第12話 那遊にとっては、これでよかったのかな…?

「那遊ちゃんも、ここに来てたの?」


 Tシャツにズボンを身に着けた、ショートヘアスタイルの女子小学生が問いかけてくる。


「う、うん……」


 那遊は頷いた。


「この人は?」


 長袖長スカートの服装。ロングヘアスタイルの女子小学生は、隼人の顔をチラッと見て言う。


「お、お兄ちゃんだけど」


 那遊は少々たどたどしい口調で返答していた。

 友人だと思われるが、那遊は消極的である。


「へえ、そうなの? 那遊ちゃんに、お兄ちゃんなんていたんだね」

「う、うん……」


 隼人の隣にいる那遊は俯きがちで、小さく口を動かす程度。

 本当にクラスメイトで、友人なのだろうか?

 知り合いなのに、少々押され気味な気がする。


「ねえ、那遊ちゃんはお兄ちゃんと遊んでいたの?」


 ショートヘアの女の子が、那遊に近づき、問う。


「そうなの」

「そうなんだ。もしかして、お兄ちゃんのことが好きなの?」

「ち、違う……」

「嫌いなの?」

「そうでもないけど……」


 那遊は、ショートヘアの子に、ハッキリとしない反応ばかりだ。


「え? どっち? 私、知りたいんだけど」


 ロングヘアの子が、テンション高めに、那遊の左手を掴み、反応を伺っている感じだ。


「えっと……」


 なんか、これじゃあ、話が進まないな。

 隼人は現状を把握するなり――


「あのさ、俺は那遊の兄なんだけどさ。那遊とは友達なんだよね?」

「うん、そうだよ」

「ね、那遊ちゃん」


 ショートヘアの子と、ロングヘアの子の順に、反応を返してくれる。

 そうか、友達ではあるのか。

 じゃあ、やはり、那遊が消極的だから、うまく受け答えができていないだけかもな……。


「那遊はさ、ちょっと恥ずかしがり屋なところがあるから、君たちのことが嫌いというわけじゃないんだ」


 わかっていると思うが、一応、場の雰囲気も考えて言ってあげた。


「それはわかっています」

「はい、私もですから」

「そうか、ならよかったよ。那遊があまり返答しないからさ、君たちはどう思ってるのかなって思って。少し不安だったんだ。友達であれば、今度とも那遊のことをお願いしてもいいかな?」


 隼人は、ショートヘアの子と、ロングヘアの子を交互に見る。


「はい。でも、那遊ちゃんにはもう少し積極的になってほしいかな?」

「うん、私も。那遊ちゃんがあまり話してくれないから、逆に私たちが嫌われてると思ってたの」


 那遊の友達が本心で話してくれる。


「え、そうなの……」


 那遊の顔色が変わった。目を丸くし、驚いている。


「那遊ちゃんは、私たちのことが嫌い?」


 ショートヘアの子が首を傾げて問う。


「ち、違うよ。好き……友達として」

「そっか。だったら、よかった」


 ロングヘアの子も安心したことで、ホッとしている。


「そうだ、那遊ちゃん。今から時間ってある?」

「今から、映画館に行くんだけど、どうかな?」

「えっと……」


 友達の誘いに戸惑いがちになり、隣にいる隼人を見つめてくる。

 行ってもいいかどうかを、瞳で合図してくる感じだ。


「友達なら、行ってきなよ」

「いいの?」

「ああ。さっき買ったものは、俺が持ってるからさ。気軽に楽しんできなよ」

「……う、うん」


 那遊は満面の笑顔を見せてくれた。


「友達と一緒なら安心だし、何かあったら、電話をしてくれればいいよ。一応、このデパート周辺にはいるからさ」

「うんッ」


 那遊は、小学生であってもスマホを所有している。彼女はつい最近まで、義母と二人暮らしだったのだ。

 そういう経緯もあり、連絡手段を持たせているのだろう。

 この前、連絡先も交換したし、想定外な事態になっても、すぐに駆け付けられる体制である。


「隼人お兄ちゃん、行ってくる」


 那遊は友達二人を見るなり、隼人に言った。


「ああ。気を付けてな」


 那遊が前向きになってくれて、内心、嬉しかった。


「行こ、那遊ちゃん」

「もうそろそろ映画が始まってしまうし、ちょっと走ってもいい?」

「うん」


 那遊は友達二人に頷き、三人で手を繋ぎながら、遠くの方へと軽く走って向かって行ったのだ。






 はああ……これで、一安心かな。

 隼人は、子供も見送ってやった親のような感じになっていた。

 一人になったことで、急にやることがなくなる。


 どうしよっかな。

 隼人は一人で、五階フロアの通路を歩き、考えていた。

 今は先ほど購入したぬいぐるみなどの袋を持っている。

 どこで時間を潰すかが問題なのだが……。


 あ、そうか。

 このデパート周辺にゲームショップがあるのだと思い出した。

 そこに行って、新作のゲームでも見てれば、時間をうまく有効活用できそうだ。


 隼人はそう思い立ち、エスカレーターを使い、一先ず一階に下りた。

 デパートの外に出ると、まだ、昼を過ぎた頃合い、まだ明るく、土曜日故、歩道を歩いている多くの人を見かける。


 えっと……ゲームショップが、あっちだったかな。

 隼人が街中にあるゲームショップに行くのは、二年ぶりだと思う。


 大半、ネットで購入することもできるので、高校生になってからは殆ど通うことがなくなっていた。

 久しぶりの入店に心を躍らせていたのだ。

 デパート近くの横断歩道を渡り、反対側のゲームショップに到着する。


 お店の前には、アニメの看板や、今月発売予定のポスターなどが張られていた。

 隼人自身も知らないゲームも目に入ったのだ。


 じゃあ、一旦、入るか。

 そう思い立った瞬間、知っている感じのオーラが肌に伝わってくる。

 ふと、左側の方を向く。


「あれ? 隼人? だよね? こんなところで奇遇だね」


 話しかけてきたのは、黒色の上着に黒のスカート姿の春香だった。


「そうだな、奇遇だな」


 一人でゆっくりと入店しようと思ったのだが、そうもいかなくなった。

 春香には恋愛ゲームなんて、やっていることを伝えていないのだ。

 そんなことを言ったら、絶対に引かれてしまうだろう。


「隼人って、ゲーム好きだよね? 今から入る予定だったの?」

「ああ」


 春香とは小学生の頃、一緒に格闘ゲームで遊んだ仲だ。

 そんな関係ゆえ、恋愛ゲームをやってるなんて、口が裂けても言えやしない。


「いや、なんとなく通りかかっただけだからさ」

「そう? あれ? その袋は?」

「これか? さっきまでさ、那遊と一緒にデパートに行ってたんだ」

「へえ、那遊ちゃんは?」


 春香はキョロキョロと辺りを見渡す。


「今はさ、友達と映画に向かって行ったんだよ。それで、俺、今一人でさ」

「へえ、そう。じゃあさ。今お昼だし。どこかに食事に行かない?」

「あ、ああ。そうだな。今は昼だったな」


 確かにお腹が減ってくるのがわかる。

 隼人は、自身の腹を抑えた。


「行こ、隼人」

「どこにする?」

「飲食店があるところまで行ってから考えてもいいんじゃない?」


 二人は街中にある食事ができるお店に向かって行くのだった。

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