隠し二刀退魔旅

ムネミツ

 斬二郎 森で蜘蛛の化け物を斬る

 「やれやれ、すっかり夜になっちまったか」

 三度笠に道中合羽、腰に差すのは刀一本の渡世人。

 月明かりが照らすのは、切れ長の目をした役者のような色男。

 彼の名は斬二郎ざんじろう、士分は捨てたので性は無し。

 故あって国を捨てての旅暮らし、当てなき道を流離う身。

 「仕方ねえ、森に入って夜風をしのぐか」

 宿など取れぬ野道の上、寝るのに適した木でも探すかと森へ入る斬二郎。

 梟が鳴く中、草木をかき分け進んで行くと開けた場所に出る。

 「おお、丁度寝るのに都合がいい木があるな」

 斬二郎の目の先には樹齢百は越える巨大な木があり近づく。

 だが、木の根元の方にに動く者を見て足を止めた。

 「おいおい、先客か? こんな森の中に旅姿のお嬢さんとは胡散臭い」

 斬二郎が見つけたのは赤い着物に風呂敷を背負った旅姿の娘。

 娘の方も斬二郎に気が通と、その瞳を赤く変え即座に正体を現した。

 「貴様、鬼を切った事があるな? 何者だ!」

 先ほどまで娘であったのは巨大な蜘蛛の下半身をもつ裸身の女。

 「け、やっぱり化け物だったか! 俺は鬼切りの斬二郎、化け物は斬る!」

 「小賢しいわ!」

 口から糸の玉を吐き出す化け物、斬二郎はその攻撃を避けつつ刀を抜いた。

 今度は長い糸を吐き出してくる蜘蛛の化け物、斬二郎はその糸を乱麻を断つが如く

切り落として間合いを詰めに行く。

 「まずはその足から切り捨てる」

 「馬鹿め、只の刀で私が切れるか♪」

 余裕の高笑いを挙げる蜘蛛の化け物。

 「斬れるんだよ、化け物退治の経文刻みの一刀だ!」

 「ぎゃ~っ! おのれ人間如きが!」

 痛みに悶えながらも斬二郎を襲う蜘蛛の化け物、上半身の腕を伸ばして振るい斬二郎を吹き飛ばす。

 「がはっ! しまった、刀が!」

 吹き飛ばされ、木に打ち付けられた斬二郎は刀を手から落としてしまう。

 「その刀さえなければ!」

 蜘蛛の化け物は糸を吐いて、刀を絡め取って放り投げた。

 刀がなければ恐れるに足らず、化け物は斬二郎へと飛び掛かった!

 「ち、こいつしかねえか!」

 斬二郎、鞘を手に取り脇構えを取る。

 「馬鹿め、鞘で切れるか~~~っ♪」

 笑いながら落ちてくる化け物。

 「斬れるんだよ、お前ら化け物ならな!」

 斬二郎が落ちてきた化け物に対して鞘を振り上げると、化け物は真っ二つに割れて崩れ落ちた。

 「この鞘はご神木で作った木刀、こっちが化け物を叩き切る本物の鬼切りの刀よ」

 化け物が消えゆく中、鞘を杖代わりにして体を支え一息を付く斬二郎。

 「くそ、刀の方を探しに行かにゃならんか」

 化け物退治で披露する体を奮い立たせ、斬二郎は放り投げれた刀を探しに行く。

 鞘と刀で二刀流、隠し二刀の斬二郎の旅は続く。

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