#194 その始まりに還れ
嵐を断ち割り巨大な
雲を越え真空に手の届きそうな高さから落下へと移り、
「いざ! 吶喊ですっ!!」
かろうじて生き残ったマギジェットスラスタを起動。
落下にさらなる加速を与える。
「ンッヒィアァァァ! ヤバヤバヤバイ落ちるぅぅぅ!?」
「それはもう、このまま突っ込みますからね」
伝声管からオラシオの悲鳴が響く。
何しろ彼がいる場所は
つまり飛竜の機首に設置されているわけで、最前列で落ちゆく光景を見せられているのだった。
それはもう落ち着くはずがない。
景色が目まぐるしく過ぎ去ってゆく。
腹の底から湧き上がる不快な浮遊感と共に、触腕を広げた光の柱が一気に近づいてきた。
昇るためにはあれほど苦労したというのに落ちるとなれば瞬くほどの間であった。
「うっせ!! 俺にはまだ目指す“果て”があるんだよ! こんなところで死んでられねぇんでな、お先に失礼するぜ!!」
既に落ちるだけとなった以上、もはや飛竜戦艦に操る要素は残っていない。
そしてまさか最期まで共にするはずもなく。
オラシオは竜騎士像からとある操作を実行する。
瞬間、竜騎士像の周囲の装甲がはじけ飛び内部から小型の翼が現れた。
「竜騎士像、
緊急脱出機能――
このために飛竜戦艦の最後の命は温存されてきたのである。
人型の上半身を持ち下半身が小舟のようであるその姿は、傍から見れば飛翔騎士に近しい。
しかしこの技術はオラシオ自身が竜頭騎士の延長線上として開発したものであった。
「うおー!? 俺操縦はできねーんだぞ!?!?」
竜騎士像がわたわたと不格好に落ちてゆくのを見送っていると、次は小王の声が届く。
「さあて賽は投げたぞ。私もこの辺でお
“魔王”を留めていた固定が外れ、飛竜戦艦から離脱してゆく。
虹色の光を放つ翅を広げ、源素晶石塊に巻き込まれないよう距離を取った。
魔竜鬼神を構成していた機体のうち、残るはマガツイカルガニシキだけである。
「……ギリギリまで加速を続けます! アディ?」
「どこまでもついてくから!」
「良い返事です!」
マガツイカルガニシキが吼える。
飛竜戦艦のマギジェットスラスタは船体から離れて設置されているために本体の崩壊からは逃れていた。
そして最期になるであろう噴射を続ける。
雲を貫き大気を斬り裂く。
一筋の流星と化した源素晶石塊が、台風の目を貫きながら一直線に落ちてゆき。
迫りくる槍の穂先の存在に“
「ここまでです! 離脱しますよ!」
「りょうかーい!」
最後の最後まで残っていたマガツイカルガニシキが飛竜戦艦から離れる。
すぐに自身の
魔力供給を失い噴射を終えた源素晶石塊が隣を落ちてゆく。
飛竜の骸を抱えたまま、触腕を広げる光の柱へと迫り――。
「これで! チェックメイトです!」
――突き刺さった。
鋭利に突き出た先端部が出現した“眼”を貫き、その体内へと深々と侵入してゆく。
血液が噴き出る様子はない。エーテルだけで構成された身体に液体は存在しないからである。
既に柱そのものよりも巨大化していた源素晶石塊が、与えられた力学的エネルギーを存分に解放した。
光の柱は引き裂かれ千切れてゆき、衝撃が周囲の雨雲を吹き飛ばす――。
魔竜鬼神の最期の光景は、パーヴェルツィーク王国の拠点からも見えていた。
周囲に数多の
そしてついに流星の槍が光の柱を穿つ。
「……やった!」
衝撃で雨雲が散り、ぽっかりと開いた空間に日光が降り注いだ。
陽の光を背に流星の槍が柱に食い込み、四方に引き裂きながら落下を続ける。
「いや、様子がおかしいぞ……!」
ふと誰かが呟いた。
彼だけではない。その光景を見守っていた者たち皆が同じ疑問を抱いていた。
天より来る流星の槍。
未曽有の怪異“魔法生物”を討つに相応しい力はしかし、見る間に勢いを弱めていった。
誰もが信じられない思いを抱き、言葉を失って立ち尽くす。
しかし絶望はまだ始まったばかりであった。
