星に願いを

雪ウサギ

第1話 隣の君

「ん…ここは…」

「良かった、三倉さんここは病院ですよ。」

「病院…?」

なぜ彼が病院にいるか、それは数時間前のことだった。



彼はいつも通りバイトを終え、仲間達と家路をたどっていた。

「じゃ、俺こっちだから!」

「おう!じゃあな、陽太!」

「じゃあね、みっくん!」

皆と方向の違う陽太は、別れの挨拶をして自転車で信号のない横断歩道を渡ろうとした。



――その時だった ――




暗がりの中猛スピードで車が走ってくる。

彼は咄嗟に避けようとしたが、スピードが速く自転車ごと轢かれてしまう。

「っ!陽ちゃん!」

「みっくん大丈夫!?」

突然のことに茫然としていたが、我に返りそちらへ駆け寄る。

自転車を退け、呼び掛けるも返事がない。

「お、俺警察と救急車呼ぶよ!」

「じゃあ私はみっくんの止血する!」

陽太の応答がないことに二人は戸惑うも、急いで行動に移す。

きっと助けたいと思ったのだろう。

そのおかげか彼は一命を取りとめたのだった。


「あ…そういえば車にぶつかったんだっけ…」

ぼんやりと天井を眺めながら呟く。

自分の状態を確認するため、ゆっくり起き上がろうとするも身体に激痛がはしり思わず声をあげる。


「まだ治療したばかりなので安静にして下さいね。ベッドはこれで調節できますから。」

声を聞いた看護師はベッドの高さを少しあげ、横にあるリモコンの存在を伝える。

「ありがとうございます。」

「もしまた分からないことあったら、隣の月ちゃんに聞いてもいいし看護師呼んでくださいね。」

「…隣の人?」

彼がお礼を言うと、看護師は急に横にいる患者のことを話しだす。

「あ、ごめんなさい。病院にいるのが長いからたいていのことを知っててつい。ね、月ちゃん?」

「え…まぁだいたい分かりますけど…」

急にふられ、隣の彼女は戸惑いつつも答える。

「良かった。じゃあ失礼します。」

回答を聞き安心したのか看護師は一礼をし別の場所へ向かっていった。


看護師がいなくなり、少しの間沈黙が続いたが最初に口を開いたのは陽太だった。

「えっと、俺は三倉陽太。よろしくな!」

「あ…私は黒瀬月夜、初めまして。」

「看護師さん、急だったよな。俺達初対面なのに。」

「確かに。」

二人して顔を見合せると自然と笑みがこぼれた。

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