第2話

 学校からの帰り道、それはいつも誘惑の道でもあった。

露店がいくつも並び、明らかに子供向けのものもあり、活気と鮮やかさに溢れている。

チョコとバニラも例外なくその様子をチラチラと見ていたが、寄り道は稀だった。

いつもなにかを買い込んでるガキ大将のグループがあったりして、そいつらは金持ちの子供たちとして、露店の大人がおだてて買わせている。


 その裏側が見えるような生き方を二人はしてきたからこそ、やはり寄り道はしなかった。

けれども、そんな二人にも店主が声をかけることがある。



「ねぇ君たち」



 その時点で二人は頑なに目を合わせなかったのだが。



「俳優の江白さんちの息子さん?」



 思わずドキッとして、二人は振り返った。

すると狐の面の飴売りが、二人のことを見ていた。



「ね、この間君たちも写真に写ってたでしょ?」



 チョコとバニラは少し考えて、ジャンボから「お前たちの写真持ってってもいいか?」と聞かれた日のことを思い出す。

そして雑誌にその写真は載ったのだが、二人は少し気恥ずかしくてちゃんとは見ていなかった。

しどろもどろな二人に飴売りは、二つの美しい飴を差し出す。



「私ねぇ、江白さんのファンなの。良かったら食べてって。サービスだから」



 飴売りは男性とも女性ともつかない中性的な声をだす。

差し出された飴をつい手に取ってしまったが、さっそく封を開けようとするチョコの手をバニラが止めた。



「狐面の飴売りの話をどこかで見かけたんだ。いま、やっと思い出した」



 バニラはチョコの飴もひったくって、飴売りに投げつける。

かなりショックを受けてチョコは固まったが、構ってる場合ではない。



「有名な人さらいのおとぎ話だろ。小さな子供でさえみんなそんな話は知ってる。おちょくってるのか?」



 チョコはかなり驚きを受けて再度固まったが、構ってる場合ではない。

バニラは飴売りを睨みつけ、次の行動を待った。

どうでるか。もしも本当に善意なら謝ればいい。

しかし悪意の存在であるのなら。



「だからこんな回りくどいのは嫌だって言ったんだ」



 呟くような独り言。

そして踏み込む足が見えた。



「チョコ!避けろ!」



 ナタが容赦なく宙に掲げられ、チョコに襲いかかる。

チョコは理解不能なまま、ナタをよけて転がり立ち上がる。

その動きの鮮やかさに飴売りが戸惑ったのは一瞬。

バニラの渾身の回し蹴りが、飴売りの頭を狙い撃ちした。


 揺れる視界に崩れ落ちる自分の体。

脳震盪を起こした飴売りは、チョコとバニラの後を追えなかった。

混乱しっぱなしのチョコの手を必死にバニラが引いて走る。

白昼堂々の大立ち回りは、目撃者多数の中、犯人は簡単に取り押さえられて時はすぎた。


 家にたどり着いた二人は、すぐに鍵を閉めて、肩で呼吸をする。

もう話す気力もなかったが、二人は同じことを思っていた。

『ジャンボ、早く帰ってこないかな』と。


 空が暗くなっても、二人は物音もたてず、あかりも付けず、じっと息を殺して動く。

家の外に、ゆらりと背の高い影が揺れた。

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