#174 仲良く半分こにしよう

 大地が重く長く鳴動する。

 ぎゃあ、ぎゃあ。不気味な鳴き声をあげながら鳥が空を横切っていった。


 船体を通じて揺れを感じ、エルネスティエルは視線を上げる。

 硝子窓の外には天へと伸びる七色に輝く光の柱。


 あれが現れて以来、穏やかだったはずの空飛ぶ大地はすこしずつ安定を失っているように思える。

 少なくともこの大地を揺らすほどの何かがあるのは確かだった。


 周囲にいる者たちの表情にも不安の色合いがある。

 今この間にもとんでもない何かが進んでいるような――。


「……大団長」


 小声の呼びかけが耳に届きエルは振り返った。

 いつの間にか男が一人、傍らに佇んでいた。


 目立たず印象に残りにくい服装、奇妙に希薄な存在感。

 エルはすぐに心当たりに至る。


「藍鷹騎士団ですね?」

「御意。ご報告に上がりました」


 そうして男はエルの耳元でささやく。

 じっと聞いていたエルの片眉がピクと動いた。


「……それは、本当に?」

「確と」

「わかりました。では引き続き案内役をお願いしますと、伝えてくだ……」


 振り返った時には既に男の姿はなかった。

 いつもながら素早いことだ。

 仕事ぶりも堅実である。エルは満足げに頷くと周囲を見回した。


「えーと。アディ! ちょっとよいですか、お願いが……」

「なになにー? なんでも言って!」


 わりと離れていた気がするが一瞬で距離をつめてきたアデルトルートアディが、当然のようにエルを抱きしめる。

 わたわたともがいて頭を出したエルが、彼女の耳元で囁いた。


「んむ。この後……ですのでそこで……という感じでお願いします」

「んひゅふふふくすぐった気持ちいい……。りょうかーい! 任せて!」

「うーん大丈夫なのでしょうか」


 頼んだのはそれとして、そこはかとなく不安を覚えるエルなのだった。




 飛竜戦艦リンドヴルムが地に身を横たえ休んでいる。

 その片翼は無残にも破壊されたまま。

 飛空船レビテートシップ竜闘騎ドラッヒェンカバレリが奮闘してようやく安全圏まで曳航してきたものだ。


 さっそく周囲では鍛冶師たちが忙しくしているが、その長であるオラシオが言った通り容易には直せそうにない。

 応急処置ですらそれなりに時がかかるだろう。


「このままでは、我が国の戦略が揺らぎかねん」


 天空騎士団ルフトリッターオルデン竜騎士長グスタフ・バルテルが呻く。

 彼の苦悩の原因が、視線の先に降り立った。


 流麗な船体。

 大きさは輸送型飛空船カーゴシップと大差ないが、速度においては竜闘騎に匹敵し、高性能の法撃戦仕様機ウィザードスタイルを載せ重武装をも誇る。


 西方諸国オクシデンツにその名を轟かせるクシェペルカ王国製の最新鋭船、“黄金の鬣ゴールデンメイン”号である。


「……厄介だ」


 グスタフが騎士を呼び寄せる。

 イグナーツとユストゥスがそれぞれ数名の騎士を呼び、左右を固めた。


 一団は堂々と船のもとへと向かい。

 ちょうどそこに、“黄金の鬣”号から乗降用の舷梯タラップが下りてきた。


「ようこそ、お戻りくださいました」


 入り口から現れたパーヴェルツィーク王国第一王女フリーデグント・アライダ・パーヴェルツィークの姿を認め、グスタフたちは恭しく膝をつく。

 フリーデグントは疲れを見せぬ笑みで頷いた。


「苦労を掛けた」

「滅相もございません。御身の無事なことこそ我らの喜び」

「ああ、それでさっそくになるが……」


 彼女がねぎらいの言葉をかけていると、背後からのっそりと現れた者がいる。

 背丈は2mを超すほどか。

 出入り口の狭さにちらと顔をしかめながら、“黄金の鬣”号の船長であるエムリスが顔を出した。


「おっと、出迎えの最中だったか」


 フリーデグントが振り返る。


「構わない。世話になったな」

