不穏な殺気

 その桜色の目がこちらを捉えたその瞬間、体中が固まった。

 なんだこれ、

 あまりにも可笑しい


 前に見たベヒモスなんかよりももっと、格段に恐ろしい。

 こんな小さな少女から馬鹿でかい威圧感が放たれている。

 さっきのクマを百匹くらい凝縮したみたいな圧だ。


 俺が何をしたっていうんだよ!?


 え? 俺はこんなヤバい奴に勝たないとここから出られないの!?

 いや、まだこの子がこの階層のボスとは限らないか?

 もしかしたらボス討伐に力を貸してくれる助っ人的存在かもしれない。

 そうだったら良いな。


 ひとまず鑑定したらわかるはず。

 前のはスキルに何たらの主みたいなのが付いていたから、この子にもそれがあったなら本格的にまずい。

 だってこんなに強そうなオーラ出してんだよ?


 勝てる訳なくない!? こんなのをどうしろと。

 この子とはよほどの事がないと戦いたくない。

 というか、よほどの事があっても戦いたくない。

 もしこの子がこの階層の主的なのだったら戦わないとだけど、今は戦ったら絶対に負けてしまう。

 だから本当に戦わなくてはいけないのかだけ確認してその瞬間即退散だ!

 

 鑑定!


 名前:さくら

 称号:未設定

 LV:11

 種族:妖精


 HP 1200/1200

 SP 780/1000

 MP 8000/8000


  スキル 

 光合成lv5 樹鋼鎧lv5 刃桜lv6

 観察lv7 空間把握lv6 硬化lv3 集中lv6 精密動作lv2 側撃lv1 重撃lv2 速読lv5 風魔法lv8 短期加速lv4 跳躍lv4 光耐性lv9 光魔法lv1 魅惑lv1 付与術lv10 見切りlv6 水耐性lv8 水魔法lv8


  称号 

 階層の主 共振 天真爛漫 付与士 迷宮の魔物



 あっ……。

 階層主来るの早くなぁい?

 ないわ〜。

 今日くらい持ち場を離れてもいいんだよ?

 いやもうそんな場合じゃない、確認は終わったんだ。

 勝ち目なんてある訳ねぇ、バイバイだ!

 全力ダッシュでさっきの山嶺まで突っ切る。


 後ろであの子が まて!って言ってるけどまあいいや。

 階層の主って段階で友好的な方の確率の方が低いだろう。

 もしかしたら騙し討ちみたいな事をされるかもしれないし、ほんの些細な事で術中にはまるかもしれないし。

 どこぞのホラゲの赤マントさんは声を聞いただけで頭を破裂させられるし。


 なんだかんだ余計な事を考えながら四肢をぶん回して全速力で走る。

 追撃とか、そういうのがありそうな感じはしない。

 とりあえずさっき来た山嶺まで戻って、そのあとに作戦会議しなきゃ!

 っていうか山嶺までと言わず、あの子の気配が消えるまでの方がいいか!

 てか山嶺って何だ!?

 てか土埃、臭い!

 いやこの際どうでもいい、どうでも良くないけど別にいい。


 もう逃げ切ったか?

 と思った瞬間、咽せるくらいの花の甘い匂いが強く鼻を刺し、鼻先を風が撫でる。

 直後、直感や危機感知が警鐘を鳴らす。


 おそらく何かの追撃が来る!

 今までとは何か違う殺意が飛んで来ている。

 盾、は間に合わない、避けないと!

 

 四肢を止め、全力でブレーキをかけようとするが急な減速に脚が負けてしまい、体が浮く。

 天と地が入れ替わる瞬間、引き延ばされた時の中、自分の目の前を桜色の何かが途轍もない速度で通り過ぎた。

 そして体が落ち、背中から地面に叩きつけられた。


 口の中を切ったのかじんわりと血の味がする。

 だけどそんな事は今はどうでもいい。


 いまのは何だ? 少なくとも、まともに喰らっていたらかなり深い傷を負っていたと思う。

 それだけの殺気と速度があった。

 今のでこの攻撃について分かった事はほとんど無いと言って良い。

 寸前に花の強い匂いがする事と、桜色の何かが高速で飛んで来る事くらいだ。


 多分、体感的に速度は前に喰らった氷の弾より少し速いくらいだと思う。

 それと桃色のやつはきっと刃みたいな攻撃なんだろう。

 形状も刃みたいだったし、わざわざこちらに飛ばして来ている事から斬撃系統なのはほぼ確定かな?

