なみだ

福守りん

なみだ

「二刀流だった」

 はたが、またわけのわからないことを言っているなと思った。

「なんの話? 剣豪とでも知りあった?」

「ちげーよ。バイセクシャルのこと」

「最初っから、そう言えよ」

「バイがゲイに近づいてくんじゃねーよって思うのは、わがまますぎ?」

「いや。そんなことないだろ」

 俺はいわゆるストレートなので、幼い頃からゲイの自覚があったという畑の気持ちは、実のところ、あまりよくわからなかった。

 畑は、人目をひく容姿をしている。まあ、要するにイケメンだ。

 対して俺はというと、ごく平凡な姿かたちをしている。それでも、恋人になってくれる女性は、さほど苦労せずに見つけられてきたので、畑の苦労については、どこか遠い国でのできごとのように感じていた。

「つきあってみればいいのに。好きだった? そうでもない?」

「好きだったよ。だけど、俺と同じように、女が好きなんだろ。いやだよ」

「ふーん……。もったいないような気もするけど。相手は、畑のことなんて?」

「『かわいい』って。犬猫にだって、言える台詞だよな」

「男がかわいく見えるだけで、じゅうぶん必要条件は満たしてないか?」

「うっせーな。真島には、わかんねーよ」

 ふてくされている。

「わからないよ。お前の心もようなんて。

 なぐさめてほしいのか? それとも、励ました方がいい?」

「どっちも、いらない。俺がもやもやしてるってことだけ、感じてくれれば」

「感じたくないな。それ」

「いいんだよ。あーあ。ゲイに、自然な出会いなんて、ねーのかな」

 めずらしく弱気になっているらしい。


 コーヒーを入れてやった。「苦い」と言いながら飲んでいた畑が、ぽろっと涙を落とした。

「泣くなよ」

「見なかったことに、しろよ」

「……ごめん」

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なみだ 福守りん @fuku_rin

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