第115話


「新しい発見?」


聞き返す俺に、アンジェラは俯きながら答える。


「あたし、十年以上冒険者やってきてさ…最初の頃はうまく行ってたんだ。経験を積んで、どんどん強くなって…稼げる金もどんどん増えて…でも最近よ…なんだか成長してるって実感がなくてよ…ここが私の限界なんじゃないかって、思い始めたんだ」


「…」


「そんな時に出会ったのがあんただよ、アリウス。さっきの群れを一発で始末してしまった魔法。あんなの見たことない。アリウスの魔法はあたしのそれの何段も上だ。学ぶべき点がいっぱいある。だから……頼むよアリウス。お前のこの安全地帯での任務とやらに同行させてくれ」


「勘弁してくれよ、アンジェラ」


俺は頭をかいた。


俺は帝国魔道士団の団員で、いわば帝国の諜報員でもある。


そんな俺が、他国の今日会ったばかりの冒険者と一緒に行動するなんてあってはならない。


もし上層部にバレれば、俺はたちまち帝国魔道士団を追い出されるかもしれない。


「お前と一緒に行動はできない。バレたらどうなるか…」


「ここへはお前一人で来たんだろ?違うのか?仲間が他にも潜伏しているのか?」


「いや…そう言うことではないが…」


そう言って俺ははっと口をつぐむ。


この安全地帯での任務に俺一人で当たっているという事実も非常に重要で隠すべきものだった。


それを簡単に他人に漏らしてしまった。


あまりに不注意だがもう遅い。


…まぁアンジェラには正体をすでに明かしているので今更感はあるが。


「それならいいじゃねぇか。あたしだってそれなりに自分の戦闘力に自信がある。足手まといにはならない!!頼むよ!!」


「…ダメだ。そんなの絶対にダメだ」


「どうしてだよ!?あたしだって何かの役に立つかもしれないだろ?アリウス。あんたの相手は何人なんだ?数人か?数十人か?巨大組織なのか?」


「それもわからない。突き止めるために俺はここにきた」


「だったら……敵の規模が未知数なら、仲間はいた方がいいだろ?」


「そ、それはそうかもしれないが…」


説得されかけた俺は慌てて首を振る。


アンジェラの口車に乗せられては行けない。


「頼む。頼むよアリウス…!!一生のお願いっ!!」


「こ、子供みたいなこと言うなよ!?はぁ……どうすっかなぁ…」


俺はボリボリと頭をかく。


アンジェラの意志は固いようだ。


ほとんど説得が不可能なほどに。


俺はいっそ走って行方をくらませようかと思う。


だがあたりは人混みで、全力で走れるような場所じゃなかった。


それに、それなりの実力を持った冒険者であるアンジェラをそう簡単に振り切れるとも思わなかった。


「ど、どうしてもあたしを連れて行かないってんなら…考えがあるぜ、アリウス」


「…?」


「聞いてくれみんな!!ここにいるこの男はな…帝国まど」


「何してんだ!?!?」


突然俺を指差して大声を出したアンジェラ。


俺は慌ててアンジェラの口を塞ぐ。


「ん?」


「お?」


「なんだぁ?」


周りを歩いていた何人かが一瞬足を止めて怪訝そうにこちらを見る。


俺がなんでもないと言うように首を振ると、不思議そうにしながら去っていった。


俺はアンジェラを睨みつける。


「何してんだよお前!?絶対に言わないって約束したろ!?」


「アリウスがあたしに意地悪するからだろ!!ここまで一緒に旅した中のあたしを無碍にするなよ!!」


「そんな無茶な…」


俺とアンジェラは、単に依頼主と案内人の関係だったはずだ。


少なくとも俺はそのつもりだった。


なのにいつの間にか旅の共みたいに思われていたらしい。


「どうするんだ?アリウス。あたしを連れて行かないと、あたしはあんたが帝国魔道士団の団員だってあれかにd喋っちまうかもしれないぜ?」


「やめろ…もしそんなことをしたら…」


俺は脅すようにアンジェラを睨みつける。


だが、アンジェラは全く動じない。


「なんだ?あたしを殺すってのか?やれるものならやってみろよ!!」


「…!?」


「あたしはこれでも人を見る目はあるんだ。アリウス。あんたはこんなことであたしを殺せるような人間じゃない。そうだろ?」


「…」


慣れないことはするものじゃない。


はぁ。


俺は疲労の吐息を吐いた。


どうして俺はこう、行く先々で面倒ごとに巻き込まれるのか。


これは体質か何かなのか?


「わかったよ、アンジェラ。同行を許可する」


逃げ道を封じられた俺は、そう言うしかなかった。


アンジェラが俺のことを不特定多数に言いふらすよりは、足手まといになるかもしれないアンジェラを同行させた方が良さそうだ。


それにアンジェラの弁じゃないが、今回の任務で敵となる集団がどの程度の規模なのかは全くの不明だ。


戦闘職が一人でも仲間に加われば、助けられることもあるかもしれない。


「よし!!そうこなくっちゃ!!」


アンジェラが飛び跳ねて喜びを表現する。


俺はどっと襲ってきた疲労に肩を落としながら、はしゃいでいるアンジェラにいった。


「言っとくが、依頼料は払わないからな?それでもいいか?」


「もちろんだ!!よろしくな!!アリウス!」


「…おう」


こうして俺は、安全地帯での任務をアンジェラとこなすことになったのだった。




〜あとがき〜


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