世の中みんな二刀流

さち

世の中みんな二刀流

 テレビで某二刀流メジャーリーガーのニュースを見ながら娘は言った。

「お父さんとお母さんも二刀流だよね!」

突然そう言われた両親は目を丸くして娘を見た。自分たちは普通の会社員だ。スポーツなんてやっていないし、ましてや二刀流?いやいや。この子はいきなり何を言い出すのかと。

「どうしてお父さんとお母さんも二刀流なの?」

気を取り直して母親が尋ねる。すると娘はにっこり笑った。

「だってお父さんもお母さんも昼間は会社に行ってお仕事するでしょ?でも朝とか夜はわたしのお父さんとお母さんをしてくれるじゃない!だから二刀流!」

娘の言葉に両親は目から鱗が落ちたようだった。子どもならではの発想とでも言おうか。

親が子どもを育てるというのが職業になるとは大抵の人は考えない。職業としてベビーシッターはあるが、それは他人がやるから仕事になるのだ。

 専業主婦は365日休みがないと何か見たが、子どもが幼いうちは24時間365日親業に休みはない。職業にしたら就職する人がいなくなりそうだ。

「お父さんとお母さんも二刀流か。そう言われるとなんだか嬉しいな」

「あ、でもお母さんはお父さんの世話もしてるから三刀流だ!」

嬉しそうに笑っていた父親は娘の言葉で笑顔が固まり、母親は思わず吹き出した。

「お父さん、そんなにお母さんに世話されてるか?」

「うん!だって着替えもどこにしまってあるかわからないでしょ?それにご飯だって作れないし、いつも靴下は洗濯籠に入れてって言われてるじゃない!」

無邪気な笑顔で言われる言葉に父親はがっくり項垂れた。思い当たることがありすぎる。

「うふふ。でも、お母さんもお父さんも、家でのことを仕事なんて思ってないわよ?」

「でもおうちのことしないとおうちがぐちゃぐちゃになっちゃうよ?ご飯も明日着る服も出てこないもん。あ!そうしたらみんな二刀流ね!お仕事とおうちのことしててみんな偉いね!」

そう言って太陽のような笑顔を浮かべる娘に両親は微笑んだ。

「そうねえ。でもあなたもちゃんと二刀流よ?」

母親の言葉に娘はキョトンとした顔をした。

「わたしも?」

「あなただって昼間は学校に行って勉強してるでしょ?それに、帰ってきたらお手伝いしてくれるじゃない。立派な二刀流だわ。毎日ありがとうね」

そう言われて娘ははにかみながら嬉しそうに笑った。

「お父さんもお母さんも毎日ありがとうね!」

「こちらこそ。これからもよろしくな?」

そう言って父親が娘と母親を抱き締めた。

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世の中みんな二刀流 さち @sachi31

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