流星の槍によって引き裂かれたはずの光の柱が、突如として蠢きだす。
それは攻撃を受けて破壊されたわけではなかった。柱は自ら裂けることで無数の触腕を作り出したのである。
そうして触腕はいっせいに源素晶石塊へと巻き付いていった。
「うっそだろぉ! まだ抵抗するってのか!?」
「
「止められる……俺たちの全力が……」
光の柱によって源素晶石塊が受け止められる。
人々の希望を込めた一撃は、“魔法生物”の力の前に屈しようとしていた。
流星の槍が止まってゆく様子は上空からも見えていた。
「そんな! エル君、このままじゃ……」
シルフィアーネ
しかしエルは動かない。
彼は
「……ではないで……」
「え?」
微かに何かを呟いたのが聞こえた。
アディはじっと耳を澄ます。吹き荒れる風の音の中、聞き逃すまいと集中して。
「駄目ではないですか。失敗なぞ許さないですよ。数多のメカたちの想いと魂を込めたこの一撃! それで通らぬというのならば……この僕が通してみせます!!」
「あー、エル君全然やる気だー」
エルの指が
マガツイカルガニシキが一気に出力を上げ、源素晶石塊めがけて飛び込んでいった。
「マズいマズいマズいマズい……! こいつでダメならもうどうしようもないんだぞ!」
竜騎士像の中で、幻像投影機にへばりついたオラシオが叫びをあげる。
乾坤一擲のこの作戦に二の矢はない。そうして万が一失敗してしまえば後には破滅だけが待っている。
「くそう! 俺はすぐにでも“果て”を目指したいんだ! つまんねぇ戦争をやっている時間はない……ん?」
そうして彼は気付く。
一筋の光が源素晶石塊めがけて飛んでゆくことに。
「アレは……エルネスティか!」
“魔王”の中では小王が頭を抱えていた。
「ええい、エルネスティ君め! まったく無茶の好きな奴だよ! ……死ぬんじゃないぞ。死なれては君を殺すことができなくなる! 私にこれほどの屈辱を与えてくれたのだ! 勝手に死んだりしたら決して許さないよ!!」
その理不尽な注文は、幸いというべきかイカルガに伝わることはなかった。
周囲の思惑など関係なくマガツイカルガニシキはまっすぐに突き進む。
「エル君! 細いのが来るよ!」
“魔法生物”としても、彼らの接近を黙って見過ごすつもりはなかった。
光の柱からわっとばかりに大量の青白い“魔法生物”が出現する。
これ以上本体が脅かされることの無いよう、近づくものをすべて迎え撃つ行動に出た。
「邪魔はさせません!
「とぉりゃー!」
マガツイカルガニシキの全身から
本体より先行して飛翔した端末群はそれぞれに小規模なエーテルの円環を生成した。
「どいてくださいッ!!」
群がってくる青白い“魔法生物”を蹴散らし、執月之手と機動法撃端末が暴れまわる。
いかなる異能を持とうとも、近寄らせさえしなければ脅威足りえない。
端末群がこじ開けた空間を押し通り、マガツイカルガニシキは飛竜戦艦の残骸へと体当たりするように降り立った。
「執月之手で接続します! アディは小型の迎撃を!」
「うん! ここは私たちが守るから!」
アディのやる気が
アディが“魔法生物”たちを近づけまいと奮闘する間、エルは執月之手を飛竜戦艦の死骸へと潜り込ませる。
「駄目ですか……衝撃で内部の銀線神経がズタズタになっていますね。ならば直接つなげるしかありません!」
執月之手を引き抜き、飛竜戦艦のマギジェットスラスタ、そして“
「ふふっ。生きています! 推進器が本体から離れている構造で助かりました。イカルガの力があればまだ動かせますよ!!」
流れ込む魔力が最期の時を待っていたマギジェットスラスタに再びの火を入れた。
轟、と推進器が吼える。
巻き付いた触腕も構わず炎の尾が天へと伸びた。
息を吹き返した推力が源素晶石塊を大地へと押し付ける。
触腕を巻き付けたままの光の柱が重圧に抵抗した。
先に動いたのは光の柱の側だった。
源素晶石塊へと巻き付けていた触腕を放すと、飛竜戦艦に取り付いたマガツイカルガニシキめがけて振り下ろす。
