第6話「川岸にて…」

 頼朝は鎌倉に入ってからも息つく暇なく平家が頼朝討伐の為に送り込んだ清盛の孫、維盛のに立ち向かうために更に兵力を求めた。甲斐源氏の武田信義の元を訪れたのもそのためであった。

 だが総一朗さえも予想だにしなかった結果が待ち受けていた。

 飢饉の最中なのに信義から過大なもてなしを受けた頼朝。これは信義の計略で、頼朝軍の士気と忠誠心を下げると同時に源氏の中でも自らが誰よりも高い地位に昇ろうとする計画の一つだった。

 頼朝と時政、信義の酒席に上がろうとした途端、義時と共に追い出されてしまった時にに気がついた総一朗。これは何か裏があると見抜いたのはジャーナリストの目は騙せないということだろう。しかし、それを真っ先に伝えなければならない御仁頼朝を信義が殆ど側から離さなかった。その結果、信義に富士川で戦をするには一番良い場所をまんまと先取りされてしまう。

「ふん、頼朝などチョロいもんよ。出し抜いてやったわ」

 軍議と陣の支度が下人達により進められる富士川のほとりで信義はほくそ笑んだ。


 信義出し抜かれ、怒りと焦りで落ち着かない頼朝。

『武功を挙げることは武士の誉というが、信義アイツ、儂ら来る前に駿河の目代も倒してたなんて…どんだけ武功挙げるんだよアイツはぁ!?』

 色々と完全に先を越されイライラしている頼朝は心の中で呟く。

 そこに時政が何か策でもあるかのような顔で現れる。

「佐殿。オレ、ちっと三浦の次郎義澄と話してくるわ」

 苦い顔をしながらも彼を義澄のもとに行くことを許した。

 時政の姿が見えなくなったのを確認すると、頼朝は総一朗にもう少し近寄ってこいというかのように小さく頷きながら手招きをする。

「総一朗、時政に気づかれぬよう後を付けて何を企んでいるのか探ってきてはくれぬか?」

 耳元でささやく頼朝。ここのところ、配下の者たちがいまいち信用できない頼朝ならこの行動は致し方ないだろう。

「頼朝さん、僕をジャーナリストとして扱ってくれるんですね」

「じゃ、じゃーなりすとだったか。そういえば」


「俺たちの意見はもう固まっておる。もう一度言うぞ。この戦が終わり次第、我らは各々の領地へ戻る」

 川岸で義澄が平家からの追討軍を見ながら時政に語りかけていた。

「時政。もう少しちゃんとしてくれ」

 いつになく口調が厳しい義澄。

「あぁ、しかしどうすりゃいいよ?俺ぁ…」

 信義の計略にずっぽりとハマり凹む時政に義澄が気合一発、平手打ちを食らわせた。

 不意の平手打ちビンタで吹っ飛ぶ時政。

「やぁりやがったな!」

 プロレスさながらのビンタ合戦で義澄も派手に吹っ飛ぶ。

「あっ…」

 総一朗の漏らした声と大人一人が水辺で吹っ飛び大きく水が弾ける音さえも掻き消すほどの水鳥の大群が羽音を立てて飛び立っていく。


 富士川に着いた頃には完全にやる気を削がれていた平家の兵士たちは、頼朝軍が夜討ちに来たと錯覚し、我先にと逃げていってしまった。

「討伐軍は逃げていったから結果オーライだが、これを頼朝さんに話していいものなのか…」

 悩む総一朗。

 歴史とは後世の人間からすればしょーもない事やみっともない事の積み重ねで事件が起こることが度々あるのだが、今回のことだけは口を閉ざしておこうと決めた。

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