「お互い様だ。うむ、王女殿下は確かにお返ししたぞ。疲れはあるかもしれんが、無事であることは俺が保証しよう」

「……船長には、殿下をお守りいただき感謝する」


 グスタフが一礼する。

 本心はどうあれかけた手間をないがしろにはできない。


 そこでエムリスは一通り周囲を見回して。


「どうやらそちらも幹部が集まっているようじゃないか。ちょうどよいからこっちに来てくれ」

「申し訳ないが、まずは殿下を我らの船にお連れすることが優先で……」

「大丈夫だぞ。その王女殿下にも参加願うつもりだ」


 ひくっとグスタフの頬が震える。

 主導権を奪われている。これは良くない。

 咳ばらいをひとつ残し、語気を強めようとしたところで先んじられた。


「若旦那。そこにいられると後ろが通れないのですが」

「おっと、すまんすまん」


 道をふさいでいた大荷物を追い払い、ひょっこりと小柄な人物が顔を出す。

 グスタフの表情がはっきりと渋みを増した。

 忘れはしない。彼は竜墜としの――。


「うん。まずはアレをどうにかせねばなりませんね」


 視線は遠く、停泊中の飛竜戦艦を見つめている。


「いかがでしょう。当方にはアレをすぐにでも修復する当てがあります」


 さっくりと先制の爆弾発言を投げつけるのも忘れずに。


「それも含めて、お話し合いを始めましょう!」


 エルネスティは、驚くほど不穏で可憐な笑みを浮かべたのだった。




 会議には、前回と似たような面子が並んでいる。

 フリーデグントとグスタフ。向かい側にはエムリス、グラシアノ、風切カザキリのスオージロ――そしてエルネスティ。

 後方にはキッドが所在なさげに立ち尽くしている。


 魔獣たちの襲撃によりうやむやになった感はあるが、前回の話し合いは決裂と言っていい結果に終わった。

 それが短期間にもう一度開催されるのは異例と言える。

 普通ではないことが起ころうとしている。それがグスタフの気持ちをざわつかせていた。


「(王女殿下は何を考えておいでか。もしや……奴らの船で、何らかの取り決めがあったのか?)」


 いや、とすぐさま否定が持ち上がる。

 長く仕えてきたグスタフはフリーデグントの人柄をよく知っている。

 パーヴェルツィーク王国のため、並ならぬ覚悟をもってこのような世界の果てまでやって来た。

 たとえ脅されたとしても、国を裏切るような真似は決してしない。


 さらに船を下りた時に見たところ手荒に扱われた様子もなかった。

 魔獣の襲撃から救われたことも合わせて、丁寧に扱われていると言ってよい。


「(で、あればこの話し合いも殿下のご意思のうちということになる)」


 せめて事前に少しでも意見を交わす時間があれば。

 胸中に苦々しい思いを抱えつつ、話し合いが始まってしまえば余計な考えに割く余裕などなかった。


 険しさの抜けないグスタフの背後、イグナーツと騎士たちが整然と並んでいる。

 いまさら威圧も何もないが体面は必要だ。


 中でもイグナーツはこの場に何としてでも参加を望んでいた。

 原因はひとつ、イグナーツの視線はエルネスティに刺さっている。


 声を聞いた瞬間に分かった。

 竜の戦いに首を突っ込み、魔王とも渡り合う蒼い騎士。

 衝撃的な発言も含め、また何かとんでもないことをやらかすだろうことは予想に難くない。


「(先の戦いでは殿下の指示もあり、便利に使われたが……今度は同じようにはいかない。見極めてやる……)」


 意気込むイグナーツの隣で、ユストゥスは真面目くさった表情でいる。

 わずかに苛立った気配を漏らすグスタフの様子をちらと窺い、緩みかけた頬を慌てて引き締めた。

 この話し合いは楽しいものになるだろう、彼の直感がそう囁いている。



 それぞれの思惑が渦巻く中、エムリスのよく通る声が話し合いの始まりを告げた。


「お互いに大仕事を終え、一息つきたいところではあるが。早急に次の行動を決めねばならんのでな、こうして集まってもらった」