「腕がこっち狙ってきた! あれはカササギちゃんたちじゃ無理かも……!」
「任せてください! まだ出し物は残っています!」
エルの指が操鍵盤に新たな命令を叩き込む。
次の瞬間“黄金の鬣”号に搭載された片側十六連装がふたつ、計三十二基の投射装置が一斉に蓋を開いた。
こんな時のために先端部に源素晶石を取り付けた、対魔法生物仕様の魔導飛槍である。
めった刺しにされた触腕が明らかに怯み、のたうつように逃れていった。
その間にも源素晶石塊は光の柱を押し込み続けている。
「ここが正念場です! 後のことは! 考えません!!」
エルの操作によりマギジェットスラスタの
イカルガの生み出す莫大な魔力を貪り食らい、全てを推力へと転換する。
流星の尾が天へと伸びる。
噴射の轟音が空飛ぶ大地のみならず、
推進器が見る間に赤熱してゆく。
自らの生み出す推力と熱に耐えきれないのだ。
「もって……ください……!」
エルは祈るような気持ちで幻像投影機を睨み続けた。
光の柱はずっと押し込まれつつも何かが変わった様子もない。
このままでは先に推進器の限界が来る――。
エルの頬を汗がしたたり落ちた、その時のことだった。
それは事態の外側にいた、拠点に居た者たちが先に気付いていた。
「風が……止んだ?」
唐突に嵐が止んだ。
叩きつけるようだった雨はあがり、風は見る間に勢いを緩めてゆく。
この嵐は純粋な気象現象ではなく魔法現象なのである。
つまりは行使者たる“魔法生物”が
「今度こそやったのか……!?」
魔法が行使できないほど“魔法生物”が弱ってきているということである。
天候すら操って見せた脅威は過ぎ、後は大地の中まで押し込むだけとなった。
「行け! もう少しだ!」
「西方諸国万歳!!」
拠点に歓声が湧きおこる。
言葉に後押しされるように、源素晶石塊は最後の一押しとばかりにひときわ強く炎を放ち。
直後、推進器が完全に沈黙した。
限界に達したのである。
魔竜鬼神が誇った二基の大型推進器はどちらも焼けこげ、元の機能が不明なほどボロボロになっていた。
源素晶石塊からの圧力が失われたと見るや、光の柱が源素晶石塊に巻き付けていた触腕を放した。
そのまま触腕を大きく広げる。長大な触腕が長い影を落とし、地上から動揺の声が上がった。
「一歩、及びませんでしたか……」
エルが肺の空気を絞り出すように呟く。
その時、触腕の付け根の部分がぼこぼこと沸き立つように膨れ上がった。
多数の球体が鈴生りになったような形状の部位が現れる。
エルはあれが“魔法生物”の眼であると確信していた。
何故なら現れた瞬間から、イカルガを貫く視線を感じていたからである。
「こっちを見ている……僕たちを認識している?」
エルには何故か鈴生りの眼が楽し気に揺れたような気がした。
次の瞬間、不意に太陽の光が翳った。
魔法現象の停止と共に天を覆っていた黒雲は薄れゆき、陽の光を遮るものなど既にないというのに。
ただ光だけが失われ世界に夜が訪れる。
「あれを見ろ! 光が……降ってくるぞ!」
それは揺らめくような光の帯であった。
七色の光を織って作られた
暗黒の空を揺蕩っていた光の帯が大気を貫いて地上まで伸びて。
それは触腕を広げた光の柱へと降り注いだ。
「なんだ、何が起ころうとしている!?」
もはや正確に事態を理解している者はいない。
皆、幻想的な光景を前にただ震えることしかできなかった。
「ええー! エル君、あれ確か真空にあった奴だよね? キレーだけどどうして?」
「……おそらくエーテルを補充するつもりでしょう」
そう、この極光はエーテルの作用によって生み出されたもの。
自体が大量のエーテルによって構成されている。
真空よりエーテルを汲みだした光の柱が触腕をざわめかせた。
広げていた触腕を再び閉じてゆき。
途中、触腕に大量の巨大な棘が生えた。
それは虹色を帯びた結晶質の物体――源素晶石で出来ている。
