探し人

胡蝶花流 道反

第1話

「見つけた。あなたですね」


 いきなり、見知らぬ少年に声を掛けられた。


「誰なんだ、君…君達は」

 少年の他に2人、連れがいるようだ。

「我々は、貴方に親族を殺された遺族です」

 最初に声を掛けてきた少年より、幾つか年上の少年が答える。いや、今会ったばかりの人間に何を言っているんだ、コイツは。

「観念しなさい、人殺し!誰か、この男を捕まえてぇぇぇ!」

 もう一人の連れである少女が叫びを上げた。おいおい、勘弁してくれよ。


 程なくして俺は捕まった。



「さっきから何度も言っているだろう、俺は無実だって!」

「嘘ついても無駄だよ、おじさん」

 と、少年A(最初に声掛けてきた方の少年)が言う。

「証拠は挙がっているんですよ」

 と、少年B(年長の方の少年)が重ねて言う。

「あんたの持っているその剣よ!」

 と、少女が更に言う。

「この剣、ねえ…」

「そう、貴方の背中にたずさえてある2本の剣…紅き眼の龍の双剣ツインブレイド オブザ レッドアイズドラゴンを持つ剣士…『血塗られた龍の二刀流ブラッディドラゴン デュアルブレイダー』こそ、我々の追っている仇なのです」

 うわ~何、そのクッソ恥ずかしいネーミングは!!全く心当たりの無い事件の犯人にされた上に、そんなカッコ悪い呼び方までされるのかよ…

「ちょ、ちょっと待ってくれ、先ずは話を整理しよう。君達の事情を聞かせてくれ」


 周りの大人達もなだめるのに加勢してくれて、何とか話を聞く事が出来た。

 事件が起きたのは10年前。当時は少年Aが2歳、少年Bが7歳、少女が5歳だったという。

 3人は同じ町の住人で家も比較的近かった。そして町で連続無差別強盗事件が起こっていたのだった。3人共その時に、親や兄弟など近しい人が犠牲になったとの事だ。

 で、その犯人が紅き…ゲフンゲフン、今俺が持っている得物を使っていた。


「それで俺の事を犯人扱いした訳か」

「そうです。何か申し開きがあるなら聞きましょう」

「うむ。先ず10年前、俺は王都で学生をしていた。お前ら、おじさん呼ばわりしてっけどなあ、こう見えてまだ20代だぞ!」

「おじさんじゃないですか」

 ぐぬぬ。少年Aからしてみれば、おじさんかぁ…

「そしてこの剣は3日前に隣町で購入したものだ」

「それって、どっちもあんたが言ってるだけで、証拠がないじゃない」

「剣を買った証文ならあるぞ、ほれ」

「おお、この店なら知っておる、ワシの行きつけじゃ。サインに間違いはない」

 何か知ってる人がいたらしく、助かった。

「と、いう事で、俺は解放してもらっていいよな?今から一仕事しに行かにゃならんのだ」

 