 てか、何かしら飛ばしてくる敵多くない!?


 それと——。

 くそ、また花の匂いが漂って来た。

 攻撃が来る事は分かってもどっからどうやって来るのかは分かんないんだよ!

 けど、攻撃が来る事は分かっているのだから、水晶生成で全方位対応の盾を出せば良い。

 流石に完全に自分を囲う球体を即座に作れる訳がないので登録しておいた盾を五個作って前後左右と上に構えておく。

 これで安心、来るなら来いやー!


 しかし、盾を張った筈なのに何故か、今度は腹に刺す様な痛みが走った。

 犬(狼)の体の構造上、今腹を見ていたらかなり大きい隙が出ちゃうので、見るのは今は我慢だ!

 どうせ見たって余計に痛くなるだけだし。

 この感じ、出血はしてるけど、おそらく1、2cmくらい腹の表面を撫でる感じでちょっと切れただけだ。

 あの刃の大きさなら盾の隙間は通れないはず! 何故?


 そう思って盾を見てみると、左の盾が真っ二つに両断されていた。

 その盾は恐ろしく鋭い物で斬られた様な断面をしていた。

 あれ? でも盾に来た攻撃が貫通して来たのならもっとでっかい怪我をしているはず。

 何でだろう?


 盾を壊すのに大きい刃と攻撃に小さい刃を二つ使ったとか?

 でも全くあっちにメリットが無い。

 それに、そもそも盾を貫通して攻撃するには十分な鋭さだと思う。

 

 そしたら、攻撃に何か条件が有るのか、生捕りにしたいのか、ただただ遊んでいるのかってところかな。

 一応頭の片隅に留めておこう。


 とりあえず防御を固めよう!

 気休め程度かもしれないが、盾を追加で置いて、2重にしておく。

 もちろん隙間は呼吸が出来る程度の小さな穴だけ。

 よし、多分これで一時的には安心でしょう。

 多分ね。


 今度はどうやってこの攻撃をして来ているのか分析するために、あの子をしっかりと観察していた。

 あの子は攻撃する際に手を剣の様に振っている。おそらく飛んで来る刃と腕の動きはリンクしている様だ。

 それとあの子はまだ木の根元に立っているままだった。

 

 あ゙ぁ!

 もう現実逃避してたんだけど、退路が絶たれました。

 はい、それはもう絶望的に。

 本当は初めの攻撃の少し後に見えてたけど心の平静を保つ為に処理を後回しにしていた。

 具体的に言うと、あの子かあの木を中心にして大きな円状に桜色の壁が出来ている。

 もうそれは巨人が覗いてきそうな感じの高い壁が。


 そんな訳でもうあの子に勝つか、どうにかして退路を作り出すかだ。

 だけどあの壁はどうしようも無いと思う。

 だってあの子の正体不明の攻撃を捌きながら壁を調べて、解決法を模索してようやく逃げられるかもしれない。

 って感じでしょ。

 

 無理無理。


 あの子、多分遠距離タイプだろうし無闇に離れないほうが良かったな〜。

 やらかしたー、距離詰めないと。

 このまま逃げたかったんだけど……。


 てな訳で戦闘開始か……。

 まだ時間的には30秒も無かったと思うんだけど、もうこの盾たちも持ちそうに無いし。

 何故かボロくはなってるとはいえ、真っ二つにはなってない程度には原型を保っている。

 さっきは一瞬で割ったくせして。

 やっぱり舐めてかかってんだろうな。

 そこに付け入れば何とかなる……か?

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