第97話


「卒業しても一生友達だよ!?約束だよ!?」


「うん!!もちろんだよ!!」


「俺たちこれからもダチ同士だよな!?」


「当たり前だろ!?」


「くっ…正直気取ったこの魔法学院…あんまり好きじゃなかったのに…なのになんでだよ…目から流れる水が止まらねぇよ…!?」


「俺もだ…!!いざ卒業ってなると…実感がねぇ…くぅ…」


あちこちで生徒が抱き合ったり、涙を流したり、一生の友情を誓い合ったりしている。


前の世界でのいわゆる卒業証書にあたるエンブレムを手にした俺は、そんな生徒たちの様子を眺めながらシスティ、ヴィクトリアと歩いていた。


「なんだか感慨深いですわね…」


この世界でも卒業式の光景ってのは似たような感じなんだなぁ、なんて感想を思い浮かべていると、ヴィクトリアがしみじみそう言った。


「そうだね…まだ私、実感ないかも…明日朝起きたら、ここにきちゃいそう」


システィも同意する。


「二人とも、泣かなくていいのか?」


俺も名残惜しくはあるものの、前の世界の記憶もありこれが初めての卒業式ではなかったため、二人を茶化す程度の余裕はあった。


「愛着はありますけど…泣くほど悲しいわけでもな

いですわね。来ようと思えばいつでも来れるし」


「私は…ヴィクトリアとアリウスくんと一緒に居られれば、それでいいかな。えへへ」


「おう…そうか…」


案外淡白な二人だった。


まぁ、しかし俺も同意見だ。


この三人が集まれば、俺たちにとってそこが帝国魔術学院の教室ということになる。


『三人の進路が同じであることはすでに互いが知っている』ことだし、涙は本当の別れの時に取っておいた方がいいだろう。


「でも…二人は本当によかったのか?俺と一緒に……『あそこ』を目指すってのは…」


卒業日の光景の中を歩きながら、俺は二人にこの先のことについて話題を振る。


「もちろんですわ」


「今更二人と離れることなんて考えられないよ」


半年前、俺が二人に卒業後の進路を打ち明けた時、二人は迷うことなく俺と同じ道を目指すことに決めた。


そして今も、その意志は変わらないようだ。


ちょっと心配になって尋ねてみたけれど杞憂だったな。


「そうか…それならこれからもよろしくな」


「ええ…あなたは強いですが抜けてるところもありますから、私がみていてあげなきゃですわ」


「わ、私も…アリウスくんが心配かも…」


「おいおい…俺はそんなにうっかりさんなのかよ?」


俺たちは笑い合いながら、握手を交わす。



「お…やってるな」


それから五日後。


俺は黒のドレスコードで、とあるホールへとやってきていた。


そこらじゅうに美味しそうな食べ物が並び、着飾った青年たちが行き来するそこは、帝国魔術学院卒業パーティーの会場だった。


「お…アリウス…!!」


「来たかアリウス!!」


「ビシッときまってるな、アリウス!!」


会場に入るや否や、俺の姿を認めた数人の生徒がそんなふうに声をかけてくる。


「お前らもな。卒業おめでとう」


俺はそんな同級生たちに笑みを返して、ホールの中心へ向かって歩く。


「システィとヴィクトリアは…」


当たりを見渡して二人を探す。


会場に着いたら一度三人で顔を合わせようということになっていたのだが…


「これだけ広いとなかなかみつけ」


「アリウス」


「アリウスくん!!」


「お?」


人でごった返した会場を眺めて、二人を探すのは大変そうだと思った途端に背後から声をかけられた。


振り返ると、そこにはドレス姿のシスティとヴィクトリアがいた。


二人ともドレスと宝石で着飾り、化粧もしていていつもとは比べ物にならないぐらいに綺麗になっている。


「お前らもう来てたのか」


「えぇ…少し前に」


「う、うん…ちょっと早く着いちゃって…」


二人は何やらモジモジとしながら俺を見ている。


「そ、その…アリウス…?私たち、どうですかしら…?」


「アリウスくん…頑張って着付けたんだけど…似合ってるかな?」


「もちろん。二人とも綺麗だぞ」


「「…!」」


俺がそういうと二人とも安心したようにため息を吐いた。


「アリウス。あなたも似合っていますわ」


「うん!すごくかっこいいよ!」


「おう、ありがとな」


俺は二人に礼を言って、それから会場内を改めて見渡した。


「すごい数だな…まさかここまで人が多いとは」


「卒業生の両親や教員、帝国機関の職員とかも訪れているのですわ」


「帝国機関の職員…?」


「今のうちに卒業生に唾をつけておこうってことじゃないかな、アリウスくん」


「なるほど、そういうことか」


見覚えのない人たちの姿も見受けられると思ったら、外部の人間もきているらしい。


「ひとまず食べるか…喉も乾いた」


「そうですわね」


「う、うん…!私たちもアリウスくんがくるまで待ってたからお腹すいちゃった」


「先に食べててもよかったんだぞ?」


俺たち三人は、しばらくの間、美味しい食事と飲み物を楽しむ。


「あ、あれ見てアリウスくん…!」


「ん?」


「ダンスが始まるみたいですわね」


システィが指差した方を見れば、オーケストラたちがやってきてクラシカルな演奏を始めた。


すると卒業生たちが、中心に歩み出て、静かに体を揺らし始めた。


卒業生のほとんどは特権階級の娘息子たちだ。


ダンスの心得もあるらしく、男女のペアになって腰や片手に手を当てて、優雅に体を揺らしてリズムを刻んでいる。


「アリウス。次の曲、行きますわよ」


「え…!?まじ…!?」


「あ、アリウスくん…ヴィクトリアの後に、私も…」


「お、おう…」


二人にダンスに誘われ、途端に緊張してくる俺。


一応こういう時に困らないようにとダンスマナーも一通りシルヴィアから習っていたが、しかしうまく踊れるかどうかはわからない。


なんとか今踊っている生徒を手本にしようと、俺は食い入るようにダンスを見つめるのだった。

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