「それほどに急ぐこととは?」

「あれを見ればわかるだろう」


 ぐいと顎で示した先にあるのは、天を貫く光の柱。


「確かに異常な現象だ。しかしそれを言うならそも、この大地が空に在るのも異常なこと。今更ひとつやふたつ増えたところで慌てる理由になるものか」

「ほう。あれが立ったのと前後して、この大地が揺れ始めているのにか?」

「それがどうし……!」


 言いかけたグスタフに先んじてエルが口を開く。


「ところで風切カザキリの方。今までにこの大地が揺れたことなどあったのでしょうか?」

「……私が雛の時より、一度とてなかった。大風荒れ狂おうと、木々が根を張る大地は不動だ」


 いつも通り静かに瞑目していたスオージロが組んでいた腕をほどく。

 そこで意外な人物が口をはさんだ。


「何が起こっているのかはわからない。だがあちらに何があるかは知っている」

「! 殿下……!」


 フリーデグントだ。


「“禁じの地”、ハルピュイアにとって何やら忌避すべき地だと言っていた。そしてあの“竜の王”が拠点を構えていたとも聞く」


 彼女の背後でイグナーツが小さく頷いた。


「なるほど、小王オベロンたちが。彼らがあれを引き起こしたとは考えにくいのですが……」


 エルがわずかに考え込んだ隙に、グスタフが強引に話の流れを変えた。


「“竜の王”の拠点に問題があろうと、我が国には些かの痛痒もない。むしろ奴らに不利益あるならば歓迎すべきことですらある」

「パーヴェルツィークはやはり、ハルピュイアと敵対すると?」


 シュメフリーク王国の将、グラシアノが険のある声を上げる。

 フリーデグントが微かに表情をしかめ。一瞬、視線を後ろにいるキッドに向けた。

 しかし身を乗り出し気味だったグスタフは気付かない。


「当然であろう。何故許す必要がある? 我らが差し伸べた手を払い、“竜の王”だか“魔王”だか知らぬが奇っ怪な魔獣の言いなりに噛みついてきおって! 斯様な無体を働いたからには相応の報いを受けてもらわねばならぬ!」

「“竜の王”はなくとも“魔王”は健在です。飛竜戦艦のない貴国に、それが可能でしょうか?」


 エルの静かな指摘に、グスタフは火の出そうな視線で振り返った。


「確かに飛竜戦艦は傷を負ったが、竜騎士団は健在である! いずれ飛竜修復の暁には今度こそ残さず焼き払ってくれるわ!」

「強がりはおやめください。あの規模のマギジェットスラスタを損傷したとすれば、応急処置でどうにかなるものではありません」

「それこそ侮ってもらっては困るな。貴国程度の鍛冶師では無理かもしれないが、我が国にとってはたやすいことだ」


 ふと、エムリスが隣のちっこい頭を見下ろしながら問いかけた。


「では専門家に聞くとしよう。銀の長、お前の見たところどれくらいかかると思う?」

「そうですね……能力のある構文技師パーサーを百人ほど手配して、一月ほどでしょうか。戦場で修復するとなれば現実的ではありませんね」

「さすがに重いな」


 この時、グスタフが叫びをあげなかったのはさすがといえよう。

 何しろエルが何気なく呟いた言葉はオラシオから聞かされていた内容と寸分もたがわなかったのだから。


「(おぉのれ……向こうにも目端の利く鍛冶師がいるということか。だからと!)」


 グスタフの目つきがどんどんと剣呑さを増してゆく中、エルがふと微笑み返す。

 フリーデグントが密かに顔をしかめていた。


「ところで。最初に言いましたが僕たちには飛竜戦艦を速やかに直す手立てがあります」

「んなっ……」

「当然いくらかの条件がありますが。いかがでしょう、僕たちに飛竜戦艦を修復させていただけませんか?」


 ギシ、とグスタフの噛み締めた奥歯が鳴った。


「何が狙いかは知らぬが……そも! 貴様の言葉は矛盾している。戦場での修復が難しいと言ったのは貴様であろう! 同じ口で自分ならできるだと!? 我らを馬鹿にしているのか!」