最強の騎体と最高の
「そんなのありー!?」
「さすが、エーテルに関してはあちらのほうが一枚上手ということですね」
「感心してる場合じゃないしー!」
棘はさらに成長を続け、やがて棘同士が絡み合い癒着し、まるで編み籠のように源素晶石塊を囲い込んだ。
飛竜戦艦の上に立つマガツイカルガニシキへも、周囲から源素晶石の棘が迫りくる。
「カササギちゃん! 全部やっちゃいなさい!」
機動法撃端末が舞った。
源素晶石であれば法撃が通じる。炎弾が乱れ飛び、迫りくる尽くを粉砕した。
「エル君! これじゃあ周りしか掃除できないよ!」
「いえ、待ってください。どうも様子がおかしいです……」
触腕から伸びた源素晶石の棘が次々と源素晶石塊に突き刺さってゆく。
刺さる端から癒着を始め、ひとつの源素晶石と化した。
「まるで……源素晶石塊を取り込もうとしているような」
触腕と源素晶石を用いて、塊を固定したかのような形となる。
そうして再び風が渦を巻き始めた。
光の柱の周囲に激しい大気の流れが発生する。
「また嵐を使う気よ!」
「どうも風向きが違います。これは……むしろ吸い込んでいる……?」
嵐の起きる前兆であれば上昇気流を起こすはずである。
しかし今回は真逆。大気はひたすらに光の柱へと向けて流れ込んでゆき。
その間も天から降り注ぐ極光は未だ途切れることなく続いていた。
やがて風はエーテル交じりの激流と化し、光の柱へと吸い込まれてゆく。
「まずいですね……“
エルたちの命のみならず
荒れ狂うエーテルの激流が恐るべき負荷となって風の護りを脅かしているのだ。
「さすがに逃げた方がいいかも!」
「賛成ですね」
アディの言葉にエルも頷く。
しかしマガツイカルガニシキが動き出す前に“魔法生物”が行動を起こした。
――光の柱が沈み始める。
空飛ぶ大地にかつてない激震を呼びながら、光の柱が沈んでゆく。
解け揺らめいていた触腕が次々にひとつの柱としてまとまってゆく。
当然、棘によって触腕と癒着した源素晶石塊もまた沈んでいった。
飛竜戦艦の亡骸の背で、マガツイカルガニシキがもがく。
「先手を取られるとは……! あの視線の意味はこれだったのですか!」
周囲を流れるエーテルの量は時とともに増加すらしている。
これを突破することはマガツイカルガニシキですら既に困難であった。
「上が無理ならば、真横を破壊すればよいこと!」
触腕さえ避けてしまえば源素晶石は破壊できる。
イカルガが
何ものをも貫くはずの轟炎の槍はしかし、エーテルの流れに飲み込まれ瞬く間に溶けて消える。
「うそぉ!?」
「銃装剣でももたないとは……」
銃装剣は
それすらエーテルの干渉の前には無意味と化した。
「まだです! 接近できれば体当たりでも!」
飛竜の背を蹴り、マガツイカルガニシキが飛び出す。
瞬間、エーテルの流れがイカルガを捕らえた。
「なんて圧力! 進めない……!?」
「干渉が酷くて推進器の出力が上がらないよ!」
流されるまま飲み込まれてゆき。
エーテルの中でもがいていると、進む先にあった“魔法生物”の眼と視線がかち合った。
ぼこぼこと湧き続ける球形の部位が、じっとイカルガを注視している。
「……なるほど」
その時、エルは閃きを得た。
それが果たして突破口と呼べるのか、エルですら確信はない。
しかし他に道がないのも確かであった。
「アディ。上がることは出来ず横への突破も難しい。こういう時はどうすればいいと思いますか?」
「うーん。前に進むかな」
「その通り!」
前――“魔法生物”が待ち構える下へと向けて加速する。
エーテルの流れに逆らわず乗ってしまえば、むしろ干渉は抑えることができる。
一瞬で“魔法生物”の眼が迫り。
「“魔法生物”よ! どうせならば大地に還る前に、直接ご挨拶に参りました!」
イカルガが銃装剣の刀身を開く。
露出した魔導兵装を転用し、とある
「
そう、マガツイカルガニシキは単体で源素晶石の生成に成功している!
