夏休みの宿題を双子の弟と終わらせる話

澄久

第1話

葉から漏れた光が畳を照らし、独特の草の匂いが8月の蒸し暑い空気と共に和室を充満する。その部屋には、17になる高校生がだらしなく腹を出しながら寝そべっていた。



お盆休みのこの休暇で、俺と弟、両親と共に、田舎にある祖父母の家に帰省していた、毎年の恒例行事である、今日は大量の宿題を終わらせたところだ



「クソあちぃ、、、」



暑さで鉛のように重い上半身を起き上がらせ、足の先を見る、栗色の質素なちゃぶ台の上には、向日葵の花柄が印刷されている空になったコップ、そして終わらせた宿題が乱雑に置いてあった




数学と英語の参考書を見て、数年前の記憶が蘇った俺はふと呟いた




「二刀流、、、」







ーーー


中学生の夏休みの終わり、夜の虫の音が鳴り響く中、俺と双子の弟はシャープペンシルを走らせ、課題に取り組んでいた




日めくりカレンダーは8月30日、夏休みの最終日前日を表わしていた




「ダメだーーー!数学難しすぎるー!」



片割れがそう言い、シャーペンをノートの上に放り投げた、そのノートは、式すらまともに書けていない、問題の番号しか書かれていなかった




「もう答えみようかな〜、、、」




双子の弟が答えの書いてあるプリントに手を伸ばそうとした時、俺は口を開いた




「でもあのズラ、無駄に勘いいから答えみたら1発でバレるぞ」




そうしたらカクンッと動きを止めた




「はーーーー、、、どうすればいいんだよー、、、英語の単語練習なら1発で終わるのになー、、、、、くそー明日川行って遊びたかったのに〜」




俺は英語の単語練習をしている手を止め、双子の弟の顔を見た




「、、、ならさ、俺の単語練習と数学、交換してよ」




単語を書くだけという単純作業に自分は少し飽きていた、だったら既に自分で解いた数学の問題を、もう一度解いた方が退屈はしないだろう





「おっしゃ!!キタコレ!!!」




弟は数学のワークを俺に渡した、俺も、英語のノートを弟に渡した




そしたら弟は何を思ったのか、シャープペンシルを2本持って、左右の手に持った




何をする気だ、と思い、数学のワークを進める手を止めて、手元を見ると、英単語を両手で書いていた




乱雑に書かれた英語がノートの上で踊っている




「はははーー!!これが二刀流だ!!」




あまりのくだらなさに、思わず笑いが込み上げた




「ふふ、なにやってんだよw」



ーーー




「結局あの後バレてこっぴどく怒られたんだよな」




ジリジリと肌を侵食するような暑さに嫌気が差し、俺は立ち上がった




やることは終わっている、好きにしても何も文句は言われない



この暑さなら、家でじっとしているより、近くの川に行って冷たい水に足を浸からせた方が良いだろう




ぺたぺたと玄関に向かい、サンダルを履いた




「どこに行くの?」




立ち上がり、横引きのドアを開けようとした時、後ろから母に声をかけられた




「川」




振り返り、俺は場所だけ伝えた





「そう、、、気をつけてね」




ーーー



日陰で涼しく、快適な山道を上る、道の途中には濃い灰色の墓石が規則正しく並んでいた、ここは山道の途中に墓が置いてある、お香の匂いが鼻を通った




やっと目的の場所につき、サンダルと靴下を脱いだ





都会のドブ川とは違う透明な川の冷たい水に、足を浸からせる




「、、、戻ってこいよ」




思わず呟いた、何か返事帰ってくる訳でもないのに、、、




返事の代わりか、後ろからジャリジャリと、石を蹴るような音が聞こえた




「おにーちゃん!」





話しかけてきたのはもう1人の弟、まだ小学校に上がって僅かで、引き算もまともに出来ない年齢だ




「お墓には行ったか?」





弟からは僅かにお香の匂いがした、きっと、片割れの墓参りにでも行ったのだろう





「うん!なむなむしてきた!」




「ならよかった」

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夏休みの宿題を双子の弟と終わらせる話 澄久 @udonkyuuri

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