 エルはにこやかに首を振る。


「仕掛けを明かせば大したことではありません。僕たちにはちょうど飛竜級ヴィーヴィルクラスのマギジェットスラスタの持ち合わせがあった。単にそれだけのことです」

「馬鹿を言え! そんなものいったいどこに……」


 言いかけた言葉が尻すぼみに小さくなってゆく。

 グスタフだけではない、イグナーツもユストゥスもはっとした表情を浮かべて振り仰いだ。


 ある。答えは最初からそこに堂々と佇んでいたではないか。

 クシェペルカ王国製の最新鋭高速船――“黄金の鬣”号が!


「その船かっ!?」

「はい。“黄金の鬣”号を用いて、失われた竜の片肺を僕たちが支えましょう。その代わりと言っては何ですが……飛竜戦艦を操る権利、その半分を僕たちに下さい。片肺ずつでちょうど半分こというわけですね」


 今度こそグスタフの表情がぷっつりと抜け落ちた。

 イグナーツは額を押さえ、ユストゥスは噴き出すのを必死に抑えている。


 そうしてフリーデグントは深い、とてつもなく深い溜め息を漏らしていた。


「また始まったな、卿の無茶ぶりが……」




 衝撃覚めやらぬなか、ようやく正気を取り戻したグスタフがかすれた声を上げる。


「リンド……ヴルムの半分を! 寄越せだと……!?」

「寄越せなどと無体は言っておりません。半分こにしようと」

「馬鹿も休み休み言えぇい!!」


 馬を貸してくれとでもいうような気軽さである。

 グスタフの怒りもむべなるかな。


「しかしこのままでは飛竜戦艦の修復が間に合わないのではと思いますが」

「知ったことか! 飛竜戦艦は必ず復活する、しかしそれは貴国の考えるところとは関係ない!」


 グスタフは言葉を切り、荒くなった息をいったん落ち着ける。

 ふざけた内容の話とはいえ、さすがに交渉の場において怒り続けることの愚は弁えていた。


 フリーデグントがちらと視線をそらした。

 真剣な表情のキッドと微かに目が合う。

 視線を卓上に戻し、問いかけた。


「なぜ、飛竜戦艦なのだ?」


 エルが初めて首を傾げた。


「行動を共にして分かったことがある。貴国にとっては戦力であれ採掘であれ、我が国に頼まねばならないことなどないように思える。飛竜戦艦とて、最新鋭であるその船を差し出してまで欲しいものではないはずだ」


