家伝の二刀流

小龍ろん

家伝の二刀流

一見平和に見える我が家。

だが、そんな我が家にも敵は存在する。


居間に寝室にリビングに。

奴らはあらゆる場所に現れる

 

常在戦場。

決して油断してはならない。

もし、不意を突かれでもすれば。

悲鳴を上げて逃げ惑うほかなくなるだろう。

抗うには鋼の精神が必要だ。


奴らの姿は見る者の嫌悪感を誘う。

テカテカと黒光りするその姿。

気の弱い者が見れば、それだけでパニック状態に陥るだろう。


その上、しぶとく生き汚い。

仕留めたと思っても油断は厳禁だ。

奴らは死を装う。

確実に命を奪うまでは決して目を離してはならない。


その名を口にするのも悍ましい奴ら。

そう、仮にその名を『G』としよう。


我が家とGとの戦いの歴史は長い。

この家が建てられてから、早二十余年。

平和な時代は最初の数年だった。

Gはいつの間にか我が家を根城にしていた。


後手に回った感は否めない。

もはや、奴らを駆逐するは難しいのかもしれない。

しかし、諦めるわけにはいかない。

いつの日か平穏をつかむ。

それが我が家の悲願だ。


そして、今日も戦いが始まる。


左手には殺虫スプレー、右手には丸めた新聞紙。

これが我が家の家伝の二刀流。

Gに対抗するための必殺の構えだ。


奴に慈悲など無用。

躊躇なく殺虫スプレーを噴射する。

確実に、そして丁寧に。

過剰と思えるほど吹きかけるのが肝要だ。


やがて、動かなくなるG。

 

やったか?

そう思う心こそが油断だ。


すかさずに右手の新聞紙を振り下ろす。

一度、二度、いや、三度。

念には念をいれる。

奴らを甘く見てはならない。


今日もどうにかGを撃滅することができた。

だが、Gとの戦いはまだまだ続くだろう。


自分の代で終わらせることはできるのか。

いや、難しいだろう。

だとすれば。

我が子にも、この技を伝えていかなければならない。

 

宿業を子に背負わせることになるとは。

親としては情けなくも思う。

だが、信じている。

いつか、Gのいない平和な世界が訪れることを。

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