からもらったスープを適度に冷ましながらずっと飲んでいた。

「本当にお腹すいてたんだねえ」

 老婆は笑いながら言う。そのしゃべり方にふと懐かしいものがこみ上げてきた。

 スープには豆が少量、なにかの茎らしきものが浮いている。茎はレンコンのようなものか。味も薄めだ。

 だが俺にとっては久しぶりの飯のようで、印象に残るほどうまく感じていた。最も、どのくらい食っていないか分からないが。

 すると段々と悲しみが襲ってきた。俺は、誰かに飯を作ってもらったのっていつぶりだったっけ。

「こんなものでよかったらたくさんあるからね。私のような老婆には量が多すぎるんだよ」

 涙をぐっとこらえてスープを飲み干し、お代わりをお願いした。すると老婆は椀に注いでくれた。それをぐっと飲むと涙がこらえられなかった。

 俺がどこにいるとか、なんでこうなったなんかどうでもいい。

 捨て鉢になった人生なんだから、それを捨てるくらいなら何かに使えと神様だか仏様だかがこの老婆に遣わしたかなんかなのだろう。

「ばあちゃん」

「なんだい」

「この家に誰か働き手はいるの」

「いないよ。爺さんが死んで私一人さ」

 俺は手元に置かれたスープをぐっと飲み干し、またお代わりをしながら言った。

「明日から色々、教えてもらえないだろうか。仕事からなにから」


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 はっとなって目を覚ました。

 隣では給仕が静かに寝息を立てている。窓を見るとまだ太陽は登っていない。

 俺が眠るまで何をしていたのだろうか。記憶にあいまいだ。明かりを頼りにテーブルを見ると空になって転がっている酒瓶とグラス、そして二人分の衣服が脱ぎ散らかされている。

 俺が彼女に何をしたのか、彼女はそれにどう答えたのか。まったく記憶がない。

 ただその軋む脳裏には、勢いに任せて体をぶつけたことだけが残っている。

 おそらく快楽に興じたのだろう。どんなものだったのかよく分からなかったが。

 もう一度彼女を見る。

 そっと彼女の乳房に触れ、ゆっくりともんだ。

 彼女は体をよじった。


 記憶はあいまいだけど、初めて女を抱いた。

 気持ちよかったのか、そうでなかったのか。

 自分が求めたものなのか、そうでなかったのか……。

 考えども考えども……。

 記憶と快楽が酔いの濁流にのまれていき、そのまま流されていった。

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