 ガキンチョ3人組が睨んでいたが、気にしないでおこう。



「それではよろしくお願いしますね、用心棒の方」

 何とかあの場を逃げ出せることが出来てよかった、これから大事な仕事をしなければならないのだ。

「商人さん、俺は後ろの荷台の番をしてりゃあ、いいんですかね」

「はい。私は前の馬車に乗っていますので」

 よし、仕事開始だ。


 依頼主の商人に頼まれた通り、積み荷の番をする為乗り込んだのだが…

「おい、隠れているのはわかっている、出てこい」

「え~、何でわかったのですか?」

「だからバレると言ったじゃないか…」

「ま、まだあんたの事、怪しいと思ってるんだからね!」

「・・・頼むから、今すぐ帰ってくれ。ここは危ないんだ」

「僕たち、やっと見つけた手掛かりなんです。とにかく二刀流の剣士自体がほんと、珍しくて」

「…あのさぁここだけの話、俺は二刀流の剣士じゃないんだが」

「え!?」

「なら、何故その剣を?」

「!?やばい、荷台が止まった…お前たち、早く隠れろ!」

「おい、騒がしいけど何か…な、なんだ、その子供たちは!」


 3人組はあっさりと見つかって、拘束されてしまった。

「な、なんか馬車を間違えたらしくて…子供なんで、見逃してやってもいいんじゃないですかね」

 取り敢えず助け船を出しておく。まあ、命までは取らないだろう。

「子供であろうとも盗人は盗人、ここで処分しなさい」

 駄目だ、思いの外面倒臭い、この人。

「商人さん、この子たちは間違って乗り込んだだけですよ、そこまでしなくとも」

「いいや、殺せ!」

「ひぃぃ!」

 少年Aが、急に怯えた声をあげた。

「こ、この声、この言い方!あの時の強盗だ!」

 よく覚えているな、少年B。おっと、感心している場合じゃない。

 従者達もドン引きして狼狽えている。仲間、ではないのか。

「ふん、バレたのでは、仕方がない。用心棒、その剣『紅き眼の龍の双剣ツインブレイド オブザ レッドアイズドラゴン』は私の物です。返して貰おう」

 奴のすぐ傍には子供たちがいる。ここは仕方ない、こちらに目を向けさせねば。

「ほらよ、血塗られた龍の二刀流ブラッディドラゴン デュアルブレイダーさん!俺はンなダサい名前の剣なんざ要らねぇよ!」

 と、叫ぶと同時に背中の双剣を商人に投げつけ、側にいた従者の持つ護身用の剣を奪い、構えた。


「こうなったら、皆殺しですかね…」

 商人…というか、元強盗の男は難なく投げられた剣を受け取り、戦闘態勢を取った。

「ったく、なんでこうなったんだよ、そもそも入った武器屋にあったお手頃な剣がこれしか無かったのが、ケチのつき始めだったぜ…二つセットでお得ですよ~なんて文句にそそのかされて…」

 いや、折角王都の大学を卒業したのに就職先が無く、特技も潰しのきかないモノで、日雇い労働でなんとか食い繋いでいる日々を送っている所からして、ダメダメだ。


キィーーーーーーーン


 男のすぐ近くに居た少年Aに向けられた凶刃を、受け止める。


「なにぃ!?」

「この場にいる奴全員、生きて帰す!」


 男は素早く体勢を立て直した後、両の刃を振り下ろしてきた。それを横にけ、脇に蹴りを入れる。が、かわされる。

 後ろへ飛び間合いを整えると、勢いを付けて左右交互に突き技を仕掛けてきた。思った以上に剣先が伸びてくるのでぎりぎりで避けるが、次は捻りを入れて斜めに振り下ろすようにして両腕で代わる代わる切り続ける。これは剣で捌かないと間に合わない。やはり、二刀流相手に剣一本では手数に押し切られる。

「やばいな、このままでは」

 流石血塗られた龍の二刀流ブラッディドラゴン デュアルブレイダー(笑)と呼ばれるだけはある、こちらも本気で懸からなければ。


「そろそろ仕上げといきますね」

 相手も大技を仕掛けてくるようだ。ポーズを取るような構えをし、集中力を高めている。

「凡俗な剣士如きが、二刀流に勝てるなどと思わないことですね!」

 右足を踏み込んで斜めに捻り、切り付け乍ら遠心力を活かして斬撃を繋ぐ。所謂、回転切りってやつだ。・・・よし、ここで使うか!

「な!?と、飛んだ!?」

 俺はありえない高さまでジャンプし、空中で力を溜める。

「お前はだろうがなあ、使なんだよおぉぉぉぉぉ!!!」

 そして男に魔法を放つ。掌から子供の頭サイズの黒い炎の様な物質を幾つも出し、相手にぶつける。やがて男は昏倒し、その場で倒れた。



「ったく、ついてんだか、ついてないんだか…」

 仕事はオジャンになったが(当たり前だ)、捕まえた強盗殺人犯が高額賞金首だったので、そこそこまとまった金が手に入った。

 さて新しい仕事を探しに旅立たねば、と歩き出した時…


「見つけた。あなたですね」


 ・・・なんか、何処かで聞いた事あるようなセリフが聞こえてきた・・・


「この前は助けて頂いてありがとうございました!とても格好良かったです、是非弟子にして下さい!」

 と、少年Aが言った。

「仇を捕まえて頂いて感謝してもしきれません、貴方に何か恩を返したいのです!どうか連れて行ってください、何でもします!」

 と、少年Bが言った。

「今までの無礼な言動をお詫びするわ。素晴らしい戦いぶりに惚れてしまったの、あたしと結婚して!!!」

 と、少女が言った。


 おいおい、勘弁してくれよ! 


 

 

 



 



 






 

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