第112話


「なんだ?」


「おい、マグナス。気をつけろ。なんか嫌な予感がするぜ」


長年冒険者をやって培った勘だろうか。


アンジェラが前方を警戒しながらそう言った。


「…同感だ」


そして俺自信、そんなアンジェラに共感していた。


面倒ごとの気配がする。


引き返すのか、それともこのまま進むのか、早めに決めたほうがよさそうだ。


「何つー運の悪さだ…マグナス。ここには分岐が存在しないぜ」


アンジェラが周りを見渡しながら言った。


入り組んだダンジョンの通路は、枝分かれしていくつも進む道があることが大半だ。


しかし、タイミングの悪いことに今俺たちが進んでいる通路は、前方にただひたすらまっすぐ伸びているだけの一方通行の道だった。


嫌な気配が前方から迫ってくるなら、脇道にそれればいい、とそんな簡単な話ではなさそうだ。


「参ったなぁ…引き返すか…?どうする?」


「俺たちは随分この長い一方通行の道を進んでいる。引き返して分岐点まで戻るのは時間がかかるんじゃないか?」


「そうなんだよなぁ…」


アンジェラが難しそうな表情になる。


「もし俺のことに気を遣ってるなら、その必要はないぞ。自分の身くらい自分で守れる」


「本当かぁ?」


アンジェラが訝しむような視線を俺に向けてくる。


俺の実力を疑っているようだった。


「本当だ。仮に命を落としても、それはお前の責任じゃない。遠回りになるぐらいならこのまま進もう」


「わかったよ…ただ、忠告しとくぜ?あたしはできる範囲で極力あんたを守るけど、自分の命が危険に迫ったら真っ先に逃げるからな?それでもいいな?」


「構わない」


むしろそうしてくれた方が俺としては気が楽だ。


「よし…そういうことなら」


アンジェラがニヤリと不敵に笑った。


「この先に進もう」


そうして俺たちは、道を変えることなく前に向かって進み始めた。



「だから言っただろうがぁあああ!!!」


「うーん…なんかすまん…」


結論から言おう。


二人の嫌な予感は見事に的中していた。


「た、助けてくれぇえええええええ!!誰かぁああああああああ!!!」


道を変えずに一方通行のダンジョンの通路を進んでいった先に俺たちを待ち受けていたのは、モンスターの大群から逃げる冒険者パーティーだった。


3人組の男が、背後から迫る数十匹のモンスターの群れに追われ、俺たちの方向に逃げてきていた。


「こ、こりゃ数が多い…!!逃げるぞマグナス!!」


モンスターの群れの数を見て俺を守りきれないと判断したのか、アンジェラは撤退を即決する。


だが、俺はこの程度のモンスターなら簡単に倒せるため、面倒を取って実力を隠すか、それともモンスターを全滅させて、最短距離をいくかでで逡巡してしまった。


その迷いがいけなかった。


「お、ラッキー」


「冒険者だ」


「あいつらになすりつけよう」


モンスターの群れから逃げて俺たちの傍を通り過ぎた冒険者たちが、激臭のする玉のようなものを俺たちの足元に投げた。


「臭いっ!?何だこれ!?」


「あ、あいつら…!!あたしらにモンスターをなすりつけやがった…!!」


「どういうことだ?」


「こ、この匂いはモンスターを誘き寄せちまうんだ…!!群れの標的はあの3人からあたしらに変わったぞ…!!」


なんと前方から逃げてきた3人は、モンスターを誘き寄せる効果のある臭い玉を使って俺たちに群れのターゲットを変更させたのだ。


『グギャァアアアアア!!!』


『グォオオオオ!!!』


『ギィギィギィギィ!!』


『ピェエエエエエエエ!!!』


かくしてモンスターは、臭い玉の匂いが付着した俺たちを目指して突進してきた。


「ど、どうするんだこれ…?どうにかならないのか?」


「む、無理だ…!こうなったら連中どこまでもあたしらを追いかけてくるぞ…!くそ!!だから引き返すべきだと言ったんだぁあああ!!」


「なるほど…つまりはもうモンスターを倒すしかなくなったわけだ」


「…は?マグナスお前、何言って…」


取るべき選択肢が二つから一つに減った。


つまりすべきことが決まったわけだ。


もはや実力を秘匿している場合ではない。


俺は迫り来るモンスターの群れに向かって力を解放した。


「ファイア・トルネード」


『『『グギャァアアアアア!?!?』』』


モンスターの群れが炎の嵐に絡みとられ、ダンジョンの天井近くまで舞い上がった。


「はぁあああああああ!?!?」


隣ではアンジェラが驚きの叫び声をあげたのだった。




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