KAC20227 “出会いと別れ”


「おいは、神様を信じちゃいねぇ……」



 猫田さん。口を開けば、痛烈な皮肉ばかりで言っておりしたね


 安らかな寝顔を見ておりますと、吾人ごじんは、


あの頃の楽しかった会話を思い出します……



 ◇



 最新型電脳ゲーム機〔PUSピーウス5〕を始めた起動させた瞬間――


 いまでも、当時の興奮がよみがえってきます


『ニートに転生した異世界勇者はパーティが組めない!』をプレイしていた時に

猫田さんが呟いた言葉でした


「おいは、神様を信じちゃいねぇ……」


「はて? 猫田さんほど優秀なゲーマーが、

 サウンドノベルゲーム(ホラー系)ごときで、根を上げると?」


「いや、だってさぁ~ これ、マジで怖ぇぞ、ナベさん」


 恰好いい感じの『カットイン』の所を申し上げにくいのですが、

実際は、6畳1間の小部屋でVRゴーグルを掛けた老人が、2人して、

ほんの少しでも恐怖を分かち合おうと、恋人繋ぎの醜態が正しい挿絵でございます




 ――荒廃した世界で――


 食べ物を巡って、武装した 無職 VS ニート で争い・奪い合うという物語で、

「人狼ゲーム」の要素を多いに取り込んだ、たいへん奥深いゲーム内容でしたな



 思い出は、あとからあとから湧き出てきます……



 お医者様から頂いた死亡届に『老衰』という診断結果をみて、愕然としました

なぜか備考欄に、お医者様のコメントが、こう記載されておりました


「おお! 猫田よ、死んでしまうとは情けない…」


 ――ちょっと頭おかしんじゃない?この先生――

と猫田さんの奥様やご子息が言っておりましたのを、

しっかりと録音させていただきましたよ、猫田さん……


 その、お医者様が…………。


いまは、吾人と手を繋いで泣いております



その隣には、猫田さんの奥様までものが、手を繋いでいるではありませんか―――



「あの……奥様とは、どういった ご関係で?」

「診断書を書かせて頂いた翌日に、口説かれました

 一目惚れだ、と言われまして、…つい……」


(なるほど。奥様にとって、『出会いと別れ』は同時だったという事ですか……


 猫田さん、安心して逝ってください。もう心配はありませんよ)


 ◇


 老人会の『新宿ゲーマー・四天王』が、ひとり―――


  ついに! あの世へと、旅立ってしまった……



猫田さんの訃報ふほうは、静かに、着実に世界を蒼黒そうこく追悼そらに染め上げていく




 まさか――



こんな老いぼれた2人が、あのような事件に巻き込まれてしまうとは……



苦労なんぞ、したくはなかったのですがねぇ……






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