ゴリラの就職

斯波 楽

第1話

 事務室では、採用希望者に対する面接が行われていた。

「あなた、履歴書は?」

「ありません」

「履歴書なしで応募してきたの?」

「はい」

「なんで?」

「書けないからです」

「字が?」

「はい」

「あなた歳はいくつ?」

「25です」

 面接官は、しげしげと彼の手を見た。

「まあ、理解できるけど。じゃあ口頭で質問するから。名前から聞こうか」

「ゴリちゃんです」

「かわいい名前だね。見かけに似合わず」

「前の職場では、マスコット的存在でした」

「前の職場ってどこ?」

「動物園です」

「だと思った。なんでここを志望したの?」

「夢です」

「夢?」

「はい、夢です」

「あまり君みたいな人が見る夢として、一般的ではないと思うけどね」

「二刀流です」

「二刀流?」

「はい」

「二刀流に挑戦したいの?」

「はい」

「でもここ、水族館だよ?」

「動物園と水族館の二刀流です」

「でも、あなたゴリラでしょ?」

「はい」

「泳げるの?」

「得意です」

「でもねえ…」

「魚じゃなきゃダメですか?」

「いや哺乳類でも、イルカやオットセイならいいけど。ゴリラとなるとねえ」

「二刀流のゴリラです」

「あなたエラ呼吸できる?」

「はい」

「できるの?」

「中6日ならできます」

「それだと週に一遍は水槽に入ってもらうけど、いい?」

「やれます」

「他の曜日はどうするの?」

「芸をやります」

「何ができるの?」

「モノマネです」

「誰の?」

「マリリン・モンローです」

「やるの?」

「はい」

「その体で?」

「はい」

「その顔で?」

「はい」

「ふむ。マリリン・モンローのモノマネとエラ呼吸のできるゴリラねえ」

「二刀流です」

「水槽はイルカと一緒だけどいいかな?」

「かまいません」

「食事は魚がメインだけどいいかな?」

「週に一度バナナをいただければ」

「よし、じゃあ採用しよう」

 こうして、二刀流ゴリラへの道は開かれた。何事も挑戦である。

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