しかも周囲には溢れるほどのエーテルが存在する。これを利用しない手はない。
だが生成できたのはほんの僅かな量だった。
頼りない結晶が刀身の先端を覆う。
「エル君! カササギちゃんも一緒に!」
「全騎投射でいきますよ!」
執月之手と機動法撃端末が分離し、エーテルの円環を発生させるとイカルガと並走した。
そうしてマガツイカルガニシキが眼まで到達する。
「僕は銀鳳騎士団団長、エルネスティ・エチェバルリアと申します!! どうかこの一刀、深く刻んでお帰りください!!」
イカルガが眼の中に飛び込むようにして銃装剣を突き刺した。
遅れじと執月之手と機動法撃端末が眼のいずれかに突っ込んでゆく。
衝撃が眼の表面をぶるりと波打たせ。
直後、“魔法生物”が全身を震わせた。
眼が急激に膨らんでゆく。
イカルガを半ば埋もれさせたまま倍ほどにも膨れ上がった眼が、唐突に弾けた。
「……ッ!?」
想像を上回る衝撃が襲いかかる。
それは周囲を流れるエーテルの激流が一瞬、完全に逆流するほどの威力があった。
マガツイカルガニシキは衝撃に飲み込まれ錐もみ状態で吹き飛ばされてゆく。
「うわぁぁぁあああッ!?」
もみくちゃになりながらどこともわからず飛ばされていく途中、どこか遠くから長い咆哮が聞こえたような気がした――。
――光の柱が大地へと還ってゆく。
猛烈なエーテルの激流は未だ流れ込み続けている。
これまで流出した以上のエーテルを補充し、ついに触腕の先までが引っ込んでゆき。
瞬間、天から流れ込んでいた極光の帯がふっと消失した。
そうして漂う残留エーテルが爆発的な衝撃波によって吹き飛ばされる。
大地の激震が収まってようやく、人々は恐る恐る立ち上がった。
そうして全てが過ぎ去った後を見上げてみれば。
そこには屹立する一本の巨大な源素晶石塊があった。
飛竜の残骸を内部に取り込んだ、とてつもなく巨大な源素晶石塊。
かつてよりもさらに太さを増した塊が空飛ぶ大地の中心に出現したのである。
斯くして“魔法生物”は再びの眠りについた。
一部始終を目撃した全ての西方人、ハルピュイアは思い知った。
“魔法生物”とは、到底人の身で御せる存在ではない。
ただそれが眠り続けるという気まぐれの上で過ごしてゆくしかないのだと。
「ううーん。何とか助かりましたね!」
「さすがに最後のは、賭けって言うより自棄だったよねー」
「終わりよければすべてよしです」
イカルガの操縦席で、エルはひっくり返った状態から身体を起こしていた。
伝声管からはアディの元気なツッコミが聞こえる。二人とも無事のようである。
「しかしひどい目に遭いました。とりあえずは起き上がって……」
“魔法生物”の眼を攻撃し突然のエーテルの炸裂を受けた後、どこをどう通ったのかはさっぱり記憶にない。
もみくちゃになりながらふっ飛ばされ、気付けばこの場所に機体が突っ込んでいたのだった。
軋みを上げながらマガツイカルガニシキが立ち上がった。
装甲はあちこち歪んでいるし、
しかし基本的な機能に問題はなく合体状態も続いている。無事に生き残ったと言っても差し支えないだろう。
「皆の元に戻りましょうか。拠点がどうなったのか色々と気になりますし」
イカルガが首を上げ、晴れ上がった空を見上げる。
遠くには巨大な源素晶石塊が霞んでいた。
「それに、これからの後片付けが一番大変そうですしね」
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