 グスタフは軽い驚きとともに、理解が追い付かず眉根を寄せた。

 彼にとって理由は明白だったからだ。

 最強最大である飛竜戦艦を分割するということは、ひいてはこの大地の支配権を欲するということである。

 力と支配を求めない国などない。


 だがフリーデグントは少なからず相手のことを知っている。

 ゆえに答えは自ずから違うものとなった。


「聞かせてくれ。お前たちは飛竜戦艦を使って……何をするつもりだ?」


 たった一騎の幻晶騎士シルエットナイトで“魔王”と張り合う狂った騎操士ナイトランナー

 飛竜に並ぶ速度で進みクシェペルカの魔槍をたらふく抱えた飛空船、たやすく魔獣を蹴散らす人馬騎士。

 さらにハルピュイアまで抱き込んだ陣容とくれば、パーヴェルツィーク王国よりもよほどうまくやっていけるだろう。


 だから、おそらくは彼らの狙いは“飛竜戦艦そのもの”にある。


 問われて、エムリスが肩をすくめた。


「確かに、俺としても“黄金の鬣”号そのままのほうがよほど動かしやすいのだが……」


 そうして彼は隣の“原因エルネスティ”を睨む。


「アレがあったほうが、話が早いと思いまして」


 しれっと答えつつ、エルが小首を傾げた。


「僕たちはすぐにでも、あの光の柱を“解決”せねばなりません。そのために便利な道具はあったほうが良いと思ったのです」

「また柱か! なんなのだ、一体何の関係がある!」

「あの光……色を見て、何かを思い出しませんか?」


 フリーデグントとグスタフがわずかに考え込む。

 その背後で、イグナーツが顔色を変えた。


「あの光、あの色合いは……源素浮揚器エーテリックレビテータか!?」

「!」


 思わず上げた叫びを耳に、ようやく全員が理解に至る。

 周囲に意味が浸透してゆくのを待ちながら、エルが言葉を継いだ。


「あれは光の柱などではありません。まず間違いなく、エーテルが噴出したものです。だとすれば思い出して下さい。源素浮揚器内のエーテルを放出するというのが、どういう意味を持つのか」


 既に全員がその可能性に辿りついている。

 だが、恐ろしさのあまり誰もが口にすることをためらっているだけだ。

 意を決してグスタフがエルを睨みつける。


「……沈むというのか、この大地が。そも貴様の言葉が正しいという保証はあるのか!?」

「僕も必ずとは言えません。ですがその可能性は無視できない。現に光は止むことなく、大地は揺れています」

「……ッ」

「いずれにしろすぐさま調べるべきです。違うなら良し、もしも最悪の想像が現実となるならば……」


 じろりと周囲を見回したエルの視線を受け、思わず怯みを覚える。


「もはやいがみ合っている時間などありません」

「ゆえに……ハルピュイアとの、対話が必要であると?」

「そのように考えます。これから僕たちはハルピュイアと、いいえ。小王たちと和解、あるいは最低でも拮抗せねばなりません。そのためには飛竜戦艦の早急な修復が必要なのです」


 沈黙が下りた。


 様々な可能性が脳裏を駆け抜けてゆく。

 もしも本当に島が沈むようなことになれば? どうやって止めるのか? そもそも止められるものなのか。

 またはこの話が全くの騙りブラフであるならば――。


 にわかに決断を下すにはあまりにも掛け金が大きすぎる。

 常人ならば打てない博打。

 だからこそ、エルネスティはもう一押しを用意した。


「失礼します! 至急、ほーこくがありますっ!」


 突然の横やりが沈黙を貫いた。

 “黄金の鬣”号からひょこりと顔を出したアディがしゅたっと手を上げている。


 まさかこの大事の最中になにごとか。キッドが目に見えて慌てふためいている。

 エルはちらと背後に視線をやって。


「失礼、重要な報告かもしれません」

「構わない。済ませたまえ」


 フリーデグントの許しを得て下がってゆく。


 わざとらしく真面目ぶったアディが、エルの耳元でささやいた。

 わざわざ手をかざし唇の動きも読ませない念の入れようだ。


「……なるほど。わかりました」


 しゅたっと敬礼して船に戻ってゆくアディを送り、エルが戻ってくる。


「たった今、大変良い報せが届きました」

「ほう。それは誰にとって良い報せか?」


 まぁ、パーヴェルツィーク王国にとってではないのだろうなと思いながら。


「我が国より派遣されていた騎士団の主力が、大陸の外縁部まで到達したそうです」


 ざわめきが起こる。


「……この時期に来たか」


 フリーデグントは歯を噛み締める。

 推定、クシェペルカ王国の主力騎士団。

 先遣隊たる“黄金の鬣”号の面々だけでこの戦力だ。主力ともなればどれほどの人外魔境が広がっていることか。


「それでいかがでしょう? 事態の解決のため、互いに手を取り合うというのは」


 エルはにこやかに、可愛らしい微笑みを投げかける。

 受けている側の気持ちをしっかりと理解したうえでやっているのだから性質が悪い。


「これだからコイツを敵に回すのは御免被るんだ……。無策で口を開いた試しがない」


 その隣で、エムリスが密やかに独り言ちた。

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