第14話 那遊…友達ができてよかったな
大丈夫なのかよ……。
隼人は不安な感情を抱き、街中を走っていた。
全力で移動していて、息が苦しくなってくる。
だが、今はそんなことなんて気にはならない。
それよりも、那遊の方が心配なのだ。
「ねえ、はあ、はあ……い、いきなり走りだしてどうしたの?」
足の速い春奈は、蕎麦屋を後にすぐに追いつかれる。
隼人の隣を走り、息を切らしながらも彼女は問いかけてきたのだ。
「……那遊が街中で怪我をしたらしいんだ」
「え? 怪我? 大丈夫なの?」
「いや、わからない」
先ほどスマホ越しに出たのは、那遊の友達。本来、そのスマホは那遊のものだが、代わりに受け答えをしていたのだ。
なんでこんなことにと思う。
目を話していたことで、大変なことになってしまったと。今になって後悔しても遅い。
今は全力で那遊がいる場所へ向かうことの方が先決だと考えていた。
走っている間も、隼人の脳裏には、怪我をして泣いている那遊の姿が浮かんでくる。
そして、二分ほど走り、那遊らがいる映画館のある建物へと到着した。
「はああ……はああ……」
「もう、いきなり走るんだから……」
隣にいる春奈も少々息を切らしつつも、すでに呼吸を整え、建物を見やっていた。
「ねッ、隼人、早く入ろ」
「う、うん……」
春奈の方がすでに万全な状態である。
隼人は彼女と共に、デパートの中に入るのだ。
映画館のある場所は、デパートの最上階、七階だったような気がする。
エスカレーターに乗り、先を急ぐ。
一分ちょっとかかってしまったが、何とか、映画館フロアに到着するのだった。
「隼人、那遊ちゃんはどこにいるの?」
「いや、わからない」
隼人。そして、春奈も映画館フロアを見渡す。
しかし、辺りは薄暗く、お客もそれなりに多いことからすぐには見つけられなかった。
どこだ?
別のところに移動しているのか?
わからないと余計に不安になるのだ。
「隼人、もう一回電話してみたら?」
「そうだな」
簡単なことに気づくことに遅れてしまい、春奈から指摘され、ズボンのポケットからスマホを取り出す。画面を見て、電話機能のアプリをタップする。
と、誰かの気配を感じた。
「那遊のお兄さん……」
え?
聞き覚えのある声。
振り返ると、そこには那遊と一緒に行動していたロングヘアの女子小学生が佇んでいた。
「あの、那遊のお兄さんですよね?」
「ああ」
「あの、さっき、電話したんですけど……待ち合わせ場所を伝えるのを忘れて、迷ってるのかもしれないと思って来たんです。すいません……説明不足で」
ロングヘアの女の子は礼儀正しく話し、申し訳なさそうに頭を下げて謝る態度を見せていた。
「いいよ。それより、頭を上げて」
隼人はそう言った。
「……本当にごめんなさい……」
「いいよ。それより、那遊はどこにいるんだ?」
「こっちの方です」
ロングヘアの女の子は丁寧に案内してくれる。
彼女を追いかけるように、隼人と春奈は移動した。
映画館のフロアに隣接した別のフロア。
そこのベンチに那遊の姿があった。
その隣では、ショートヘアの女子小学生が心配そうに那遊を慰めている。
「那遊ちゃんのお兄ちゃん、こっちです」
呼びかけられ、そこに向かう。
「那遊大丈夫か?」
「う、うん……」
「というか、どうしたんだ? 何が?」
那遊の足を見ると、膝のところには傷跡があり、絆創膏や包帯が巻かれているが、ちょっとだけ血がにじみ出ていた。
一応、那遊の状態的に問題はなさそうで、多少はよくなっているようだ。
「あの、私が悪いんです」
ショートヘアの女の子が不安染みた表情を浮かべ、急に謝罪してくる。
明るい性格のショートヘアの女の子からは似つかわしくない声のトーンが軽く響く。
「そんなに頭を下げなくてもいいからさ」
「ううう……」
ショートヘアの子は、少々瞳を潤ませていた。
「気にしなくてもいいから、事情を説明してくれるかな?」
「は、はい……」
ショートヘアの子は涙を拭う仕草を見せた後、口を開く。
「あの、その……私が、一緒にバスケをしようって誘って、スポーツフロアに行ったの。それで、バスケ中に那遊ちゃんが転んでしまって。怪我をしてしまったの」
軽く泣きながらも説明をしてくれた。
「でも、それだと、君が悪いわけじゃないような」
「んん……悪いの」
そんな中――
「悪いのは私だよ……」
割り込むように発言したのは、那遊だった。
「私がね。ただ転んじゃっただけで、私が悪いの」
那遊はハッキリとした口調で言う。
「それに、私はもう立てるから……スポーツフロアのお姉さんから、手当てしてもらったし。私は大丈夫……」
そう言いつつ、那遊はベンチから立ち上がる。
「今日はありがとね、一緒に遊んでくれて」
那遊は二人の友達へと向かって言う。
「ごめんね……」
「那遊ちゃん大丈夫?」
二人の友達が優しく声をかけてくれる。
「うん、大丈夫……。あと、隼人お兄ちゃんにも迷惑かけてしまって、ごめんね」
那遊はちょっとばかし痛みを堪えたような表情を見せ、強がっているような感じだ。
「そんなこと気にするなって。俺がついていなかったせいだから」
「違うよ。バスケするって、私が決めたことだから……」
そう言う那遊は、ちょっとふらついている。
「え?」
那遊は驚きの声を軽く上げる。
サッと、隼人は小学生の義妹の背後を抑えた。
「隼人お兄ちゃん?」
「いや、無理すんなって」
「きゃあッ」
隼人は、那遊の体を持ち上げる。と、那遊は軽い悲鳴を上げた。
もう今日は帰った方がいいだろう。
そう思い、隼人は那遊の友達らを見た。
「今日はさ、一緒に遊んでくれてありがとな。那遊は帰るから」
「う、うん」
「またね、那遊ちゃん」
二人の友達は、承諾してくれる。
「え、隼人お兄ちゃん、勝手に決めないでよ」
「いいから。あの子らと友達ならさ。後で遊べばいいじゃん」
「んん……」
那遊は痛みを堪えた顔と、不満そうな顔が入り混じった表情をする。
「やっぱり、まだよくないんだって。今日は休もうな」
「……」
隼人がそう言うと、那遊は仕方なさそうに頷いていた。
「隼人、私を置いていかないでよ」
那遊をお姫様抱っこするように抱えて歩き始めると、春奈がついてくる。
「あとさ、今日は、春奈との約束はちょっと無理そうなんだ。後でもいいか?」
「……う、うん」
彼女の反応が鈍い。
「だったら、今日はここで」
「え? そうか? じゃあ、また今度な」
「うん。じゃあね」
結果として、春奈とこの場で別れることとなった。
隼人は義妹を抱えたまま、歩く。
「でも、那遊。友達ができてよかったな」
「……うん。でも、このままだと恥ずかしいよ……」
那遊は頷くが、お姫様抱っこはやめてほしいようだ。隼人は一旦、義妹を床に立たせ、普通に手を繋いでデパートを後にするのだった。
俺に好きな相手がいるとわかったら、父親の再婚相手の娘が、なぜか悪戯をしてくるようになった。 譲羽唯月 @UitukiSiranui
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